「新型肺炎で「LNG歴史的超安値」に日本の電力・ガス会社がおびえる理由」

画像の説明

中国の新型コロナウイルスによる肺炎(新型肺炎)の影響が、液化天然ガス(LNG)市場に及びつつある。新型肺炎がアウトブレークする中、LNGのスポット価格は歴史的な超安値を記録している。背景には、中国のエネルギー業界がLNG調達を急速に絞っていることがある。この影響は、日本の電力・ガス業界を含む世界のエネルギー市場を揺るがしかねない。

中国のエネルギー大手が
LNG輸入を一時停止か

「最悪のシナリオを想定し、準備をしておく必要があるかもしれない」。

シンガポール在住のLNGトレーダーは、LNG市場の短期的先行きに極めて悲観的だ。その根拠は、中国のエネルギー大手が新型肺炎の拡大を受け、LNGの輸入を一時停止しているという見方が市場に広がっていることだ。

今月に入り複数の外資メディアは、国有エネルギー会社の中国海洋石油集団(CNOOC)が不可抗力条項の適用を宣言したと報じている。この条項は、自然災害や戦争、疾病などで契約が履行できない場合に適用し、債務履行責任を免除するもの。簡単に言うと、ひとたび購入契約したLNGの引き取りと対価の支払いを、「いかんともしがたい事情」で拒否する事態だ。

CNOOCはLNGの買い手としては中国最大手だが、新型肺炎を受け、売り手であるロイヤル・ダッチ・シェルなど外資資源大手に不可抗力を宣言したと伝えられている。CNOOCは実際に宣言したかどうかを、現時点では明らかにしていない。

中国は年間5000万トンのLNGを輸入しており、日本に次いで世界2位の輸入量を誇る。その中国がLNGの輸入を一時的にでも停止すれば、LNGは行き場を失うことになる。

世界のLNG市場は新型肺炎のアウトブレーク以前から、東アジアの暖冬の影響で供給過剰の状態に陥っていた。LNGの代表的なスポット価格指標であるジャパン・コリア・マーカー(JKM、主にアジアで取引されるLNGのスポット価格指標)は、今年に入ってから下落の一途だった。

そして中国での新型肺炎の感染拡大が明らかになると、JKMはさらに下落局面を迎え、2月5日には3.15ドル/100万英国熱量単位にまで落ち込んだ。年初の5ドル台に比べて大幅に低いだけでなく、歴史的に振り返っても低水準を記録している(JKMの出所はS&Pグローバルプラッツ)。

ちなみに、2011年の東日本大震災以降のJKMは、15ドルを超えていた。震災によって日本の原子力発電所が次々と運転停止に追い込まれ、代替のLNG火力発電所をフル稼働させるために、日本の大手電力会社がスポット価格でLNGを買い漁ったからだ。

スポット価格下落が日本にとって大きな打撃になる理由

日本の電力・ガス会社に
高まるLNG売却損失リスク
 
スポット価格の下落は、世界最大のLNG輸入国である日本にとって大きな打撃になる。

日本の大手電力・ガス会社は、10~15年の長期契約でLNGを調達している。長期契約には電力・ガス供給が安定するメリットがあるが、調達価格はスポット価格よりも基本的に高い。この価格差は、電力・ガス会社が調達したLNGを転売する際に大きなネックとなる。

電力・ガス業界では近年、小売りの全面自由化を受け、競争が急速に激化している。また原子力発電や太陽光発電のような再生エネルギーの稼働状況も不安定だ。この結果、既存の電力・ガス会社にとっては、自社に対する需要を見通すことが難しくなっている。需要が想定を下回った場合、原料のLNGを転売するのだが、その時点でスポット価格が下落していれば、電力・ガス会社は損失を計上せざるを得なくなる。

実際、九州電力は2020年3月期の中間決算で、余剰LNGの転売に伴う損失を130億円計上している。これは競争激化などを受けた需要下振れが要因だったが、今後、中国のLNG需要が戻らず、スポット価格が歴史的低水準にとどまり続ければ、複数の電力・ガス会社が転売損失を計上する恐れがある。今年1月以降の動向は、現在開示が進んでいる2020年3月期の第3四半期決算には反映されていないが、今後の業績開示には「極めて要注意」だ。

世界で行き場を失うLNG
産出国には大きなリスク
 
中国発LNGショックの影響は、日本にとどまらず、世界にも広がる。新型肺炎による経済減速は、中国のLNG需要を確実に減退させる。中国で消費されるはずだったLNGがどこへ向かうかというと、比較的LNGを受け入れる余地がある欧州市場だと想定できる。

そして欧州も受け入れ余力が限界に達したら、どうなるのか。上流の“蛇口”を閉める、つまりLNGの生産を止めるか、生産ペースを緩めることになる。そうなった場合、上流のLNG生産プロジェクトそのものの採算が合わなくなるリスクが潜む。

LNG取引量世界首位、ロイヤル・ダッチ・シェルの株価はすでに、年初から1割強下落している。また中国のエネルギー会社が契約する上流プロジェクトは、米国やオーストラリア、マレーシア、カタールなどに点在しており、こういった地域の経済に冷水を浴びせる恐れがある。世界経済に与えるインパクトは計り知れない。

コメント


認証コード2976

コメントは管理者の承認後に表示されます。