先進国では他に例を見ない安定政権が誕生

画像の説明 今こそ中長期的課題に取り組むべき好機だ

第47回衆議院議員総選挙の結果は、自由民主党が総議席(475)の61%に相当する291議席を得て完勝した。その一方で、選挙戦は盛り上がりに欠け投票率は52.66%と過去最低を記録した。政党支持率が最もよくあらわれる比例代表区の得票率を見ると、自由民主党は33.11%であったので、自由民主党は有権者の17.44%の支持により、61%の議席を得たという計算になる。メディアでは棄権は既成政党に対する不信(ノー)の表れだ、等という論評が見られるが、棄権は当コラムでも述べたように結果的には比較第1党(今回なら自由民主党)に投票したのと全く同じ効果を持つということを忘れてはなるまい。

ともあれ、安倍首相は、制度の建前上は今後4年間のフリーハンドを得たことになる。連立政権を組む公明党の議席(35)を合わせると、326議席(68%)となり、総議席の3分の2を優に超えるので、前回に引き続き、法律の再議決も可能となった。安倍政権は当面安定に向かうだろう。

少子化対策はフランスを真似よ

ところで、世界を見渡してみると、安倍政権ほど安定した政権は、少なくとも先進国では他に例を見ない。上下両院とも安定多数を擁し、政権の支持率も安定して高い政権は、実は世界のどこにもないのである。

平たく言えば、わが国は「思い切った改革を成し得る強い政権」を手に入れたのだ。ここで中長期的な課題にメスを入れずしていつメスを入れるのか。中長期的に見たわが国の最大の政策課題が少子高齢化にあることは言を俟たない。今こそ、少子高齢化について抜本的な対策を骨太に講じる時である。今回は敢えて枝葉には触れず、太い幹の部分に限定して論じてみたい。

まず少子化対策から述べてみよう。わが国は明治維新の時も、敗戦後の再出発の時も、他国の進んだモデルを上手に取り入れることで繁栄を実現してきた国柄である。創造よりも応用、活用、キャッチアップに長けていると言ってもいい。そうであれば、少子化対策についても、フランスやスウェーデンなど(少子化対策の基底となる)出生率を現に向上させた先例にならうべきであろう。

フランスの少子化対策については以前にも述べたが、フランスの文化を守りたいという市民のコンセンサスを出発点にして、フランスの文化を守るということはフランス語を母語(マザータング)とする赤ちゃんを増やすことだ、赤ちゃんはフランス社会の未来であり、フランス社会の宝であるという共通認識を土台にしている。その上に、シラク3原則が樹立された。

第1原則は、赤ちゃんを産む産まないは100%(産む性である)女性が決めるべきだ。女性はいつでも産みたい時に赤ちゃんを産んでいい。ただ、産みたい時と女性の経済力が一致するとは限らないので、その差はできるだけ社会のサポート(税金)で埋めよう、赤ちゃんをたくさん産んでも経済的に困らないようにしよう、というものである。第2原則は、赤ちゃんを産んだ女性がいつでも働けるよう待機児童ゼロを自治体に義務付けるというものである。第3原則は、子育ては例えば留学と同じだと見なして、育児休暇を終えた親は、元の職場に元のランクで無条件に戻れることを法定したことである。

加えて、法律婚であるか否かにかかわらず、産まれた赤ちゃんには何の罪もないので、すべて100%平等に扱うとした。赤ちゃんが社会の宝であると考えれば、論理必然的な結論であろう。また、カップルの自由で多様な結びつきを容認すべくPACS(民事連帯協約)という制度も用意した。

もちろん、少子化対策予算もGDPの3%以上とわが国の3倍の水準である。こうした政策を総動員した結果、フランスの出生率は、わずか10~15年で1.6%レベルから2%を超える水準まで急回復したのである。少子高齢化については、敗戦後のわが国がアメリカをモデルにしてキャッチアップを図ったように、フランスをそのままモデルにしてキャッチアップを図るべきだと考えるがどうか。

高齢化対策の基本は定年の廃止から

次は高齢化対策である。高齢化社会は、ある意味では人類の夢の実現である。あの秦の始皇帝も不老長寿を願ったのではなかったか。わが国は高齢化社会の理想モデルを世界に先駆けて樹立すべきである。これはとてもチャレンジングな試みだ。

ところで高齢化社会の夢(理想)は、平均寿命の延伸ではなく健康寿命の延伸にある。平均寿命と健康寿命の間の期間が介護を受ける期間となるが、動物である人間にとっての一番の幸福は、「自分で食事を摂り、自分の足で歩いて自分でトイレに行ける」ことである。介護の期間は短ければ短いほど良いことは明らかである。

では健康寿命を延ばすにはどうしたらいいか。多くの医者の共通意見は、健康状態が許す限り「働くこと」であるという。働けば規則正しい生活が送れるばかりではなく、頭も手も足も使うので老化が防げるという。そうであれば、骨太の高齢化対策は先ず定年を廃止して働きたい人はいつまでも働けるような労働環境を創り出していくことにあろう。

経営者は、何故高齢者の雇用に二の足を踏むのか。それは年功序列型賃金体系の下では、高齢者の雇用コストが嵩むからである。だとすれば、年功序列型賃金を廃して、グローバル基準である同一労働同一賃金体系に移行すべく、施策を講じていけばいいということになる。

一言で言えば、アングロサクソン型の「年齢フリー」の労働市場を創出していくことが、これからのわが国にとっては極めて重要である。定年の廃止に合わせて、生産年令人口の定義も現行の「15歳~64歳」から「20歳~70歳」に変更すべきである。当然、公的年金の支給開始年齢も70歳スタートを原則とすべきであろう(現行の健康寿命を勘案すれば、75歳よりも70歳を一応の基準とすることが現実的であろう)。

ちなみに、労働市場が「年齢フリー」原則で再構築されるとすれば、社会保障も「年齢フリー」原則で再構築すべきであろう。その時は「貧窮度」原則を正面に打ち立てるべきである。公的年金は、70歳以上かつ一定の所得や資産がない人に限って支給する。健康保険の自己負担は、年齢フリーであるから、高齢者も一律に3割負担として、逆に年齢にかかわらず一定の所得や資産がない人に限って自己負担割合を減じるのである。

以上述べてきた、定年を廃止して年齢フリーの労働市場を創出していくことは、労働力の不足に直面しているわが国の現状に照らしても整合的な政策となる。安定政権を手にした今こそ、首相の強いリーダーシップの下で、こうした骨太の少子化対策、高齢化対策にぜひとも着手してもらいたいものだ。

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