「反転攻勢」

画像の説明 安価な中国製品が支配する太陽電池市場で、日本メーカーが反転攻勢の機会をうかがっている。

技術的には優位を保っており、次世代電池の開発で劣勢をはね返そうとしている。開発は実用化が視野に入る段階まで前進しており、数年後には状況が一変する可能性もある。

太陽電池といえば、ガラスに覆われたパネルを思い浮かべるが、その太陽電池はシート状をしている。厚さは1ミリ以下。自由に折り曲げたり、たたんだりできる。

三菱ケミカルホールディングス傘下の三菱化学が開発中の有機薄膜太陽電池だ。

材料は太陽電池で一般的なシリコンではない。炭素などの有機物を、ガラスではなくフィルムの上に印刷して作る。薄い上、大がかりな製造装置が不要で、価格も抑えられる。

そのうえ透明にしたり、自由に色をつけたりすることもできる。このためデザインを損なうことはなく、あらゆる用途に使えるという。

たとえば、この電池でビル1棟を丸ごと覆ってしまうことが可能だ。

大成建設が横浜市に昨年建設した3階建ての実験施設「ZEB実証棟」は、電力を“自給自足”できるのが売りだが、外壁に三菱化学の有機薄膜電池を使っている。年内にはスリーエムジャパンと窓の内側に貼るタイプの販売も始める予定だ。

ほかにも電気自動車(EV)の屋根に貼り、動力源にするといった使い道が考えられている。

有機薄膜電池は、東レも2018年ごろの実用化を目指している。同社は室内に設置し、太陽光ではなく蛍光灯やLED(発光ダイオード)照明の光で発電することを想定している。

有機薄膜電池は、照明を光源にしても光エネルギーを電気に変える能力が落ちにくい。このため、室内に置いておくだけで、一定の電力をまかなえる。小型化もしやすく、電卓と同じようにスマートフォンに搭載される可能性もある。この電池も折り曲げることが可能で、同社は「顧客の要望次第で外壁用なども考えたい」と話す。

曲がる太陽電池は、ほかにも昭和シェル石油子会社のソーラーフロンティアが18年に発売する計画。やはりフィルム基板を使い、材料もシリコンではなく、銅とインジウム、セレンから成る化合物だ。

太陽電池市場では、2000年代半ばまでシャープなどの日本メーカーが世界上位を占めてきた。しかしその後、自国市場拡大の追い風を受けたドイツの新興メーカー、Qセルズがシャープから世界首位の座を奪い、さらに人件費の安い中国などのアジア勢が躍進した。

シリコン系の太陽電池は半導体同様、製造装置があれば技術があまりなくても作れる。このため、人件費の差で勝負がつくケースが少なくない。

人件費で分が悪い日本や欧米のメーカーは、次々に事業継続を断念。シャープは大半を外部調達に切り替え、Qセルズは昨年倒産した後、韓国のハンファグループに吸収されている。

一方、日本では、2012年に導入された再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)が追い風となり、太陽光発電が急速に普及。メガソーラーバブルともいえる状況になったが、これによって一部電力会社で系統電力の負荷が増大。昨年秋には九州電力が送電網への接続を保留する事態となり、バブルは一気に弾けた。

一方、買い取り価格が引き下げられて、安さが重視されるようになり、アジア製品が流入。日本メーカーは軒並み業績を悪化させ、自国市場すら失おうとしている。

IHSテクノロジーの大山聡主席アナリストは「価格競争力で劣る日本メーカーが巻き返すのは難しい」と予測する。

まさに正念場だが、活路はある。

メガソーラー建設が相次いだことで、平地が少ない日本では設置場所確保が難しくなりつつある。

先日の鬼怒川洪水は、太陽光発電事業者による土手付近の掘削が被害拡大をもたらしたと指摘されているが、そこでも設置場所の問題が見え隠れする。新たな設置場所を開拓できる次世代電池は、そうした問題の解決に道を開く。

海外では日本ほど場所に困っていないが、いずれは同じ課題に直面するとみられる。さらに、太陽電池のシリコンは大半を中国から輸入している。シリコンを使わない次世代電池の普及が進めば、資源外交に振り回されるリスクも減らせる。

三菱化学の関係者は「中国メーカーには簡単には作れない」と自信をみせる。再び市場を支配するまではいかなくとも、一矢報いることはできそうだ。

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