北朝鮮有事にどうする中国?

画像の説明 中国共産党ナンバー5の劉雲山常務委員が12月17日に北京の北朝鮮大使館を訪問し、習近平国家主席による中国と北朝鮮の伝統的友好を強調するメッセージを伝えた。

もともと歴史的に「唇歯の関係」、「血の友誼」と緊密さがうたわれてきた中国と北朝鮮(以下、中国の言い方に習い「中朝関係」と呼ぶ)だが、ここ2年近く首脳交流は行われず、石油の対北輸出も止められているとされる中での大使館訪問だったため、関係改善も言われ始めた。

とはいえ、核開発を強行し、ナンバー2で中国との関わりの強かった張成沢氏の処刑は中国を当惑させ、面倒な存在だと感じていることは疑いない。そうした中国の北朝鮮認識は有事の際に中国がどうするべきかという論争に見出すことができる。クローズアップされているのは『環球時報』紙での論争だ。

退役将軍が、北朝鮮のために戦う必要はなく「崩壊するならしょうがない」と述べた一方で、別の専門家は「パートナーを放棄すべきではない」と主張する。そこでこの二つの文章、『環球時報』紙(11月27日付)に掲載された浙江大学韓国研究所の李敦球・客員研究員による「朝鮮というこの65年のパートナーを“放棄”できない」と王洪光退役中将による「朝鮮がもし崩壊すれば中国は助けられない 中国人は朝鮮のために戦う必要はない」(12月1日付)を紹介する。

中国で主張される「北朝鮮放棄論」とは?

李研究員は、中国では絶え間なく「中朝関係を否定する意見がある」と嘆く。「北朝鮮放棄」を主張する声さえもあり、戦略研究者にも同じ様な考えを持つ者がいると危機感を露わにする。李氏によると「北朝鮮放棄論」の根拠の一つは伝統的な地政学の政治概念は既に時代遅れであり、現代の戦争では地政学的「風よけ」は必要なく、北朝鮮が中国の戦略的防御壁の役割を果たす事がなくなったためだという。

李氏は、これは間違いだと批判している。もしこの論理が成り立つなら、米国は韓国や日本から軍を撤収させていないし、そればかりか軍事プレゼンス強化の現状を説明できないと指摘する。結論からすれば依然、朝鮮半島に地政学的価値があるというわけだ。もう一つは、中朝両国には少なからず矛盾、摩擦、分岐があって北朝鮮は中国のいう事をきかずマイナスのアセットになっていると思いこんでいることだ。

金正恩体制になり、中国と北朝鮮関係は冷え込んでいるものの、李氏は3つの点から「放棄論」に反論する。まず、中朝は二つの独立国で国益が完全に一致する事はありえず、意見相違は当然だから矛盾を区分して管理しさえすればいいという。第二に、現在の中朝矛盾は日中のような領土、領海、歴史認識といった深刻な矛盾とは異なり、戦略的矛盾ではないから、ソ連と決裂した轍(てつ)を踏むわけにはいかないという。中朝はそれぞれ相手を必要としており、中国の一方的独りよがりではないというわけだ。第三に、北朝鮮問題は冷戦期から残る問題で朝鮮半島での冷戦の基となる「停戦協定」や「米韓同盟」と結びついているから、こうした基盤を取り除かずに問題解決はありえないという。中朝両国は地政学的に根本的利益が一致しており、地政学的構造で根本的変化がないうちは両国の利益が変わる事もないだろうと指摘する。

中国が「北朝鮮を放棄」したらどうなる?

李氏は、中国がもし「北朝鮮を放棄」したら3つの可能性がありえると予測する。それは北朝鮮が中国以外の第三国の懐に抱かれるだろうということ。北朝鮮が政治や経済、軍事上の共同包囲網の圧力により崩壊させられるだろうこと。そして北朝鮮は孤立無援状態に陥り、やけっぱちになって戦争に走り、朝鮮半島が再び戦火に包まれる可能性があるということだ。

どの結果も中国にとって望ましくなく、海からの勢力によって半島全土が制圧され、歴史的大失敗を再び犯す可能性は小さくないという。日清戦争(中国では甲午戦争と呼ばれる)の主な原因は日本と清朝が朝鮮半島を取り合ったことによるもので、その余韻が残っている。李氏によると米国は日本に取って代わり、海洋勢力として朝鮮半島の秩序を作りだしているが、中国が北朝鮮を「放棄」したら、米国は朝鮮戦争で得られなかった戦略的利益を獲得できる。中国は朝鮮戦争時に志願軍として兵士を派遣しており,戦闘で40万近くの犠牲者を出したといわれ、毛沢東も息子、毛岸英を亡くしている。「北朝鮮放棄」を主張する人には戦略的判断ミスがあり、むざむざ米国にプレゼントするようなもので、傷が癒えないうちに痛みを忘れたかのようだというわけだ。

中国の7大軍管区のうち台湾や対日作戦を担う南京軍区の副司令員を勤めた王洪光将軍はそもそも中国に北朝鮮を放棄する選択肢はないと一刀両断する。王将軍は李氏が指摘する「一部の戦略問題の学者が中国は北朝鮮を放棄すべきだと提案しており、問題は非常に深刻だ」という見方に賛成できないと主張する。王将軍は李氏による「中国と朝鮮は二つの独立国家」という言い方には異存がないとしながらも「両国の根本的利益は一致する」という点には賛同できないという。中朝それぞれ国家利益があるためだ。特に北朝鮮は核を保有しようとしているのに対して中国はその放棄を求めており、国家利益の違いが際立っている。

「北朝鮮のために自国の利益を損なうことはない」

王将軍は、中国は北朝鮮のために自分の利益を損なう必要はないと言い切る。北朝鮮が核を保有することですでに中国の国境地域で核汚染の深刻な危機を招いており、庶民の安全を守るために中国政府は北朝鮮の核保有を非難しなければならないだけでなく、北朝鮮に中国への脅威を及ぼさないように核施設を遠ざけることを要求する合理的理由があるというわけだ。

この点において中朝両国の根本利益は一致するだろうか。もし、北朝鮮が核を保有すれば、日本や韓国の核保有を刺激しかねない。李氏は、もしこの小さな地域でロシア、中国、北朝鮮、韓国、日本がそれぞれ核を保有し、更には米国の核が加わったら東北アジアは安寧たりうるのかと疑問を呈する。

王将軍は、中国は原則問題で基本的立場は不変と主張する。中国は北朝鮮が中国の国家利益を損ねるやり方には反対してきたが、これを北朝鮮放棄とみることはできないという。ただこれまで北朝鮮の「尻拭い」があまりにも多く、専門家はこの点をはっきり理解すべきで、今後は必ずしも「尻拭い」すべきではないと言い切る。つまり王将軍は、中国は北朝鮮が起こす紛争や混乱に対して自らの利益を犠牲にしてまで巻き込まれるべきではないと主張している。まさに中国にとって有事に北朝鮮を援助すれば損害を軽減できるのか、それとも「巻き込まれない」ようにすれば損害を最小限化できるのか、という判断が迫られているわけだ。

李氏は、北朝鮮は社会主義政治体制で、中国の地政学的に代替できないというが、王将軍はこの点にも異を唱える。北朝鮮は早々とマルクス・レーニンを放棄していて無産階級政党でも、社会主義国でもないため、イデオロギー面で中国といかなる共通点もないとしている。北朝鮮はもともと1972年に「憲法」でマルクス・レーニン主義を労働党の中心的思想に位置づけ、活動指針にすると規定したが、1980年に金日成同紙の革命思想であるチェチェ思想を唯一の指導方針とすると変更した。つまり王将軍によれば北朝鮮はこのときマルクス・レーニン主義を放棄したのだ。もはや、中朝両国には国家利益による結びつきしかなく、社会主義政党間の同志関係など存在しないというわけだ。

中国と北朝鮮の間には「中朝友好協力相互援助条約」(1961年締結)があり、「一旦、締結の一方が武力攻撃を受け戦争状態に陥った際にはもう一方の締結国が速やかに全力で軍事或はそのほかの援助を行う」と規定する。つまりこの一項が北朝鮮に対する軍事的保護を確約している。

しかし、王将軍によれば条約に規定されたもう一つの規定、すなわち「締結国はそれぞれ両国の共同利益に関する全ての重要な国際問題について協議を行う」という一項が見落とされがちだという。なぜなら北朝鮮が核保有に関して中国と協議をしたことがないためだ。北朝鮮は中国の根本的利益を侵害しており、両国で一致した根本的利益があるという李氏の意見には賛同し難いというのだ。北朝鮮を戦略的「盾(原文では屏風と称している)」と見なすのも無理があるという。グローバリゼーションが進み、情報化時代において地政学面でも軍事面でも北朝鮮の重要性は大幅に低下しているためだ。

「北朝鮮崩壊阻止より、相応の準備をせよ」

王将軍は李氏による「北朝鮮を放棄」した際に起こりうる3つの可能性(第三国の影響下に陥る、崩壊する、戦火に見舞われる)は誇張しすぎだと指摘する。王将軍は国家の崩壊は外部勢力によるというより、庶民の支持を失えば「崩壊は遅かれ早かれ時間の問題」と言い切る。また、中国は救世主ではなく、崩壊するなら救いようがないとさえも述べる。

それより中国は相応の準備をすべきだと主張する。6者会談が挫折しても、中国が半島の「戦火」に責任を負うことはありえず、自分を戦火に晒す必要はないと言い切る。中国と北朝鮮の関係は国家関係と共産党と労働党の関係が基礎になっているが、国家利益に基づいて判断すべきであり、北朝鮮を「引き寄せる」のでも「放棄」するのでもないというのが基本的態度であるべきだと主張する。

中国にとっての北朝鮮の存在は常に問いかけられ、揺れ動いてきた。党の幹部養成校である中央党校機関誌の編集担当者だった�眷聿文氏が「中国は北朝鮮を放棄すべき否か」という文章を発表したのは昨年3月である。北朝鮮をどうするかは中国国内では常にくすぶり続ける火種のようなものだ。今回の論争は中国が北朝鮮問題において直面するジレンマを改めて示したといえるが、中国が国益を巡り韓国と北朝鮮を天秤にかける状況がある限り、両国が昔のような関係にまで回復することは考え難く、この論争が決着を見ることはなく今後もくすぶり続けるだろう。

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