「真相」

画像の説明 「1日で、2000万元を失った」──。

これは、にわかに暴落した上海株をめぐってのある人物の発言だ。ただし、日本円にして約4億円もの大金を瞬時にして“溶かす”失態を演じたのは、単なる富裕層の素人投資家ではない。これまで散々、“インサイダー情報”で利益を得てきた、相場で負けるはずのなかった共産党の局長級幹部が、そう明かしたのだ。

6月中旬からのたった3週間で3割も暴落した上海株のバブル崩壊。その発端について、複数の党や軍の幹部は、「米国の仕業ではないか」と一様に陰謀論を口にする。

そんな幹部たちの狼狽ぶりは、彼らですらバブル崩壊が全くの想定外だったことを意味する。市場を巧みにコントロールしてきた中国政府の神通力も効かなくなってきたのか──。金融市場ではそんなうわさが飛び交った。

政府の支配力に対する投資家の信頼が揺らぐ中、「政府からは株価を上げろという大号令が掛かっている」(中国当局関係者)。確かに足元では、公安当局まで投入するという、なりふり構わぬ政府の強権的な株価対策によって、株安には一定の歯止めがかかっており、危機は収束したかに見える。しかし、実情は、問題が先送りされたにすぎない。

「中国の実体経済は想像以上に悪化していて、成長率が落ちている中で、利下げなどによって短期間で株バブルを起こした」(債券市場の関係者)。今は崩壊の余波を無理やり抑え込んではいるが、いつまた市場が制御不能に陥ってもおかしくはなく、真の中華リスクはこれから顕在化してくる可能性が高い。

先送りといえば、ギリシャ問題も同類だ。

国家破綻の危機にひんしながら、これ以上の緊縮策は嫌だと駄々をこねていたギリシャ。最終的にギリシャが折れる形で、ユーロ圏19ヵ国は7月13日、ギリシャへの金融支援の再開について、条件付きながら合意した。

おかげで、ギリシャの破綻やユーロ離脱という最悪のシナリオは当面避けられそうだ。しかし、これもまた危機の先送りでしかない。

リスクオフの世界同時発生で危惧される“共震”クライシス

というのも、ギリシャの財政は火の車で、巨額の借金を返済する余力はなきに等しく、借金を棒引きしなければ、生き残れないのは明らかなのだ。今回の支援再開で、当面の借金返済には応じられても、その先にも巨額の国債の償還が控えており、このままでは、そのたびに危機が再燃しかねないというのが実情なのである。

リスクオフの世界同時発生で危惧される“共震”クライシス

政治リスク分析の専門家集団、ユーラシア・グループを率いる国際政治学者のイアン・ブレマー氏は、この中国と欧州の危機に早くから目を付け、2015年のトップリスクに挙げて警鐘を鳴らしていた。

そしてブレマー氏の予想通り、世界の金融市場は6月以降、この二大リスクオフ要因に翻弄され、株式市場はジェットコースターのように乱高下を繰り返してきた。

リスクオフとは、投資家心理が悪化することで、株式や新興国通貨といったリスクの高い資産を避け、国債など相対的に安全な資産に資金を移すこと。株価の下落などを引き起こしやすいとされる。

しかも足元では、中国やギリシャだけでなく、複数のリスクオフ要因が同時発生する“共震”の危険性が高まっている。「相場のテーマが目まぐるしく変わる不安定な環境が続いている」(外資系証券アナリスト)。これは、“共震”が発生しやすい環境ともいえる。

実際、リスクオフを引き起こす火種は世界各地でくすぶっている。

例えば、原油価格の急落。7月14日、イランの核協議が最終合意に至ったことで、欧米が科していた経済制裁が段階的に解除される。

そうなれば、大産油国であるイランの石油生産が増産されるため、供給過剰感から原油価格が下落して、金融市場が混乱するリスクが指摘されている。

欧州にはギリシャ以外にも、リスクオフの発生源となりそうな国が複数存在する。

「スペインでは、ギリシャのチプラス政権と近しく、反緊縮を掲げる左派のポデモスが政権を握る可能性がある」。また、イタリアでは国債の格下げリスクが不安視されている。あともう1段階引き下げられると、投資不適格となってしまい、そうなれば、国債価格は暴落しかねない。

両国共にギリシャよりはるかに大きい経済規模であるだけに、現実となれば、世界の金融市場が、ギリシャ危機を上回る衝撃に見舞われることは間違いない。

さらなる今年最大のリスクオフ・イベントとは?

さらに、世界中の投資家がその行方を見守っている今年最大のリスクオフ・イベントが、米国の利上げだ。米国の政策金利が引き上げられれば、財政基盤の弱い新興国などから米国へとマネーの大逆流を引き起こすことが予想される。

また、前述の通り、落ち着きを取り戻したかに見える中国とギリシャでも、危機のマグマはたまり続けており、混乱が再燃するリスクは高い。

こうした危機が同時発生して、投資家心理の急激な悪化を招き、金融市場を揺るがす、大規模なリスクオフの“共震”が起きる。そうした暴発リスクは確実に高まっており、本当の危機はむしろ、始まったばかりといえる。

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