「実像」

画像の説明 国際化は「夢のまた夢」か 上海株暴落時のなりふり構わぬ介入に“疑念”

「人民元を中国本土と海外でやり取りするだけでなく、当行の専用口座であれば海外からの人民元調達枠を一気に増やせます」
三井住友銀行の担当者がこう顧客にアピールするのは、同行が今春、上海の「中国(上海)自由貿易試験区」に進出する企業向けに開設した「自由貿易(FT)口座」だ。

中国は、企業や金融機関による国外からの人民元の持ち込みを厳しく規制し、自由貿易試験区に進出する企業でも資本金の1倍までに制限している。しかし、FT口座なら資本金の2倍まで認められる。

財務省の平成27年上期の統計によると、アジアから輸入する際の決済通貨はドル72.5%、円23.5%に対し、人民元は1.4%にとどまる。ところが、みずほ銀行によると輸入時の貿易決済を含めて日本から中国に送金される通貨はドル7割、円2割に対し、人民元も1割を占める。

「現地では円より人民元の方が使い勝手がよい」(みずほ銀行)ためで、大手邦銀は中国政府が進める金融制度の規制緩和を商機ととらえ、人民元サービスの拡充にかじを切った。

三菱東京UFJ銀行は昨年、同じ企業グループ内なら中国内の複数の拠点と日本本社との間で発生する多くの貿易決済の集約が中国全土で認められるようになった規制緩和を受けて、いち早く一元管理の集中決済システムの提供をスタート。

オムロンが中国の現地法人20社に適用し、コスト削減につなげた。みずほ銀行も、中国に滞留する余剰資金の日本への送金や、日本で調達した資金の中国への送金が自由になったことに対応する資金管理サービスを提供、半導体大手のルネサスエレクトロニクスが採用している。

日系企業の実需の広がりを背景に、3メガバンクが扱う中国と国外との人民元決済は2012年度から14年度の間に件数で3倍、金額で2倍に膨らんだ。

財務省の関税・外国為替等審議会外為分科会のメンバーを務める、全国銀行協会の佐藤康博会長(みずほフィナンシャルグループ社長)は、東京国際金融センター構想に触れ、「人民元のプレゼンスを生かしながら、円を幅広く使える通貨にしていくべきだ」とも強調する。

だが中国の規制緩和に伴う商機は、あくまで習近平政権の手のひらの上のビジネスにすぎない。国際金融ルールに基づき将来にわたり自由な取引と競争が担保された市場とは異なる世界だ。日本企業は中国の“管理”への警戒を解けない。

「人民元がフリーマーケットという証左が必要だ」

5月下旬、ドイツ東部のドレスデンで開かれた先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議。国際通貨基金(IMF)の「特別引き出し権(SDR)」への人民元の採用の是非が話題に上った際、麻生太郎財務相は「歓迎」と口にした上で、完全自由化の“実績”を求めることも忘れなかった。

全銀協の佐藤会長も、「人民元の国際化にはまだ相当時間がかかる。資本取引の自由化など、いわゆる『金融インフラ』が整備されなければ本当の意味の国際化は進まない」との認識だ。

中国人民銀行(中央銀行)は6月11日、初の「人民元国際化報告」を発表し、この中で国内外での人民元建て債券発行に関する規制緩和など、今後の金融制度改革の取り組みを列挙。改めてSDRへの人民元の採用をアピールしたが、報告に並んだ改革メニューは、数多くの規制が残る実態を浮き彫りにした。

さらに、公安当局による「空売り取り締まり宣言」の威圧まで飛び出した7月の上海株急落は、政府の許容範囲内を超える値動きを封じるためには手段を選ばない“介入ショック”として国際金融市場に刻まれた。

ドイツ証券副会長などを務めた投資ストラテジストの武者陵司氏(武者リサーチ代表)は、「中国は実体経済低迷のツケをマニピュレーション(相場操縦)で補おうとしている。

自由化が求められる人民元の国際化は夢のまた夢。SDR入りも遠のいた」と分析する。

コメント


認証コード8357

コメントは管理者の承認後に表示されます。