圧政に盾突くブラックユーモア

画像の説明 日本題材の絶品も

チャイナウオッチャーの日課として中国のネットの世界を漫遊していると、時々、会心の笑みを誘うものに出合うことがある。たとえば先日閲覧した中国の食文化に関するネット上の議論には、次の書き込みがあった。

「われわれ中国人は昔から何でも口に入れて食べる。おいしいものは珍味として楽しむが、まずいものは漢方薬として飲むのである」

なるほど、いわゆる「薬食同源」とは結局そういうことだったのかと、笑いながら妙に納得するのである。

冷めた目で自分と周辺を見て皮肉的な表現で風刺するのは昔から中国知識人の得意技だが、最近それが、中国共産党政権に矛先を向けることがある。

たとえば先月、米ミズーリ州で黒人暴動が起きたことを受け、中央テレビ局が「アメリカは人種差別の国だ」と批判したところ、民間のネットユーザーはさっそくかみついた。「アメリカは人種差別の国なら、どうして黒人のオバマさんが大統領になり得たのか。中国にも多くの民族があるのに、党と政府の指導者はいつも漢民族ではないのか」と。このような鋭い問い詰めに、当の中央テレビ局は答えようがないであろう。

あるいは以前、中国の国防省が「日本には人権、自由、民主を語る資格がない」と見当違いの日本批判を行ったところネットから上がってきたのは次のような反応だ。「日本に自由を語る資格があるかどうかは僕にはよく分からないが、資格のまったくない国は確かに一つある。それがどこの国か。僕たちにはそれを言える自由がないのである」

それは、私が今まで見た中国流ブラックユーモアの絶品の中の絶品だが、政府当局がなぜデタラメな日本批判を行っているのかに関し、ネット上で次のような指摘があった。

「1940年代、毛沢東は日本軍を利用して国民党政権を潰した。80年代、トウ小平は日本の経済援助を利用して経済成長に成功した。そして90年代、江沢民は日本を利用してナショナリズムをあおり立てて政権を維持した。今の政権も同じことをやろうとしているのではないか」と。

なるほど、近代から現代に至るまでの日中関係史は、まさにこの書き込みの一つによって完璧に総括されたような気がする。

共産党政権を題材にしたネット上のブラックユーモアはまだある。

「中国人のモラルが低いとよく言われるが、それは、モラルの一番低い人たちが中国を支配しているからだ。彼らは中国人全員のモラルが自分たちより高くなることを許さない。モラルの高い人間を監獄に入れたり殺したりして国民のモラルを落とす教育を実行した。だから中国人はこういう人種になるのだ」

「当局は“デマを流した”としてネットユーザーを逮捕したのはなぜなのか。デマを流すことは彼らの専権事項だからだ。政府は破廉恥な売春婦を取り締まるのはなぜなのか。似た者同士は嫌い合うからだ。某政党は民間のヤクザ組織を全滅させたのは一体なぜなのか。競争する同業者の存在を許さないからだ」

このようにして、中国のネットユーザーたちは、「共産党」や「中国政府」などの固有名詞をいっさい出さない巧妙な表現をもって、政権党と政府に対する痛烈な批判と皮肉を毎日のようにまき散らしている。今、習近平政権は「文革以来」と称されるような峻烈(しゅんれつ)さで国内の言論を徹底的に弾圧しているが、それでもユーザーたちは一向におびえる様子はなく、彼ら特有のユーモアセンスと不屈の反抗精神をもって政権批判を続けているのである。

そういう人々がいる限り、そして彼らの皮肉な政権批判にほほ笑みを浮かべながら共鳴する中国国民が大勢いる限り、この国はまだまだ、希望というものがあるのではないか。

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