下落続く原油価格、世界に影響は?

画像の説明 米は恩恵、サウジは価格戦争、露は「三重苦」

国際的な原油価格の下落が続いている。ニューヨーク・マーカンタイル取引所では、指標となる原油先物価格が6月下旬から5カ月で約3割下落し、13日には1バレル=75ドルを割り込んだ。米国のシェールオイルの増産や、欧州や中国の景気減速による需要の落ち込みなどが背景にある。石油輸出国機構(OPEC)が27日、ウィーンで総会を開くのを前に、加盟国のサウジアラビアや米国、ロシアなどが抱える事情を探った。

「原油価格の下落は米国にとって減税のようなもの」。欧州系金融機関のアナリストは原油安の恩恵をこう説明する。自動車社会の米国では、原油安はガソリン価格の下落を通じ、国民生活にプラスの影響を与えるからだ。

ガソリンの全米平均価格は20日時点で1ガロン=2・85ドルと約4年ぶりの低水準にある。1セント下がるだけで米国全体で年間10億ドル(約1180億円)の節約になるとの試算もあり、経済界では消費者がガソリン代以外にお金を使う余裕が増すとの期待が高まる。

世界的な原油安の背景にあるのは米国自身のシェールオイル増産だ。米国の2013年の原油生産量はオバマ大統領就任前の08年の1・5倍となった。14年も前年比約15%増で推移している。

オバマ氏は中間選挙の応援演説で、「この20年で初めて輸入量よりも多くの石油を生産している」と繰り返し、米国が原油の自給に向かっていることをアピールした。

ただし、原油安はシェールオイルを生産する米国のエネルギー企業にとっては逆風だ。通常の原油よりも採掘にコストがかかるシェールオイルは「原油価格が1バレル=60ドルを下回ると採算が合わなくなる」とも指摘される。(ワシントン 小雲規生)


      
OPEC総会では、世界最大の原油輸出国であるサウジアラビアの出方が焦点となる。サウジは原油価格の上昇を抑える“価格戦争”を仕掛けることで市場シェアの確保を狙っているとも指摘されており、大幅な減産に同意する見込みは薄いとの観測もある。

「石油を政治の道具にはしない」。サウジのナイミ石油相は今月中旬、同国の石油政策は、あくまで原油価格の安定を目指したものだと強調した。

しかし、市場関係者らの間では、サウジが原油価格の落ち込みを放置しているのは「米国で生産が急増しているシェールオイルを押さえ込むのが目的だ」との見方が広まっている。シェールは生産コストが高く、原油価格が下がれば生産のスピードも落ちる可能性が出てくるからだ。

また、サウジはシリア内戦などをめぐり産油国のイランやロシアと対立関係にあることから、油価を抑えることで両国に財政的な打撃を与えようとしているとの観測もある。

ロイター通信によると、サウジ当局者の中には非公式にながら、「石油価格が現状以下となっても(同国財政は)当面、耐えられる」とみる者もいるという。ただ、サウジの意思決定過程は透明性が低い上、OPEC加盟国の中には減産を求める国もあるとされ、総会の行方が注目される。(カイロ 大内清)


     
世界2位の産油国ロシアの経済は、ウクライナ問題をめぐる米欧の対ロシア制裁と通貨ルーブル安、さらに国際原油価格の急落が加わって「三重苦」に見舞われている。ロシアの国庫は歳入の約半分が石油・天然ガス関連で占められており、低水準の原油価格が続いた場合の経済への打撃は深刻だ。ソ連末期の1980年代と同様に、米国が原油価格引き下げを主導しているとの“陰謀論”もロシアでは根強い。

米欧の制裁では、石油最大手ロスネフチをはじめとする代表的企業が、国の資金援助を求めざるを得ない状況となっている。ルーブルが年初から対ドルで約4割も価値を下げ、食品価格の高騰も目立ってきた。来年の国家予算案は原油価格を1バレル=96ドルで策定されており、プーチン政権には大きな誤算となった。

原油価格が1バレル=80ドルで国内総生産(GDP)は前年比2%減、50ドルなら同6%減と予測されている。

米国は1980年代半ば、OPECの協力を取りつけて原油価格を3分の1に急落させ、91年のソ連崩壊に道を開いた。過激派「イスラム国」への対処で米国がイランに接近するのを阻止する思惑から、サウジアラビアなどが米国の「対露制裁」に手を貸している-との見方がある。 (モスクワ 遠藤良介)

■「需要、思ったほど伸びず」石油天然ガス・金属鉱物資源機構上席エコノミスト・野神隆之氏

原油価格の下落が続く背景には、まず世界全体の需要が思ったほど伸びていない現状がある。世界の需要を牽引(けんいん)した中国の経済成長が鈍化し、欧州経済を引っ張ってきたドイツの鉱工業生産も不調。米国経済はよくなってきているが、原油需要はむしろ減っている。

反対に、供給は懸念されていた遮断が起きず、需要を賄って余りある伸びをみせた。欧米の制裁で供給が下がったイランは核協議で交渉に着き、イラクも南部の油田が過激派「イスラム国」の攻撃から免れている。内戦で途絶したリビアの供給も回復してきた。

サウジアラビアは、米国のシェールオイルへの対抗上、意図して価格を下げてきたとも指摘されるが、これ以上、下がると財政が大打撃を受けかねない。OPECの足並みの乱れから、市場が「OPECは無力だ」と見放し、売り浴びせれば、急落で加盟国全体が痛い目に遭う。サウジもOPEC総会前後には減産に動かざるを得ないだろう。

総会でOPECが減産で結束を示せば、多少価格が持ち直すだろうが、中国や欧州の経済低迷から価格の上昇も一定程度にとどまるとみられる。

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