「邪魔者?」

画像の説明 民事再生手続き中のスカイマーク。

同社を破綻へ導いた一端が最新鋭の超大型旅客機のエアバス「A380」だ。就航当時は“空飛ぶホテル”として、もてはやされたものの、現在では燃費効率の悪さや、運用の難しさもあり世界でお荷物扱いを受けている。大型機受難の時代、A380の行く末は-。

誰も買わない「不人気機種」

「あんな飛行機、どこも買わないよ」。航空大手の関係者はA380についてこう強調する。スカイマークはエアバスと6機の購入契約を結んだが、カタログ価格は当時の為替相場で1機約280億円。

スカイマークはエアバス社と6機の購入契約を結んだ。このうち完成したものの、経営悪化で引き渡せない状態になった2機を含む総額約850億円が債権として重くのしかかっている。

もし、スカイマークがキャンセルしたA380の引き受け先ががすんなり決まっていれば、同社の再建も今のように長期化しなかった可能性も高い。ここまで問題を引きずった要因はA380が「不人気機種」だからだ。

航空機は発注から受領までの期間に数年かかることもある。このため、発注後の航空会社の業績や、事業環境次第でキャンセルになるのは珍しいことではない。こうした場合、宙に浮いた航空機は多くのケースで別の航空会社やリース会社に転売される。あるいは発注した航空会社が一度受領し、他の航空会社にリースする方法もある。

それでもA380はあまりに不人気すぎて「買い手や、借り手なんてある訳がない」(同関係者)という。

実際、世界の航空会社で導入を決めたのは約20社で、総受注数は約300機。このうちドバイのエミレーツ航空が未受領機を含めて約140機を発注している。このほか独ルフトハンザ航空、タイ航空、エールフランス、豪カンタス航空などがすでに導入している。

ただ、ここ数年のA380の受注は低迷。リース会社、ルフトハンザ航空、英ヴァージンアトランティック航空などでキャンセルも発生している。

年間売上高800億円前後だったスカイマークが、A380の購入契約を結べたのも、買い手がめっきり減っていたエアバスにとっては「渡りに船」だったという事情もあるだろう。

今ではまるでお荷物航空機の象徴のように扱われるA380だが、そのデビューは華々しいものだった。初飛行は平成19年。日本にはシンガポール航空がシンガポール-成田線に投入した。総2階建てで座席は最大800席以上確保できる。

就航当時はシャワールーム、ラウンジ、バーなどこれまでにない施設や設備も設置できるとし、“空飛ぶホテル”として注目を集めた。国内の航空関係者からも「かつての日本なら真っ先に導入していた」の声も上がった。

スカイマークにとってもA380は成長戦略の起爆剤となるはずだった。破綻前のスカイマークといえば「上から目線」のサービス方針を掲げたり、キャビンアテンダントのミニスカートが物議を醸すなど騒動が多かった。そんな中でA380の導入により、「低価格」から「高付加価値」への戦略変更が大きな注目を集めたのは事実だ。

当時、スカイマークのこの大きな買い物には、航空関係者から「無謀すぎる」との声が噴出したが、その半面で「最近の航空会社は同じサービスばかりで個性がない」と期待をかける航空ファンもいた。

実は国内でも全日本空輸がA380の導入を前向きに検討していた時期がある。20年夏に社内に機種選定委員会を設置し、ほぼ発注も決まっていたが、その直後にリーマン・ショックが襲来。

業績が落ち込んだことや、世界の航空需要の見通しが悪化したことで、白紙に戻った。「もし、あの時導入していたら、今頃は大変なことになっていただろう」とANA関係者は打ち明ける。

大量輸送時代は終焉

なぜここまで不人気なのか。一つは、大量輸送の時代の終焉(しゅうえん)というニーズの大きな変化だ。航空機による移動が身近になり今は小型機、中型機で多頻度運航するのが主流だ。

A380が就航する空港には3000メートル級の長い滑走路が必要なことや、総2階建てに対応した搭乗橋(ボーディングブリッジ)も必要だ。日本国内でも成田、関西、中部など就航先は限られる。発着枠が少なかった時代には大型機は重宝された。だが、中型で燃費効率の良い他の機材が出てきていることや、利便性向上の点からも中小型機で多頻度運航する方が使い勝手がいい。

また、実用性にも難がある。巨大な機体の大きさに比べて搭載できる貨物量が少ないことだ。機体胴体は総2階建てのため、上に盛り上がるような形になっているため、胴部(ベリー)に搭載できるコンテナ量が少ない。

一方でライバルであるボーイングの大型機、B747は最新機種として747-8が登場。当初は初受注までに時間はかかったが、貨物型を日本貨物航空から受注した。初号機が旅客機でなく、貨物機という異例のデビューを遂げたが、その後も地道に受注を獲得し貨物機としても活躍できる機種として存在感を発揮している。

A380は貨物専用機も合わせて開発されていたが、現在は開発が中断。航空会社から一度は受注したものの、その後キャンセルされて受注がゼロになったため中断されそのままの状態が続いている。

絶滅した恐竜のような運命に…

年に一度、航空機メーカーと航空会社の大商談会として開かれるのが航空ショーだ。今年6月のパリ航空ショーではエアバスが421機、ボーイングが331機とそれぞれ多くの受注を獲得した。

これに対し、A380の受注はゼロ。エアバスとして面目を保っているのは、大型機A350が現在世界で運航されている大型機のB747、B777、A340の後継機として順調に受注を伸ばしていることだろう。

航空機は巨額な開発費がかかる。1機種あたり300~400機の製造・販売が採算ラインといわれ、A380はまだ苦しい状態が続いている。

果たして空飛ぶホテルとして再び注目される日がくるのか。はたまた、巨大過ぎたゆえに絶滅した恐竜のような運命をたどるのか。航空関係者、ファンがその航跡を見守っている。

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