「軍事力」

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軍事的観点から言えば、中国は「紙の龍」であり、見掛け上は強いが、自国近海から遠く離れた場所で起きている出来事への介入には無力だ。

中国の戦略的目標や軍事的手段、それらが周辺諸国や米国、既存の世界秩序に与える脅威を理解する上で重要だ。

米国防総省が中国の軍事力を分析した最新の年次報告書によれば、中国政府の目標には「大国としての地位を確保し、最終的には地域での優位性を取り戻すこと」が含まれている。

中国は世界的に部隊を展開する軍事大国ではない。事実、現時点ではそうなることを望んでもいない。

しかし、だからと言って、世界最大の人口を抱える国が、地球上で最も裕福かつ強力な国に脅威を与えていないわけではない。

米国と中国は対立しているのだ。その主たる理由は、中国が西太平洋での領有権主張を強めていることであり、そうした中国の姿勢が、米同盟国ならびに米国を中心に築いた戦後経済秩序への脅威になっているからだ。

ただ中国にはまだ、世界的な戦線で米国と肩を並べる力はない。中国には、世界で戦うための軍事理論や専門知識や装備が欠けている。中国軍に近年の実戦経験は乏しく、その結果として訓練は非現実的なものとなっている。

中国の陸海空軍には新たな装備が惜しみなく使われるだろうが、その多くは、中国政府のハッカーらが米国などから盗んだ設計図を基に作られたものだ。また、そうした装備の大半は実戦での厳しさを経験しておらず、実際にどの程度使い物になるかも分からない。

しかし、それは問題にならないかもしれない。中国は米国とは違い、世界規模での軍の展開や戦闘には関心を持っていないからだ。中国が準備しているのは、経験不足の軍隊でも対応が容易な国境沿いや周辺海域での戦闘だ。

軍事的なハンディキャップがあったとしても、自国の「庭先」でなら中国も米国に勝てるかもしれない。

重要なことは、それに対して米国防総省がどの程度関心を払っておくべきかだ。

<積極防御>

1930年代から40年代の日本による侵略と占領は、それ以降の中国に計り知れない影響を与えた。1980年代半ばまで、中国の軍事戦略は1つの大きな不安、つまり新たな侵略に対する警戒に集中していた。この場合はソ連による陸路での攻撃だ。

この脅威に対応するため、中国軍は防御的な地上部隊に注力していた。要するに、人と鉄でできた「万里の長城」だ。

ソ連からの脅威が後退するのに伴い、中国共産党は1985年に国防戦略を見直した。そこで掲げられた「積極防衛」主義は、戦争を中国本土から遠ざけることを狙ったものだ。戦略の焦点は、中国西側の国境から、台湾海峡を含む東側の近海に移った。

しかし、新たな戦略も主として防御的だった。実際、中国海軍は「攻撃されない限りは攻撃しない」と主張した。注目すべきは、中国共産党の目線では、台湾の独立宣言は中国の主権に対する「攻撃」であり、台湾に対する報復攻撃を正当化している点だ。

30年後の現在、つい最近までは領有権を主張していなかった島々にまで対象を広げているにせよ、中国が取り組んでいる戦略が近海防御であることに変わりはない。

そうであるからこそ、経済が花を開いてから防衛費に数千億ドルを投じているにもかかわらず、中国は依然として主に近距離の防御的兵器を求めているのだ。

中国は米国に次ぐ世界第2位の戦闘機保有国だが(米国2800機、中国1500機)、遠隔地での戦闘を可能にする空中給油機が少ないことも、それで理由がつく。

一方で米国は、空軍と海軍と海兵隊で合計500機以上の空中給油機を保有している。なぜなら、米軍は世界中で戦っているからだ。

同様に、中国海軍も巨大ではある。戦艦保有数は約300隻で、米海軍が就役させている500隻に次ぐ多さだ。しかし、空軍と同じように中国海軍も主眼は近海防衛だ。艦隊の航続距離を伸ばす洋上補給艦は6隻しかない。一方、米海軍はこうした補給艦を30隻以上保有している。

近距離戦力を重視した結果、中国軍は本土から離れれば離れるほど、戦闘の効率が落ちることになる。また同盟国がほとんどない中国は、紛争時に頼りにできる外国の基地もほとんどない。対照的に、米軍は世界中に数百カ所の活動拠点を持っている。

中国軍は、仮に米国の「庭先」で米軍と対峙したいとしても、単純に太平洋を渡ることができない。一方で米軍は、中国の領海や領空から数マイル圏内で定期的に巡視活動を行っている。

しかしながら、西太平洋では、中国は米軍の存在を脅かしている。防御的で近距離中心の海軍力と空軍力を有しているということは、裏を返せば、比較的狭い範囲に大規模戦力を短期間で集中できることを意味する。中国は質より量で勝負できると言えよう。

対照的に、世界中で活動している米軍は通常、特定の地域には限られた数の艦船と航空機しか展開できない。数量面で圧倒的に優位に立たれれば、米軍の艦船と航空機が1対1では中国軍に勝るとしても意味はないかもしれない。

米シンクタンクのランド研究所は2008年に行った分析で、台湾周辺での空中戦では、中国軍は米軍に対して大きな数的優位を持つと結論づけている。

中国側がどれほど優位に立つかは、米軍が嘉手納基地(沖縄県)かアンダーセン基地(グアム島)のどちらから戦闘機を出動させるかに依存する。ランド研究所は「嘉手納から出撃すれば3対1、アンダーセンからなら10対1で中国が優位に立つ」と指摘。さらに、米軍機は技術的には中国機より優れているが、10倍優れているわけではないと警告している。

<第二列島線>

しかし、中国の戦略があくまで防御的であるなら、米国が戦闘で中国に負けるリスクを負うのは、米国が先に攻撃を仕掛けた場合のみとなる。果たして、米国は中国に攻撃を仕掛けるだろうか。

それは「攻撃」をどう定義するかによる。中国本土に対する攻撃は極めて考えにくい。ただ、米国を含む多くの国は、自国の利益に対する攻撃を、自国の領土に対する攻撃と同等とみなす。そして中国はますます、自国の利益の定義および領有権の主張範囲を広げている。

一例を挙げれば、もし台湾が公式に独立を宣言すれば(間違いなく台湾は完全に独立しているが)、中国は台湾に武力侵攻するとしている。中国はまた、東シナ海で日本と、南シナ海では台湾、ベトナム、マレーシア、フィリピン、ブルネイと領有権をめぐって対立している。

こうした問題は新しいものではないが、経済力と軍事力の拡大に伴って中国は主張を強めている。2014年後半からは、中国が南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島で埋め立て工事や人工島の建設を進め、係争国間で緊張感が急速に高まった。

軍事目的もある人工島の建設は、領有権問題の平和的解決をますます難しいものにしている。

米国は日本やフィリピンや台湾と軍事同盟を結んでおり、ベトナムとも連携を強化している。また、自由貿易の要である航行の自由を守ることにもコミットしている。上記の国のいずれかが中国と戦火を交える事態になれば、米国も巻き込まれる可能性がある。そして中国の「庭先」では、中国軍の近距離戦力が最も有効だ。

自国周辺での戦闘においては、中国の軍事力は侮れない。ただ自国から遠く離れた場所で米軍と戦うのなら、中国軍は圧倒的に不利だろう。

米国に課せられているのは、西太平洋を中国に明け渡すことなく、中国の思い通りの戦争に突入するのは避けることだ。それはつまり、軍事的圧力を後ろ盾にした交渉を意味する。米国防総省は年次報告書で「米国は中国との間で、アジアおよび世界の安全と繁栄を促す建設的関係の構築を模索している」とした。

さらに同報告書には「同時に、米国は中国と競争する分野があろうことも認識しており、米国はこの競争に強い立場で臨むことを強調する」と書かれている。

しかし、このアプローチには虚勢も含まれている。中国の行動が米国の利益に深刻な脅威をもたらす地域でのみ、米国は強い立場を保とうと努力している。中国は、明白かつ控え目な戦略的目標に対し、十分過ぎるほどの戦力を注意深く組み合わせてきた。

それは、強力な組み合わせだ。

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