「南海トラフより切迫」のエリア 」

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2020年、次の巨大地震はどこか 最新科学が警告する「南海トラフより切迫」のエリア
 
新約聖書「ヨハネの黙示録」では、世界最後の日に起こる決戦の地を「アルマゲドン」と呼んでいる。そこから転じて、現代では破滅的な事象を示す言葉として使われるようになった。近年では、地震サイクルの例外的存在の巨大地震を「アルマゲドン地震」と呼ぶこともある。
 
アルマゲドン地震として記憶に新しいのは、マグニチュード(M)9.0を記録した2011年の東日本大震災だ。津波によって1万8000人以上の死者・行方不明者を出した。同規模の地震は500年に1回とされるが、今、日本で東日本大震災クラスの地震が「切迫している」と地震学者から警戒されている地域がある。産業技術総合研究所の宍倉正展・海溝型地震履歴研究グループ長は、こう話す。

「警戒されているのは、北海道東部(太平洋沿岸)を襲う千島海溝で起きる地震です。この土地に古くから住むアイヌ民族は、文字で歴史を伝承する文化を持っておらず、過去の巨大地震についてわからないことが多かった。それが、地層を調査した結果、平均400~500年の間隔で巨大地震が発生していたことがわかりました。

前回の巨大地震は1600年代前半で、発生から約400年が経過しています。次はいつ起きてもおかしくない時期に入っています」
 
気になるデータもある。根室市にある検潮所で年間の平均潮位を調べると、1年で1センチのペースで沈降している。これは、日本の他の潮位観測所と比べて早いスピードだ。

「地震前に地盤が沈降することは以前から知られていましたが、近年では巨大地震が近くなるにつれて地盤が下がるペースが早くなると考えられています。東日本大震災の前には、岩手県釜石市でも年間約1センチのペースで地盤が下がっていました。日本の他の地域で、北海道東部ほど地盤が急速に下がっているところはありません」(宍倉氏)
 
これまで予想されていた巨大地震といえば、東海から九州地方太平洋側の南海トラフのエリアだとされてきた。それが、政府の地震調査委員会も、17年からは千島海溝沿いの巨大地震について「発生が切迫している可能性が高い」と分析し、今後30年以内の発生確率を最大40%としている。
 
警戒すべきはアルマゲドン地震だけではない。ここ数年は熊本地震(2016年)、大阪北部地震(18年)、北海道胆振東部地震(18年)など、内陸部の直下型地震が相次いでいる。

一般的に、内陸部で発生する地震は活断層帯が動くことで発生すると思われているが、それは正確ではない。

「断層が地表にあらわれる規模の地震は、おおよそM6.8以上が目安とされています。裏を返せば、それ以下の大きさの地震は、地層に痕跡が残りづらい。大阪北部地震や北海道胆振東部地震も、既知の活断層帯からやや外れた地域で発生しています。『活断層帯から外れているから地震は心配しないでいい』というのは間違いです」(宍倉氏)
 
日本に住んでいる限り、地震から逃れることはできない。そこで必要なのは、日ごろから防災意識を持ち、備えをしっかりしておくことだ。
 
現在でも地震によるケガの原因の約30~50%が、家具類の転倒や落下によるものだ。すべては難しくても、寝室や居間にある家具だけでも固定するだけで効果は大きい。大阪北部地震では、ブロック塀の倒壊で登校中の女児が亡くなった。日ごろから危なそうなブロック塀がある場所を把握しておき、いざという時に近づかないようにしたい。
 
強い耐震能力をうたった高層ビルやタワーマンションも多いが、だからといって建物が揺れないわけではない。むしろ、大きな地震の場合は高層の建物がゆっくりと大きな幅で揺れ動く「長周期地震動」が発生する場合がある。家具や家電製品を固定していなければ、ケガの危険だけではなく、ドアをふさがれて逃げ場を失う可能性もある。キャスター付きの冷蔵庫は、部屋の中を速いスピードで動きまわる可能性もある。最新の耐震設計だからといって、安心してはいけない。
 
発災後に避難所生活になった後も、注意が必要だ。東日本大震災では18年9月までに災害関連死で3701人が亡くなっている。復興庁の調査では、12年3月までに調査対象1263件のうち51%にあたる638人が避難所での肉体や精神的疲労が原因で亡くなったという。避難所・避難生活学会の水谷嘉浩理事は、避難所での生活のリスクをこう説明する。

「被災すると、恐怖や不安がもとで精神的ダメージがあるだけではなく、体育館に雑魚寝の避難所では、さらに不眠や疲労の蓄積で肉体的ダメージも受けてしまいます。高齢者に限らず、健康に問題ない人でも、突然エコノミークラス症候群で亡くなることもあります」
 
避難所では、簡易ベッドを利用すればエコノミークラス症候群やホコリの吸引を防ぐことができる。災害時に出される菓子パン、おにぎり、カップラーメンといった食事が続くと高血圧・高血糖値で持病が悪化する危険性も高まる。そこで、避難所で安心して生活するためには「TKB(トイレ、キッチン、ベッド)」を48時間以内に準備することが重要となる。水谷氏は続ける。

「避難所への支援で先進的な取り組みをしているのがイタリアで、専門の訓練を受けた民間の職能支援者が約300万人います。衛生管理の知識を持つ調理師も、発災から数時間で派遣される仕組みになっています。日本のように菓子パンとカップラーメンではなく、発災後すぐにキッチンカーで避難所に向かって、パスタや肉料理、野菜などのバランスのとれた温かくて美味しい食事を提供します。イタリアのような取り組みをするためには、日本全体で避難所の環境改善を考えなければなりません」
 
政府が対策をしていないわけではない。避難所の運営は原則として市区町村の自治体が運営することになっている。それが、大きな災害になって国が定める災害救助法が適用されると、救助に必要な部分の費用は都道府県や政令指定都市、国が負担することになる。『自治体職員のための災害救援法務ハンドブック 備え、初動、応急から復旧、復興まで』の著書がある岡本正弁護士は、こう話す。

「同法が適用されることで、政府は自治体向けに避難所環境の整備などについて様々な『通知』を出します。実は、そこにはトイレや食事、ベッドなどを準備するように明確に書かれています。しかも、必要な費用は法律にもとづき国や都道府県が負担することになるので安心です。しかし、現場で避難所を運営している自治体職員やボランティアらでも、そのことを知らない人が多い」
 
内閣府が作成した「避難所運営ガイドライン」にも、「復旧期(4日目以降)は、簡易ベッドを確保すること等が期待」、「すべての被災者が安心してトイレを利用できるよう、障害者や女性等の意見を積極的に取り入れる」と書かれている。にもかかわらず、日本では避難所生活を原因とした災害関連死が多いのはなぜか。岡本氏は言う。

「日本では『被災者はガマンするもの』という考えが強く、避難所の環境に不満があっても声に出さない人が多い。被災者も、避難所を運営するスタッフも、災害救助法や国が示したガイドラインをよく理解し、『トイレが足りない』『ちゃんとした温かい食事を出してほしい』という要望が、健康を守るために必要であることを知ってほしいと思います。それは、平時からの避難所運営訓練の質の向上や、備蓄品の充実にもつながってくるはずです」
 
いざという時のために、一人ひとりが避難所運営のガイドラインを知っていることが、自らの健康を守るための武器になる。
 
前出の宍倉氏も、災害から自らを守るためには「知識が必要」と話 す。

「自分の住んでいる地域は過去にどのような災害があり、どのようにして街ができたのか。地震、洪水、土砂崩れなど、地域の災害の歴史を知ることで警戒すべきところがわかり、心構えや準備ができるようになります」
 
天災は避けることはできないが、被害は減らすことができる。一年のはじまりに、「知識の備え」も十分にしておきたい。

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