厚顔無恥

画像の説明 助けた大王製紙の厚顔無恥に

四苦八苦する北越紀州の憂鬱

創業家との関係整理を条件に、北越紀州製紙に第三者割当増資を引き受けてもらった大王製紙。その直後、またもお家騒動が勃発、ガバナンス改善の兆しが見えない。

5月下旬、東京・日本橋にある北越紀州製紙の本社ビルに、佐光正義・大王製紙社長の姿があった。

訪れた目的は一つ。設備投資と有利子負債の返済に充てる資金を調達するため、筆頭株主である北越に第三者割当増資を引き受けてもらうこと。岸本晢夫・北越社長へお願いに上がったのである。

さかのぼること2011年秋、大王は創業家出身の井川意高・元会長による巨額の借り入れ事件が発覚した。個人的用途にもかかわらずグループ関係会社から総計85億円も借り入れたのだ。特別調査委員会は原因を「創業家支配によるもの」と結論付けた。

これを受け「脱創業家」路線を進めようと佐光社長ら現経営陣は、創業家が持つ関係会社株の売却を要請した。が、意高氏の父親で、大王の中興の祖である井川高雄顧問を中心とした創業家は猛反発。大王の経営形態は、創業家が株を持つ複数の関係会社が製造の大半を、大王本体が販売を担っていたことから、「製販のねじれ」が生じる窮地に陥った。

この仲裁役となったのが北越だ。創業家から大王本体と関係会社株を買い取り、関係会社株は大王に売却することで、創業家のメンツを保ちつつ、大王が経営体制を再構築できるよう図った。北越自体は大王株を22.29%持つ筆頭株主になった。

しかし、その後に大王の関係会社である川崎紙運輸が北越の知らぬところで北越株を約2%取得していたり、ガバナンスやコンプライアンスに関する問題が浮上した。北越は疑惑の真相解明を大王に求めたが、大王が当初行った調査報告は北越が納得できるものではなかった。

「自ら責任を持ってガバナンスの改善に取り組むことを約束した」はずだが

結局、外部調査を実施したことで、創業者の三男で高雄氏の弟である井川俊高特別顧問が北越に支配されることを嫌い、川崎紙運輸に北越株を買わせていたことが判明した。

問題の根底にあるのは「俊高氏など複数の創業家出身者が、関係会社の幹部あるいは実質的なオーナーとして名を連ね、彼らを佐光社長が全くコントロールできていないこと」と関係者は語る。

こんな状態であるのに、冒頭の増資引き受け要請は受け入れられたのか。結論から言うと、なんと受け入れられたのである。

岸本社長を前に佐光社長は、関係会社が北越株を取得したことなど疑惑に関する社内調査や対外的な説明は不十分であったと陳謝。その上で、「創業家との関係を整理するため、俊高氏や高雄氏ときちんとコミュニケーションを取り、自ら責任を持ってガバナンスの改善に取り組むことを約束した」(大王製紙関係者)。これに岸本社長は、ほだされたわけである。

今回、大王が増資の理由とするのは、紙おむつなど家庭紙への設備投資と、有利子負債の返済だ。大王は「エリエール」ブランドで国内ティッシュ市場のシェア首位であり、大人用紙おむつ「アテント」や赤ちゃん用紙おむつ「GOO.N」もシェアが高い。そのシェアを守るべく福島県で工場の新設を計画している。

中国では品質の高い日本製の紙おむつの需要が急拡大しており、中国の紙おむつ工場で大幅な能力増強も予定する。稼ぎ頭の家庭紙で投資機会を逃せない。

大王の利益が拡大することは、大王を持分法適用関連会社とする北越にとってもメリットになる。

顧問が社長を訴える──。前代未聞の珍事

ところが、である。北越が引き受けた約40億円の第三者割当増資が6月17日にめでたく完了したわずか6日後、高雄氏が名誉棄損で佐光社長を訴えた。

意高氏の巨額借り入れ事件をめぐり、顧問の職を解任されたことで(現在は復職)、「(意高氏の独断だった)巨額借り入れに、自らも重い責任があるとの印象を与えられ、名誉を傷つけられた」と主張。謝罪広告の掲載と慰謝料1億1000万円を求めているのだ。

顧問が社長を訴える──。この前代未聞の珍事により、北越が期待した「大王のガバナンス改善への取り組み」は早々に裏切られた。

畳み掛けるように6月30日、大王は北越をけん制するかのようなリリースを発表した。

タイトルは「支配株主等に関する事項について」。北越の持分法適用関連会社であり、同社から社外取締役を1人受け入れてはいるものの、経営は自主独立で行っていくことを強調している。わずか1枚強のリリースにおいて、都合4回も「自主独立」「独自」「独立性」の言葉をちりばめる念の入れようだ。

事業自体は堅調な大王製紙だが、ガバナンスが脆弱なままでは、その事業力の高さを生かし切ることができなくなる恐れもある

長期化するお家騒動で遠のく2強の背中

北越が大王株に投じた費用は100億円規模とみられる。大王の経営に手をこまねく北越に対して、金融筋からは「お家騒動に終止符が付きそうにない大王に関わるより、注力している中国工場などに経営資源を集中させるべきなのでは」との意見もある。

岸本社長もただの“お人よし”ではない。かつて、王子製紙(現・王子ホールディングス)にTOB(敵対的買収)を仕掛けられたときから、製紙業界の2強である1兆円規模の王子や日本製紙に肩を並べる「第3極」の形成を主張してきた。業界第5位、売上高2000億円強の北越は、同社が手掛けていない家庭紙に強く、売上高4000億円強の大王が魅力的に映る。

とはいえ、大王のお家騒動はまだまだ尾を引きそうだ。

高雄氏は佐光社長への提訴に「準備に2年をかけた。徹底的に社長と対立する」と周囲に漏らしているという。自身が一度、職を解かれた一方で、佐光社長が今日まで何ら責任を取っていないことが許し難いのだ。裁判が長続きすれば、佐光社長の進退も問われかねない。

お家騒動を抱えながらも事業は堅調で自主独立を貫く大王と、大王の扱いに四苦八苦する北越。業界第3極形成の道のりは遠い。

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