「「中国の決定的な弱点」

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新型肺炎 上海在住24年の日本人医師が訴える「中国の決定的な弱点」とは

中国で新型コロナウイルス肺炎が猛威を振るっている。中国国家衛生健康委員会によると、27日午前0時時点の感染者数は2744人、死者数は80人となった。中国政府は最初の感染地となった湖北省武漢市など一部都市を封鎖したほか、患者が確認された地域では公共施設の閉鎖、海外団体旅行の中止など国民の移動制限に関する対策を次々と発表している

地元当局が当初、感染情報を公開しなかったこともあり、実態は公式発表以上に深刻ではないか、日本でも大流行するのではないかとの不安が広がっている。

こうした中、ツイッターで注目を集めているのが上海東和クリニックの藤田康介医師だ。どう対策するべきか、なにに注意するべきかを冷静に紹介している。藤田医師は1996年から中国に留学し、上海中医薬大学博士課程を修了。日本人初の中医学博士号を持つ中国執業医師として上海で勤務している。その長い中国キャリアから、新型コロナウイルス肺炎を引き起こした、中国の本当の課題が透けて見えるという。

新型コロナウイルス肺炎は今、中国でどのような事態を引き起こしているのか。関係の深い隣国である日本はどのように対策するべきか。藤田康介医師に聞いた。

「封鎖前に武漢から出た人々の潜伏期間が終わる」

――新型コロナウイルス肺炎が猛威を振るっています。かつてのSARS(重症急性呼吸器症候群)を超える深刻な状況だとの危機感が広がっています。

藤田康介医師 現段階での感じではSARSよりも感染力が強いのではないかという指摘が専門家からもでています。ただし重篤になる確率はSARSよりも低いと言う指摘もありますし、治癒する人も多いです。詳細は今後の論文を待ちましょう。亡くなった方は多くが中高年ですから、高齢者など体力が弱い人は特に注意が必要です。

とはいえ、日本人は余計に心配する必要はないでしょう。中国当局が感染者数、死者数の最新統計を発表するたびに日本ではトップニュースになっているようですが、一喜一憂する必要はありません。今の段階では増えて当たり前なので。「ああ、新しい統計がでたのね」ぐらいに受け止めておけば十分です。武漢市が交通封鎖を行ったのが23日ですから、ちょうど封鎖前に市外に出た人々の潜伏期間が終わるタイミングです。発見される感染者数は増えて当たり前でしょう。
 
封鎖前の感染者が発病するピークを超えた後に二次感染がどれだけ広がるかが課題です。そのために中国国内の移動制限であったり、感染の可能性がある人の自主的な自宅待機であったりが重要です。

――現時点ではSARSより毒性が弱くても将来的な変異のリスクは否めません。

藤田 そのとおりで、ウイルスが変異しないかは注視する必要があります。現時点では変異は確認されていないようです。
 
ただ、日本の皆さんに覚えておいて欲しいのは、ウイルスの変異におびえる前にやるべきことがある点です。マスク、手洗い、顔洗い、換気、人混みを避ける、しっかり休養を取る。発熱があって体調が悪いのに無理に出社するようなことはしない。

こうした基本的な対策を徹底すれば十分です。結局のところ、ウイルスが変異しようがしまいが、個人にはこれ以上の対策はありません。付け加えるならば、他にインフルエンザなどの病気もあるわけです。新型コロナウイルス肺炎が流行していようがしていまいが、そうした予防の重要性は変わりません。

「肺炎のフェイクニュースが多すぎる」

――中国は1000万都市の武漢を封鎖するなど、史上空前の対策を打ち出しています。おそらく倒産する企業が出るなど経済的なダメージも大きいはずです。そうした犠牲を覚悟してでも強引な対策を打ち出しているのには、公式発表以上にひどい状況があるからではないか。そうした見方をする人もいるようですが。

藤田 確かに驚くような対策が打ち出されていますね。ただ、その背景には中国ならではの事情があることを理解するべきでしょう。中国はもともと人の移動が多い国です。しかも旧正月休み(公式には1月24日から30日までが休み、2月2日まで延長されると報じられている)と重なったこともあって、感染拡大のリスクはきわめて大きい。力ずくでも押さえ込まなければならないという判断になったのではないでしょうか。
 
強硬策ともいえる封じ込めの手段をとったわけですが、上海在住の私の見たところでは大きな混乱は出ていないようです。旧正月休みで仕事もないので、政府の言うとおりに家でごろごろしている人が多いのではないでしょうか。ヒマなのでスマホばかり見て、肺炎に関するフェイクニュースで過剰な心配をしている……

というのはマイナス点かもしれませんね。2003年のSARS流行時には情報がなくて困った人が多かったのですが、今回はフェイクニュースを含めて情報が多すぎて混乱する人が出ています。ツイッターを見ていると、中国の怪しげなニュースをわざわざ日本語に翻訳して紹介している人も多いのが残念ですね。
 
世界保健機関(WHO)が世界的なリスクは低いと判断したのには一定の根拠があると思います。日本でも中国ばりの強硬的な水際作戦や隔離を行うべきとの意見もあるようですが、そこまでの対策は不要でしょう。適切な注意喚起や健康不良者のサポート、航空便の乗客を追跡できるようにしておくといった措置で十分です。
 
繰り返しになりますが、中国でこれほど問題化しているのは中国独自の事情という側面が強いのです。

――移動が活発な人口大国という面ですね。

「日本のショッピングモールは中国の五つ星ホテル以上にキレイだ」
藤田 それに加えて中国社会の衛生観念という問題があります。私はずっと前から言い続けているのですが、手鼻、タン吐き、立ち小便、手洗い、トイレの清潔さなどで中国はまだまだ不衛生なことが多い。

もちろん昔と比べればだいぶマシになりましたが、それでも日本と比べれば大きな差があります。私の妻は中国人ですが、日本のショッピングモールに買い物に行くと、「中国の五つ星ホテル以上にキレイだ」とびっくりしています。

――2017年には習近平総書記がきれいな公衆トイレを整備するよう指示する、いわゆるトイレ革命もありました。ある日本メディアでは「民草のために心を砕く、優しい指導者を演出するための宣伝工作」と分析していました。

藤田 衛生観念の向上は中国社会にとって重要な課題です。摩天楼が建ち並ぶ近代的な街並みになっても、そこに住む人々の意識を変えなければ意味がありません。私が中国で暮らしだしてから、何度も感染病の流行がありましたし、妻にはかつてのコレラや肝炎流行の記憶もあります。

空気感染する結核もまたしかりです。中国伝統医学が発展したのも、実はこうした伝染病と関係がありました。中国の歴史はまさに疫病との戦いだったのです。結局、一番の根っこは同じで、衛生観念が向上していないことにあるのです。今の中国ならばテクノロジーの力で感染病を押さえ込めるのではなどと持ち上げる人もいますが、その前の基礎的な取り組みのほうがよっぽど重要です。
 
マンションなどのハードウェアは先進国並になり、国中に高速鉄道が張り巡らされて人々は自由に移動できるようになった。しかしながら、衛生観念の面では人々の意識はまだ途上国というギャップがある。

これこそが中国に繰り返し感染病危機をもたらしているのではないでしょうか。

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