「人権侵害ウソ」

画像の説明 北朝鮮、異例の国連外交 DVD配り「人権侵害ウソ」

北朝鮮が自国の人権問題をめぐり、国連で積極外交を繰り広げている。国連総会第3委員会では今週にも、安全保障理事会に北朝鮮の人権問題を国際刑事裁判所(ICC)に付託するよう促す決議案が採決される見通し。最高指導者の責任にも触れる決議案が総会を通るのを何としても避けたい北朝鮮は、異例の対話姿勢に転じた。

脱北者の証言

北朝鮮は今秋以降、活発な国連外交を展開してきた。

北朝鮮国連代表部は10月7日に記者会見を開き、独自の人権報告書を配布した。人権問題の存在を否定し、「我々には懸念を解消する用意がある」と対話に応じる姿勢を強調。質疑にも丁寧に応じた。

「うそと真実」と題する約18分の朝鮮語のDVDも配布した。英語の字幕つきで、冒頭で「米国と悪意に満ちた勢力が、我が国に存在しない人権侵害を子どもじみた策略で広めている」と訴える。

その後、北朝鮮の人権侵害を証言する脱北者、申東赫(シンドンヒョク)さんへの批判が続く。政治犯収容所に生まれ育ったという申さんの半生は映画にもなった。国連の調査委員会の聞きとり対象にもなったため標的にしたとみられ、実父とされる男性(70)らが「収容所で暮らしたことはない」などと証言を否定する映像が流れる。

採決予定の11月が迫ると、北朝鮮の人権状況を調べる国連の特別報告者の面会要請に、北朝鮮当局者がこの10年で初めて応じた。

調査目的での訪朝を求める報告者のダルスマン氏に対し、北朝鮮側は決議案から最高指導者の責任とICCへの付託に触れた二つの条項を削除できれば応じる、と答えたという。

AP通信は先月末、北朝鮮がEUのランブリニディス人権問題特別代表にも訪朝の招待をしたと報じた。

今月14日、ソウルで記者会見したダルスマン氏は「責任を問うことが何より重要だ」と言い切り、訪朝には、どんな条件もあってはならないとした。

■正恩氏への追及懸念

決議案は、日本と欧州連合(EU)が10月に提出した。ダルスマン氏から北朝鮮の要望を聞いた日本政府の国連代表部は、「今の決議案に多くの支持が集まるよう努めるだけだ」と応じる様子はない。

北朝鮮の人権問題での行動を求める決議案の提出は10年連続だが、今回はICCへの付託を安保理に促す点が特徴だ。今年2月に公表された国連の調査委員会の最終報告書や、3月の国連人権理事会での非難決議を踏まえている。

ICCは、人道に対する罪や戦争犯罪が疑われる個人を国際法に基づいて訴追・処罰するための常設機関。死者30万人以上といわれたアフリカのダルフール紛争を裁き、大量殺害の罪を問われた大統領に逮捕状を出したこともある。

付託された場合、ICCの検察官が人権侵害の責任者の特定などをめざし、証拠や証言を集める。付託の権限は安保理が持つ。

今回の決議案は、北朝鮮で「国家の最高レベル」の政策に従って「人道に対する罪」に当たる人権侵害が行われてきたとして、責任者への「効果的な制裁措置」の検討も明記。制裁の中身を決めるのは安保理の役割だが、国連筋は「責任者を標的にした海外資産の凍結や渡航禁止などが検討対象になるだろう」と話す。最高指導者の責任に触れることは、金正恩(キムジョンウン)第1書記の独裁体制にある北朝鮮にとっては「タブー」だ。

決議案は、すでに約50カ国の賛同を得ているという。第3委で採択され、総会も通れば、その後は安保理の対応が焦点になる。

安保理常任理事国として拒否権を持つ中国の外務省は、付託に否定的な発言をしている。それでも北朝鮮が外交攻勢を緩めない理由を、安保理関係者は「北朝鮮批判が高まる中、拒否権行使は中国のダメージになる。本当に行使するのか、北朝鮮にも確信が持てないのだろう」と話す。

そうした状況で、キューバが決議の修正案を用意したと伝えられる。指導者の責任を問う条項が削除されており、安保理での議論を視野に入れれば、北朝鮮にとって救いだ。外交筋の間では、北朝鮮がキューバに水面下で頼んだとの見方が強い。北朝鮮関係筋は「キューバ案なら、内政干渉を嫌う中国やロシアも賛成しやすいだろう」とみる。

北朝鮮は核実験や長距離弾道ミサイル発射の強行で国際社会から幅広い制裁を受けており、人権問題が加われば、包囲網は強まる。

中国との関係が冷え込むなか、ロシアに急接近しているのも、国際的な孤立から脱する戦術とみられている。ロシアには人権問題での「助け舟」も期待している模様だ。今月上旬に、拘束していた米国人2人を解放したのも、人権問題をめぐる決議案を意識した動きとの見方が強い。

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