「香港人権法案成立」

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1.香港人権・民主主義法案

11月27日、アメリカのトランプ大統領は、香港の反政府デモを支援する「香港人権・民主主義法案」に署名し、法案が成立しました。

トランプ大統領は署名にあたって声明を出し、「習近平中国国家主席と香港の市民に対する尊敬から、これらの法案に署名した。中国と香港の指導者と代表者が対立を友好的に解消し、長期的な平和と繁栄をもたらすことを願うものだ」と説明しています。

来年の大統領選を控えたトランプ大統領は、これまで法案に署名するか拒否権を発動するか明確にしていなかったのですけれども、関係筋によると、議会が法案を可決した後、法案を支持した場合に中国との通商交渉に悪影響が及ぶかどうかについてトランプ大統領の側近らが協議。最終的には大半がデモ参加者への支持を示すために署名することを勧めたそうです。

今回、トランプ大統領が署名した「香港人権・民主主義法」は、香港返還に先立つ1992年に成立した「香港政策法」を修正し、新たな規定を加えた法律です。

従来の「香港政策法」では香港に対し、関税やビザの発給などで中国本土とは異なる優遇措置を認める一方、アメリカ大統領が香港の自治が不十分と認めれば、これらの措置を停止できると規定していました。

今回の「香港人権・民主主義法」では、これに加えて、新たにアメリカ政府に対し一国二制度に基づく香港の高度の自治が中国政府によって損なわれていないか検証し、毎年議会に報告するよう義務づけられており、例えば香港の市民を中国本土に移送して恣意的に拘束するといった抑圧があった場合に、これに関わった中国の当局者などにビザの取り消しや資産凍結といった制裁を科すことが出来る条項も新たに設けられています。

また、トランプ大統領は今回の「香港人権・民主主義法」に加え、アメリカ企業に対し、香港への催涙ガスなどの装備品の輸出を禁じる法律にも署名しています。これにより、香港当局が抗議活動の取締りに使われる催涙ガスや催涙スプレー、ゴム弾、放水銃、手錠、スタンガンなどといった装備品について、法律の施行30日後から大統領に輸出許可を出すことを禁じることが可能となりました。

2.ありがとうトランプ大統領

今回の法案成立にやはり香港の抗議デモが大きな役割を果たしました。

今年6月、アメリカの共和、民主両党の対中強硬派の議員は、香港での人権の尊重と民主主義の確立を支援する法案を上下両院に提出。9月には香港で抗議活動を続ける民主派のメンバーが議会の公聴会に出席し、「歴史家が振り返った時、アメリカ議会が香港と人権と民主主義を守ったと評価されるようになってほしい」と、法案の可決を訴えました。

そして11月19日、議会上院は全会一致で法案を可決。下院も翌20日に賛成417、反対1で可決。更に、香港でのデモ隊と警察の激しい衝突を受けて、デモ隊に向けて使用される催涙ガスやゴム弾などを香港の警察に輸出することを禁止する法案も全会一致で可決しました。

これらは、トランプ大統領の署名に向けてホワイトハウスに送られ、今回署名、成立となった訳です。

香港ではこの法案が成立したことについて、抗議活動の参加者から歓迎の声が相次ぎ、28日には金融機関などが集まる香港中心部で数百人の市民が集まり、「自由のために戦おう」などと声をあげました。

抗議活動の参加者の中には、「ありがとうトランプ大統領」などと書かれたプラカードを持つ者も現れ、同じく、抗議に参加した30代の男性は「数か月間、抗議活動をしてきましたが、世界各地、特にアメリカからこのような反応があり、とてもうれしいです」と話し、また30代の女性は「とてもうれしいですが、まだ長い闘いになると思います。引き続き、抗議活動を行っていこうと思います」などとトランプ大統領に感謝の意を示しながら、政府が要求を受け入れるまで活動を続けていくという声が多く上がっているようです。

28日、香港で5年前、民主的な選挙を求める抗議活動「雨傘運動」を主導した黄之鋒氏は記者会見を行い、香港人権法が成立したことを受けて「今後、こうした動きがアメリカだけでなく、イギリスやイタリア、ドイツなど各国に広がってほしい」などと、述べ、メリカの香港への支援の動きは香港政府の後ろ盾となっている中国に対するけん制になるという考えを示しました。

3.香港問題に干渉するいかなる外部勢力にも反対する

これに対し、強烈な不満を示しているのが香港政府と中国政府です。

香港政府は「この法案に強烈に反対するとともに、われわれが何度も示してきた懸念をアメリカが無視したことに最大限の遺憾を表明する。この法案は明らかに香港の内政に干渉するもので必要もないし、根拠もない。デモ隊に誤ったシグナルを送るもので、香港情勢の緩和に役立たない」と非難する声明を出しました。

今のところ、香港政府トップの林鄭月娥行政長官は行政長官の直接選挙の導入など市民のさらなる要求に応じる考えを示していません。

一方、28日、中国外務省は「中国政府と人民は断固反対する」との声明を発表。「香港問題に干渉するいかなる外部勢力にも反対する」と宣言しています。

また、中国外務省の楽玉成次官は北京に駐在するアメリカのブランスタド大使を呼び出し、「中国の内政に著しく干渉するものだ……アメリカの誤った措置に対し中国は必ず報復し、一切の悪い結果はアメリカが負うことになる」と、報復措置を辞さない考えを伝えました。

更に、中国外務省の耿爽報道官は同じく28日の記者会見で「米中関係と両国の重要な協力に影響を及ぼさないために、アメリカには法律を実行に移さないよう強く促す」と報復措置を辞さない考えを示しました。ただ記者から具体的にどのような報復措置をとるのかとの質問には「引き続き、関心を持って見ていてほしい」と明言を避けています。

中国外務省は26日に、北京に駐在するアメリカの中国大使を呼んで、法案が署名されればアメリカが「すべての結果の責任を負う」ことになると警告していた上での法案成立ですから、全く何も報復しない訳にはいかないでしょうね。一部には、香港に干渉していると見なすアメリカ企業や個人をリスト化し、中国市場から締め出すことを検討しているという話もあるようです。

4.香港当局に科せられた足枷

筆者はこの「香港人権・民主主義法」の成立で、香港デモはまだまだ長引くことになると見ています。

それは、この法案を根拠にアメリカによって香港が監視され、世界の注目を集めることはもとより、香港当局へのデモの取り締まりに足枷を嵌めるものであるからです。

足枷とはもちろん、「群衆向け軍需品の香港警察への輸出を1年間禁止する法案(S.2710)」です。

この法案では、禁止品を「催涙ガス、唐辛子スプレー、ゴム弾、発泡ラウンド、ビーンバッグラウンド、コショウボール、水の大砲、手錠、シャックル、スタンガンとテーザー」と定義(Section1.(2))し、それらの輸出が「アメリカの国益および外交政策の目標にとって重要である」と宣言しています。(Section2.(1))。

そして、これら法案は成立後1年で失効する(Section3)としています。ただ、「香港人権・民主主義法」で香港の状況は毎年報告される訳ですから、改善が見られない場合は更に延長することも大いにあると思われます。

輸出禁止に指定された群衆向け軍需品は基本的に消耗品ですから、派手に使えばすぐに無くなってしまいます。ですから、これまでのように、群衆に向けて矢鱈に発砲して鎮圧するのはやりにくくなります。

また、アメリカから輸入できなくなったからといって他国から供給を受けようと動いたとしても、香港当局に強制鎮圧の意思ありと見做されるばかりか、場合によっては、香港にそれらを輸出しようとする国が睨まれることになります。

かといって、人民解放軍の装備を香港警察が使い始めるとなったら、それはそれで、表向きには中国の介入となり、一国二制度が守られていないことを自ら証明するだけでなく、今回制定された「香港人権・民主主義法」に基づき、更なる制裁の根拠を与えることにもなりかねません。

筆者は、トランプ大統領の戦のやり方はまず補給路を断ってくる戦術を取る、とこれまで何度か指摘していますけれども、今回も御多聞に漏れず、香港当局の補給路を絞りに来ました。

香港の今後のデモ活動および当局の対応がどう変わってくるのか。香港情勢には注意が必要だと思いますね。

日比野庵

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