「中国で体験した凄まじい気候変動の前触れ」

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中国で体験した凄まじい気候変動の前触れ「雨前線の移動」とは

Tシャツびしょ濡れから一転、
寒さに震えるほど気温が低下
 
先月、中国の陝西省西安市を訪問したとき、安康にも行ってみた。安康に行くには、秦嶺を通過しなければならない。拙著『「中国全省を読む」事典』では、陝西省の地理環境について、次のように記述している。

「同省の標高は南部と北部が高く、中部が低い。黄河流域と長江流域の分水嶺(ぶんすいれい)で、南方と北方の境目でもある秦嶺(しんれい)、喬山が省の東西を走り、陝西省はそれによって陝北、関中、陝南の三大自然区に分かれている。面積の45%を占めているのが海抜800~1300メートルの黄土(こうど)高原だ。特に陝北地区は乾燥した気候で、年間平均降水量が300~600ミリと少ない。土壌の浸食が深刻で、農作物を栽培してもたいした収穫が期待できない」

安康には1泊しか滞在できる時間的余裕がなかったが、中国の西北地域でまるで南方地域か西南地域のように緑豊かな環境を実体験できたことに、私は興奮した。降雨量も多いし、湿気も結構高い安康周辺は、野生のナツメなどの物産が豊富だ。何よりも、南方と同じくらい暑いと思うほど気温が高い。

夕食後、1時間くらい散歩する習慣を持つ私は、ホテルを出てそんなに歩いていなかったにもかかわらず、すでにTシャツが汗でびしょ濡れになってしまった。
 
安康で1泊した翌日、また秦嶺を貫くトンネルを経由して西安に戻ってくると、雨が降っているせいか、なんとTシャツ姿では寒く感じるほど気温が下がっていた。道を急ぐ通行人を見ると、すでにコートを着込んでいる女性がいた。分水嶺の存在感を十二分に実感できた瞬間だった。
 
私たちを案内する地元の関係者が、「ここ数年、秋の雨が多い。降雨期間も長くなった」と呟いていた。その時点では、私はこの呟きを特に問題にせず、そのまま聞き流した。
 
しかし、日本に戻ってしばらく経ってから、気候変動に関するある情報誌を読んだとき、私は目を点にして、その情報を数回も読み直してしまった。

凄まじい勢いで植生が拡大
「雨前線の移動」とは何か

「中国の降雨の臨界点は全地域において北へ移動」と題するこの情報は、中国の雨前線の移動に大きな変動が起きていることを取り上げている。
 
それによると、中国の気候はこれまで秦嶺山脈を境界線として、片方は湿潤温暖、もう片方は乾燥寒冷地帯であった。しかし、今年は豊富な雨が秦嶺山脈を超えて降っただけでなく、青海チベット高原にも降った。青海チベット高原の全範囲を超えただけでなく、新疆の2大盆地(タリム盆地、チャイダム盆地)にも雨が降り、すでに3年間もこのような状況が続いている、ということだ。
 
その降雨量の変化により、現在の新疆の植生は1年で150キロの猛烈な速度で地盤を拡大している。内蒙古の植生は、今年は40キロというすさまじい速度で回復している。一方、東北地域の黒竜江省では、森の中には多くの広葉樹が育ち始めたという報告が出ているそうだ。
 
これまで、中国の降雨地域の極限は四川省の雅安だった。四川盆地の雅安地区が最も降水の多いところだった理由は、気温が高くなければ、水蒸気を含む雲は秦嶺山脈や川北高原を越えられなかったため、その水分はすべて雨となって雅安のところで降っていたからだ。
 
しかし、異常な気候変動により、今は雨前線が陝西省漢中市にその勢力範囲のラインを敷いた。つまり、雨の極限が全ラインで陝西地区に進んだといえよう。
 
もう1つの要素にも触れてみたい。中国政府が西北地域などで推進している「退耕還林政策」だ。
 
中国では土地の過剰利用などによる土壌流失問題の深刻化、乾燥地帯の拡大による砂漠化に代表される現象に頭を痛めている。1990年代後半、自然環境が厳しく、傾斜度が25度以上などの作業条件が悪い農地などに対して、耕作をやめて植林を実施するよう、中国政府が呼びかけた。それが「退耕還林政策」である。

信じられないスピードで進んでいる

1998年か1999年から試みが始まり、2003年あたりから全面実施された。退耕還林に参加した農家に対しては、食糧、生活費、造林用の苗木代の補助が行われ、その生活の心配を解消するような措置が講じられている。わずか10年間で3000万ヘクタールの退耕還林や新規造林などが行われた。
 
2000年に私が陝西省の北部にある延安を訪れたとき、ちょうど一部の地域では、その退耕還林運動に取り込み始めたところだった。苗木を植えた山への放牧・採草などはすべて禁止するという、「封山育林」措置も講じられていた。
 
20年近く経った今は、退耕還林の対象になった山にも緑が戻り、黄土高原にもうっすら緑になった山脈が現れた。前述した雨前線の移動ラインの変動は、西北地域の生態に一層大きな変化を劇的にもたらしたのだ。
信じられない
スピードで進んでいる
 
しかし、前述の気候関連の情報によれば、気候の変化はもっと私たちが信じられないほどの規模とスピードで進んでいるそうだ。中国の雨前線の臨界点も大きな範囲でゆっくり移動し続けている。予測によると、これから40年間の気候は、おそらく唐の時代(618年~907年)ではなく、西周時代(紀元前1100年頃~紀元前771年)のような、温暖湿潤な気候に戻るだろうということだ。
 
観察資料によれば、新疆ウイグル自治区のハミ地区の植生も回復し始めている。気候の専門家グループは今年、中国全域の約半分に相当する国土で植生観察のために駆け回り、その視察を最近終えたところだ。
 
タリム盆地が1つの顕著な例になっている。タリム盆地はかつて中国の高温少雨現象の最も深刻な地区で、以前は雨を降らせる雲が延々と続く砂漠地帯をまったく越えることができなかった。しかし、今では3年連続でタリム盆地全体をカバーできるくらいの降雨量がある。

中東で緑が復活し北米の半分が沼地になる?

この気候が続いていけば、来年から雨前線はチャイダム盆地の全域をカバーできると見られる。チャイダム盆地で雨が降れば、涸れてすでに長い古い川にも再度水が流れるだろう。早ければ10年以内に、こうした古代の河川が再びリアルの川として流れ始めるだろう。
 
気候専門家グループが今年視察した地方に、若羌河流域がある。若羌河の4つの支流はいずれも水が復活して流れており、今年若羌河流域では意外にも洪水が起こった。ガリの無人居住区は樹木が生え始めた。彼らが撮った写真を見た人はみんな驚いたそうだ。というのは、ガリの樹木がすでに2000年近くも死んでいたからだ。

中東で10年以内に緑が復活し
北米の半分が沼地になる?
 
気候専門家グループの意見は、雨前線の移動に見られたこの変動は長くて大きなサイクルで続き、決して短期間の断続的なトレンドではない、という。もしこのような状況が続き、世界的に広がっていくとしたら、中東は10年以内に緑が復活し、砂漠が大きく縮小していく。うまくいくと、砂漠が消失する可能性も出てくるだろう。
 
降水量が引き続き増えると、北米の半分の土地が沼地になり、10年以内に昔の沼地だった状態へと戻る。海水位の上昇で海水が逆流するため、ミシシッピ流域は塩性・アルカリ地へと変化していく。
 
今年の6月、ロシアで気候変動問題について意見交換をする会合が行われた。ロシアでは水蒸気がすでにウラルを越え、ノボシビルスク地区の降水を増やした。そのため、東欧地区の一年生雑草がノボシビルスク地区にまで生えるようになった。

このままいくと、ロシアはアメリカにとって代わって、世界最大の穀倉地帯になる可能性さえ出てくる。一方、その温暖化によってロシアの多くの地方で凍土が溶け、ロシア人の住宅が沼地に沈んでしまうことになる。

中国全土を潤すうれしい気候変動

中国の長江以南の地方では、10年後には冬が訪れず、温度が次第に上がり、林が生い茂るだろう。芭蕉科の植物も秦嶺山脈を超えたところに生えるようになる。
 
陝西省、甘粛省、寧夏回族自治区、新疆ウイグル自治区など、中国の広大な西部地区は緑豊かな山河になる。これは「10年以内に実現できる現実の風景だ」という見方も出ている。

中国全土を潤す
うれしい気候変動
 
気候情報はさらに、次のような絵を描いてみせた。
「この状態が10年続けば、黄河は清らかな流れになるだろう。黄河流域はここ3年、中上流の両岸に広がる平原・高原地域での植生が回復し始めた。その植生が回復した分量は過去20年分の総量にあたる。
 
以前は植樹に頼っていたが、樹木の下には草が生えていなかった(降水不足)。今は降水量が豊富なため、黄河中上流の両岸に広がる平原・高原地域の樹木の下には低木や下草が生え始めた。
 
しかもうれしいことに、蘭の花も見かけた。蘭の花が生えるということは、土壌に含まれる水分が安定し始めたことを物語っている。そして、甘粛省の植生もそれに伴い回復し始めている。陝甘寧盆地、チベット、モンゴル、新疆の大地は緑になり、川も流れる」
 
気候変動の功罪に関する評価と分析はさておき、こうした変化を想像するにつけ、今回、私は、このテーマで記事を書かないと気が済まなかったのである。

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