【日本の議論】

画像の説明 「出直せ!」原子力規制委員長代理を激怒させた規制庁の“お役所仕事”

原子力規制庁職員に激怒した更田豊志委員長代理。「先祖返りするな」という“愛のムチ”だったのか…

原子力規制委員会の“要”として活躍している更田豊志委員長代理(57)が、原子力規制庁の職員に激怒した。定例会合という公開の場で、「出直した方がいい」とまで言明し、実際に会合はやり直しになった。なぜここまで更田氏は憤怒したのか。規制委や規制庁は発足から2年以上が経過し、昨年9月には5人の委員のうち2人が交代するなど組織に若干の変化が生まれている。透明性と独立性を旗印にスタートした規制組織が“原発の事故前の状態”に戻ろうとしているのだろうか。

リストに職員の名前がない…

“事件”があったのは昨年12月17日の規制委の定例会合。原発の廃炉に伴って出てくる放射性廃棄物の新しい規制基準の作成が議題に取り上げられた。

規制委事務局の原子力規制庁の職員が、検討チームの立ち上げや検討期間など今後の議論の進め方を淡々と説明した。

外部専門家9人で構成される検討チームについては、1年を目途に成果をとりまとめる方針を伝え、規制委の了承を求めた。一見して、職員の説明に何ら問題はないように見えたが、更田氏の表情は険しかった。

更田氏がまず指摘したのは、検討期間の問題だ。

「1年を目途にと、よく『目途に』と使われるが、守られたためしがない。だらだらと長い時間をかけることがないように」

最初は穏やかな口調だったが、検討チームに外部専門家の名前しかなかったことに対し、叱責口調になった。

「外の先生に決めていただくというのは役所の責任回避だ。二度とやってはいけない。こういう検討チームの案の出し方をされては困る。これでは私は了解できない」

レジュメに職員の名前が書かれていないことに、そこまで怒るのか。

更田氏のけんまくに場が凍り付く中、規制庁の池田克彦長官が「(職員の)異動があるということを考えてこうしたと思う。1年を目途というのも、規制委の資料に入れたのはおそらく初めてではないかと思うので、ぜひ意気込みを買ってほしい」ととりなした。

しかし怒りの収まらない更田氏は「主役の名前が書かれていないリストを了解するつもりはない」とした上で、「これは出直してもらった方がいい」と提案し、翌週に議事をやり直すことになった。

保安院時代への先祖返りか

更田氏の怒りの根源は何か。それは、規制委、規制庁の前身となる、経済産業省の原子力安全・保安院時代に遡(さかのぼ)る。

保安院でも、原発に関する基準づくりなどを行う際に、検討チームをつくっていた。外部の専門家を呼んで会合を持ったが、実態は保安院の職員が基準案を整え、チームの報告書案も職員がつくり、承認を頂くだけの専門家はお飾りに過ぎなかった。もちろん検討チームに職員が出て意見を述べることはなく、専門家を影で操っていた存在だった。

東京電力福島第1原発事故では、保安院はまったく役に立たず、むしろ“原子力ムラ”の一員として、事故の責任を負うよう外部から指摘された。しかし誰も責任を取ることはなく、職員の大半は規制庁の職員として滑り込んだ形だ。

更田氏はこの「保安院時代の復活」を恐れたのだ。

規制委は政治や事業者からも独立し、すべての会合や議論を公開する透明性をウリにして発足した。先祖返りかと思える規制庁の職員の対応に、更田氏は我慢ならなかったのだろう。

声を震わせながら…落ち着かない職員

更田氏の「差し戻し命令」を受け、翌週に開かれた12月24日の定例会合。

前週に叱責を受けた職員が再び姿をみせ、「一度説明を申し上げたが、ご指摘があり、改めて検討し直した」と切り出した。用意されたレジュメには、しっかりと原子力規制庁職員の名前が書かれていた。

説明中、この職員は机の上に手を出したり引っ込めたりと落ち着かない様子で、時折、声を震わせながら説明を終えた。

説明後、議論の口火を切ったのはやはり更田氏。眉間にしわを寄せながら、「役割と目的が明確になった。しかし、(基準をつくる)技術基盤課と、(実行する)規制部との連携を十分にとってほしい」とさらに要望した。

廃棄物の規制基準作りを担う田中知委員は申し訳なさそうに、「委員から意見があったことを十分に承る」と発言し、職員をおもんばかった。

それ以上何も発言はなく、田中俊一委員長は「本件はこれで了承したいと思う」と議論を早々に打ち切った。

田中委員長は記者会見で、更田氏に代わってこう弁明している。

「先祖返りするというリスクは常にわれわれ自身も意識をして、口酸っぱく言っている。廃棄物の基準づくりはちっとも前に進まなかった。やはり責任を持った人が責任を持った基準をつくらなければならないというのが1つの原因だ。そこの所に少し認識が甘いということで、もっと自覚や気概をもってやれというお怒りだったと思う」

更田氏の真意は、規制庁の職員の心に届いているだろうか。

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