ロシアを脅かす原油安の「悪夢」

画像の説明 ロシアは、己の外交目的達成の手段としてエネルギー資源を最大限に活用しようとしている。 

昨年末から今日まで続行中の「ウクライナ危機」ひとつを例にとっても、このことは明らかといえよう。ロシアは、例えば天然ガスの供給を停止したり再開したり、またその販売価格を上下させたりすることによって、政治・外交上の譲歩を入手しようとする。ウクライナに対してばかりでなく、欧州連合(EU)諸国に対しても、そのような戦術を用いている。

≪一元的パワーに潜む脆弱さ≫

しかし、エネルギー資源分野でのロシアの強みは次第に失われつつある。その主要事由は次のとおり。まず、肝心要の西シベリアでの油田が枯渇しはじめた。他方、代替が期待される東シベリア、ロシア極東、北極海は、気候や技術の点で採掘が困難なうえに、米欧諸国の金融制裁なども作用して開発が思うように進まない。

加えて、シェールガスなど非在来型資源、その他の代替エネルギーの開発などによって、例えばEUはロシア産資源を以前ほどには必要としなくなりつつある。

かつてのソ連は軍事力偏重の一元的パワーであり、米国との冷戦に事実上、敗れたのもそのことと無関係でなかった。ウクライナ危機を契機として再発した米露間の対立を、仮に“ミニ冷戦”と名づける場合、この闘いでロシアはエネルギー資源を最大の外交手段にしようとしている。

もしそうならば、ロシアは冷戦時代の誤りを繰り返すおそれが否めない。それは、国力や外交の基盤を単一のものに置こうとする「モノ・カルチャー」思考を行っているからである。現代の「戦争」や闘いは、「総力戦」もしくは「ハイブリッド戦」の様相を強めつつある。単一要因に過度に依存する「一元主義的なパワー」は、最終的勝利を収めえない。

いや、そればかりではない。米国は、現ロシアがもっぱら資源依存型の一元パワーであることを逆手にとり、プーチン政権を経済的のみならず、政治・外交的にも追い詰めるキャンペーンを始めた。

今年後半に発生中の国際原油価格の急落が、それである。プーチン政権の命綱ともいうべき原油の値段は、同年6月の1バレルあたり115ドルをピークにして、下落の一途をたどっている。

≪政敵追い詰める「陰謀論」?≫

原油価格の国際的な急落の原因は、複数存在するかもしれない。例えば、世界経済の一般的な低迷。とりわけ欧州や中国は経済成長を鈍化させ、需要や生産の拡大意欲を示していない。だがこれら客観的な事情に加えて、次のような人為的な要因が作用している。

つまり、米国、サウジアラビアなど一部の産油国が結託して、意図的に石油の増産に努め、国際的な原油安を招来しようともくろんでいる。もとより、そうすれば、これらの諸国は己に商業的なマイナスを導く。だが、米国、サウジアラビアはそれぞれの政敵たるロシア、イランを経済的、外交的に苦境に陥らせる戦略のほうをより重要視するもようである。

これは、主としてロシア側による「陰謀論」的な説明法とはいえ、真相に近いように思われる。

ロシア連邦の2014年度予算は、原油価格1バレルあたり約100ドルで均衡するように作成されている。同価格が1ドル下がるごとに、ロシアの国庫収入は少なくとも約20億ドルの減少になる。14年6月から10月の数カ月間に実際そうだったように、同価格が80ドルへ落ち込むと、それだけでロシアの国家予算は約400億ドルの減収になる。ロシア国内総生産(GDP)2兆ドルの2%を失う。

もし米国やサウジアラビアによる「陰謀」が功を奏して、原油の国際価格が70ドルから60ドル台にまで落ちるならば、ロシアは「レジーム・チェンジ(政体変更)」の危機にさらされるだろう。このような見方さえささやかれ始めた。

≪武器を逆手に立場逆転も≫

もちろん、これは極論である。ロシア国民の負荷耐久能力を過小評価している。ロシア人は、1998年の経済危機も、2008年の世界同時不況も乗り越えることができた。プーチン下の現ロシアは、5千億ドルにも及ぶ「安定化基金」や「国民福祉基金」という経済変動に対するショック・アブソーバー(緩衝器)の制度も備えている。ソチ五輪の成功、クリミアの併合後、プーチン大統領の人気は、空前絶後の高さ(83~87%)を誇っている。

以上にもかかわらず、われわれは1つの皮肉の発生に気づかざるをえないだろう。プーチン氏は、原油価格の国際的な高騰という僥倖(ぎょうこう)に恵まれたラッキーな政治家だった。これまで天然エネルギー資源という武器を政治、外交上の目標を達成するために十二分に活用してきた。ところが、今や立場は逆転したといえはしないか。

つまり米国、サウジアラビアなどの諸国が、かつてロシアが得意とした同一の武器を逆手に用い、そのことによってロシアが苦境に立たされる。このような皮肉が現出しかけている様子なのである。

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