「棍棒」外交の意味を問い直せ

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安倍晋三首相の顰(ひそ)みに倣って地球儀を俯瞰(ふかん)すれば、日本の頼みの綱であるオバマ米大統領が「世界の警察官」役を放棄すると宣言したことではっきりした米国の「内向き」傾向に、同盟国や友好国が今年も不安を抱いた状態が続いていくということになろうか。

目に見えないタガが外れ、ロシアや中国周辺、中東での秩序は乱れている。シリアとイラクにかけては国家でない「イスラム国」が、ちょうど日本と同じ面積を何となく実効支配している異常は、鬱陶(うっとう)しいことこのうえない。

≪疑問視された大統領の指導性≫

20世紀初頭にカリブ海に進出してきた外国の影響力を排除するために、セオドア・ルーズベルトは「でっかい棍棒(こんぼう)片手に猫なで声」外交を展開したが、オバマ政権は棍棒を使う意思がないとみられているところに、国際情勢混乱の一因が潜んでいるように思われる。

とりわけ、国際テロリスト勢力に対して、手の内を明かすような発言をホワイトハウスの最高司令官が口にしてはやりにくい、との気持ちが米国防総省の制服組にはかなり前から存在していたようだ。

どの部隊を何年何月までに撤収させるとか、地上戦闘部隊は投入しないとの発言を繰り返せば、性悪な敵に重要なヒントを与えてしまう。

さて、昨年12月に、アシュトン・カーター氏がチャック・ヘーゲル国防長官に代わり、次期国防長官に指名された。オバマ政権ではロバート・ゲーツ、レオン・パネッタの2国防長官が辞任しているから、4人目の国防長官となる。これは異例だし、ゲーツ、パネッタ両氏はそれぞれ回想録を書き、ホワイトハウスのあまりに細かい管理(micro-management)と大統領の指導性不足に注文をつけている。

≪機能不全のホワイトハウス≫

事実上、更迭されたヘーゲル氏の人事をめぐるごたごたで明らかになったのは、デニス・マクドノー大統領首席補佐官、スーザン・ライス同補佐官(国家安全保障)ら大統領側近が壁を作り、国防総省だけでなく国務省との風通しがまことに悪くなっているという事実だ。ヘーゲル長官はシリア、ウクライナ、イスラム国問題などでホワイトハウスの戦略が不明であるうえ、決定に時間がかかるのに我慢ができなかったのだろう。

米国の内向きという曖昧な表現の実体を解明するのは難しいが、謎の葉を一枚一枚はがした末にたどりつく芯はホワイトハウスの機能不全だ。新国防長官に就任するカーター氏は物理学者で兵器の性能にも詳しいし、パネッタ国防長官の下で副長官として年間6千億ドルの国防総省関係予算を扱った経験を持つ。

英誌エコノミスト12月6日号は、カーター氏が2006年に北朝鮮に対して先制爆撃をすべしと論じたタカ派であることをオバマ大統領は知っているかね、とちゃかしたような記事を載せていたが、オバマ政権に残された2年間にはヘーゲル時代と別の政策が打ち出されるのか、あるいは外交・防衛に明るいといえない側近の壁は揺るがないのか。

≪2年は続く米国の内向き傾向≫

戦後の冷戦は、突如として始まったベルリンの壁の崩壊を機にあっという間に終焉(しゅうえん)してしまった。ソ連帝国は74年間で歴史の幕を閉じた。代わって登場したのが1プラス6の国際秩序だ。軍事力、経済力、技術力、情報力などずば抜けた国力を持つ米国を、フランスのユベール・ベドリーヌ元外相は「ハイパー・パワー」と称した。

その下で日本、中国、ロシア、英国、フランス、ドイツの6プレーヤーがそれぞれの役を演じてきた。しかし、1プラス6の時代も長くは続かなかった。中国、インド、ブラジルなどの諸国が著しく国力を増強させ、なかんずく中国はあっという間に米国に次ぐ世界第2の経済力、軍事力をつけてしまったのである。

米国は国力を維持し続けているし、移民などによる人口増で、主要国が抱える少子化問題に悩む必要はない。さらにシェール革命でエネルギーは自立から輸出国に転換する勢いがあるが、他の諸国の国力増大があるから、あくまでも相対的な国力低下にすぎない。

だが、オバマ大統領はイラクから撤退し、16年にはアフガニスタンからも撤兵する。海外で棍棒を使いたくないとの大統領の気持ちは強く、国防長官にカーター氏が指名されたにもかかわらず、内向きの傾向は少なくともあと2年間は続くと見なければならない。

米国にべったり寄りかかって棍棒を軽視してきた日本が何をすべきかはおのずと明らかだろう。ソフトパワー重視もいいが、アニメと日本食のPRを熱心に試みても尖閣諸島や小笠原諸島に不法に入ってきた中国船には何の効果もない。

米国との絆を強めつつ日本は何をすべきか。安倍晋三首相はご自身が運命の人であることを自覚しておられると信じている。

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