「拠点」は中国か…

画像の説明 国境を越えて暗躍する在留カード偽造・販売の闇ビジネス

外国人が正規の資格を得て日本で暮らしていることを示す在留カード。不法残留者を排除する目的などで平成24年、外国人登録証(外登証)に変わって導入されたものだが、関西国際空港で偽造カードが昨年相次いで見つかった。

大阪府警は、中国人とベトナム人計3人を入管難民法違反(在留カード偽造)容疑で摘発。いずれも不法残留者で「日本で働き続けたかった」という動機だった。だが、摘発できたのは、いずれも偽造カードを求める〝依頼人〟。捜査は製造元ら黒幕までたどり着いていない。カードは一見して偽物とは分からない「精巧な模造品」(捜査関係者)といい、いずれも中国からの国際宅配便だった。不法残留者の陰には、国境を越えて在留カードの偽造・販売に暗躍する闇ビジネスの存在が浮かんでいる。

不審な段ボール箱

昨年8月。税関から入った一本の電話が、ベトナム人の事件の端緒だった。

「6月に輸入された貨物の通関検査で偽造カードが見つかりました」

大阪税関関西空港税関支署の職員が中国・上海から送られてきた国際宅配便を検査していたところ、一つの段ボール箱から小分けされた多数の黒いポリ袋が見つかった。開封してみると、中から現れたのが14枚の「在留カード」だった。

そんなものが国際宅配便から出てくるわけがなかった。在留外国人の大切な身分証であるだけではない。入管難民法で常時携帯するよう定められており、警察官らから提示を求められた際に携帯していなければ懲役や罰金に処せられる可能性があるのだ。

現場の誰もが予想したとおり、府警科学捜査研究所の鑑定結果は、「精巧に模造された偽物」だった。

14枚の偽造カードにはそれぞれ、別々の人物の顔写真と氏名などが記載されていた。「顔写真の男たち」の所在を突き止める捜査が始まった。

ICチップで変造防止も…

「やはりOS(オーエス)やったな」

14人のうちの1人が日本に不法残留していたことが分かり、捜査幹部はこう感想を漏らしたという。

不法残留の英訳「Overstay(オーバーステイ)」の略。不法残留者が仕事に就くため、〝正規〟の身分証明を欲しがるのはよくあることだからだ。

在留カードは24年7月、それまでの外国人登録制度が新しい在留管理制度に変わったことで外登証が廃止され、それに伴って導入された。在留カードの特徴は大きく2つ。1つは正規滞在者の利便性を高めることで、もう一つは不法残留者の数を減らす工夫が盛り込まれていることだった。

従来の外国人登録制度は在留資格を問わずに登録の対象としていた。そのため、不法残留者であっても外登証を取得できるという課題があった。そこで新制度では、入国管理局が在留資格を認めた外国人に在留カードを交付するよう改められた。偽造や変造を防ぐためにICチップも搭載された。

表には顔写真や氏名、国籍・地域、在留資格の種類、有効期限が列記され、一目で正規の在留資格を持った滞在者であることが分かるようになっている。

だが、こうした工夫もむなしく、やがて偽造カードが出回るように。しかも、警察庁のまとめでは、新制度が始まった翌25年に偽造在留カード所持などの入管法違反で78人が摘発されたが、26年は上半期だけで46人で、前年同時期の16人から急伸した。

仲介料・代金は各4万円

14人のうちオーバーステイだった1人を割り出した府警は11月14日、入管難民法違反(在留カード偽造)容疑で、この男を逮捕した。調べによると、ベトナム国籍の男(28)=12月3日に同罪で起訴=で、平成22年8月19日に来日し、技能実習生として在留資格を取得して、関東の建設会社で働いていた。

在留期限は1年間で切れるため毎年更新していたが、最長で合計3年間しか認められておらず、25年9月19日以降、不法残留となっていたという。

男は「在留期限が過ぎているのは知っていた」。在留期限が切れ、技能実習先の建設会社を去った後も日本にとどまった理由については「働いてベトナムに送金したかったからだ」と供述した。

日本に居座る限り、働いたり部屋を借りたりする必要があるが、何をするにも身分証は必要。そんなとき、偽造在留カードが手に入るという話を聞き、購入を依頼。仲介料として前金4万円を支払った。現物が手に入るとさらに4万円を支払う約束だったという。

チャットで偽造業者探す

この事件のほか、関空では昨年5月、同じく中国・上海を発送元とする国際貨物便から在留カード5枚を発見。中国人の男2人が逮捕されている。

2人はいずれも「QQ(中国のチャット)で偽造してくれるところを見つけて依頼した」と容疑を認め、そのうち1人は「やり取りはすべてチャットだった。スマートフォンで自分の写真を送り、作ってもらった」と供述したという。

中国人2人もベトナム人の男も、いずれも容疑は「偽造」となっているが、氏名不詳者の〝製造者〟との共謀という意味でしかない。

「海外で日本の在留カードを偽造し、販売する闇ビジネスが横行しているのは間違いない」と捜査幹部。発送元を考えると、中国に拠点がある可能性があり、摘発するには中国政府や当局の協力が不可欠だが、現実には難しい。

ただ、事件は治安の根幹にかかわる制度を揺るがすもので、放置すれば不良外国人を呼び込む〝犯罪インフラ〟になりかねない。府警は全容解明に向けて困難な捜査を続けている。

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