「卓球ロボット」

画像の説明 中国人が驚愕した 人間と打ち合うオムロン「卓球ロボット」の“人の気持ちを理解する精密制御”

10月に開催された「シーテックジャパン2014」で大きな話題を集めた「ラリー継続卓球ロボット」

「機械が人の気持ちを理解する」。そんな未来に一歩近づいたのが、オムロンの開発した卓球ロボットだ。人の位置の測定や球の軌道の予測などを1000分の1秒単位で制御する独自技術に磨きをかけ、大人でも子供でもその人の打ちやすい場所に返球する「協調性」を持ったロボットを誕生させた。

わずかな開発期間

「創業80周年を記念した展示会を中国で開催する。目玉の展示品を考えてほしい」

昨年3月、技術開発センタに経営幹部から突然の指示が飛んできた。展示会の開催は10月。わずかな開発期間にセンタのメンバーは顔を見合わせた。

だが、開発チームの責任者の小泉治幸氏(今年、定年退職)が「中国といえば卓球や。卓球ロボットで行こか」とつぶやくと、メンバーはすぐに「これはいける」と確信した。

「卓球ロボットには、オムロンが得意とするセンサーと制御技術が含まれている。(オムロンが長期ビジョンで掲げる)人との相互協調という意味でもわかりやすいと思った」。メンバーの一人、柴田義也主事は当時を振り返る。

卓球台を挟んで、人と打ち合うラリーが続くためには、ロボットが人の状態を把握し、それに応じて人と協調する行動を取ることが重要だ。人が打った球を計測するセンサーや、ロボットがどう打ち返すかを計算して動かすための制御技術が鍵となる。これらは、オムロンの中核事業である工場の自動化システムに使われている基盤技術だ。

ロボットの上部に2つの画像センサーを設置。このセンサーで、人やラケットの位置、球の位置と速度を3次元計測し、ロボット側に返ってくる球の軌道と速度を予測する。さらにこの情報を基にロボット側のラケットの軌道を計算し、5つのモーターを搭載したロボットハンドを1000分の1秒で制御して球を打ち返す。基本的な仕組みは得意技術の応用でめどが立ったが、実機の開発は容易ではなかった。

初めは空振りの連続

ラケットを動かすことができても、空振りの連続でラリーは続かなかった。「計算された打点の位置が問題なのか」「打つタイミングの指令がずれているのか」「通信の遅延が原因なのか」。部品の納入遅れからロボットの実機の組み立てが当初予定から2カ月も遅れるトラブルも重なり、開発リーダーの小泉氏は展示会に間に合うのか、気が気でなかった。

空振りやラケットの端に当たったなどの失敗例を一つ一つ分析して、制御プログラムを修正する。手間のかかる作業をあきらめずに繰り返し、ようやくラケットの中心から2センチ以内にボールが当たり、狙った所から半径約10センチ以内に打ち返せるようになったのは、展示会直前の9月だった。

苦労の甲斐あって、コートの端を狙った難しい球も難なく打ち返す卓球ロボットの動きは、中国の展示会で来場者の驚きを呼んだ。

その後、卓球ロボットは新たな開発メンバーに引き継がれ、さらに“心やさしい”ロボットへと進化。山なりの球を打つことが多い子供やお年寄りでもラリーが続けられ、ノーバウンドの球でもロボットが打ち返せるようになった姿を今年10月に開かれた家電・ITの見本市「シーテック・ジャパン」で披露した。

開発担当の川上真司氏は「より人に合わせる面をうまく引き出せた」と話す。

決まった作業を繰り返すロボットから、環境の変化に合わせて行動をとる考えるロボットへ。卓球ロボットはそんな技術革新が間近にあることをみせてくれた。

卓球ロボット オムロンが、人とロボットが卓球のラリーを長く続けることを目的に開発した。「機械が自ら考え、人に合わせる」という新たな価値を提唱し、人が打ち返しやすい場所へ返球する。今年の家電・ITの見本市「シーテック・ジャパン」で、米国のジャーナリストが優れた技術を表彰する「米国メディアパネル・イノベーションアワード2014」のグランプリを受賞した。

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