「韓国、ホワイト国から外されロシアに急接近 」

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ウラジオストクにあるFefu大学
 
ロシア極東における韓国の存在感が増している。2018年の韓国とロシア極東の貿易高は97億2151万ドルで、中国に次ぐ規模だった。

ロシアが原油やLNGなどのエネルギー資源を売り、韓国が自動車やその部品など機械類を売るという構造は、日露の貿易構造とほぼ同じである。
 
しかも韓国は日本と違ってロシアのエネルギー分野に進出していないので、全体的な投資額は多くはない。にもかかわらず、なぜ韓国企業はロシア極東進出に積極的なのだろうか。
 
ウラジオストクを訪問した韓露ビジネスカウンシル(Korea-Russia Business Council)のPark Johng Ho会長(パク・ジョンホ会長)に話を聞いた。
 
韓露ビジネスカウンシルは、韓国の産業通商資源部(経産省に相当)が所管する非営利団体で、韓国政府の支援を受け、韓露の政治経済・友好関係発展のために2011年に設立された。
 
パク会長は次のように話す。

「今年6月20日、韓国とロシアは、サービス・投資分野におけるFTA(自由貿易協定)交渉を始めることで一致した」
「もし締結できれば、医療や物流、商取引、観光といった分野で、韓国企業によるロシア投資の波を加速させることができる。ロシアの株式や債券市場、不動産、M&A分野にとっても、大きなプラスとなる」
 
パク会長によれば、目下、韓国のロシア極東における最優先事項は、韓国企業が入居するための産業コンプレックスを建設することだ。
 
これが完成すれば、農業、海産物加工、木材加工、造船関係の韓国企業20~30社が一気に活動を本格化できる。
 
中でも海産物の加工は韓国政府が特に重視している分野であるため、パク会長は、「今はコンプレックス建設に最適のタイミング」と話す。
 
しかし、この建設プロジェクトはまだ正式に決まったわけではない。
 
パク会長は「ロシア側は土地所有者を選定する段階にあり、韓国企業に投資手法を検討するよう要請している。このプロジェクトの将来は、ロシアとの交渉結果がどうなるかだ」と懸念を見せている。
 
また、日韓関係の先鋭化は、韓露関係にも影響を与えている。
 
日本が韓国をホワイト国から除外し、輸出管理を強化したことで、代替輸入先としてのロシアの重要性が高まった、とパク会長は指摘している。
「歴史問題を背景にした日本との対立はますます激しくなり、長期化するだろう。私が思うに韓国は、ロシアとの貿易拡大、経済協力を大いに当てにしている」

「特に、日本からの輸出制限対象に入った1000品目の中の半導体材料、電子部品、工作機械、そしてIT分野で、韓国とロシアは戦略的に協力するだろう」

「ロシアは基礎科学がもともと強いのに加えて、石油化学産業発展のおかげで、化学分野も発展した。そしてロシアにはIT分野で優秀な人材が豊富だ」

「韓国とロシアは、相乗効果を発揮しながら経済発展できる可能性が大いにある」

 
当のロシアも乗り気だ。7月、日本政府が韓国に対し、軍事転用のおそれがある半導体材料3品目の個別輸出許可への切り替えを発表した直後、ロシアは対象となった品目のうち「フッ化水素」を提供できると韓国側に伝えた。
 
これを受けて韓国では、7月10日に、文在寅大統領自らが国内企業の代表者らと、ロシアからの輸入の可能性について協議を始めた。
 
モスクワ大学教授などを歴任したロシアの高名な化学者、ユーリー・ゾロトフ氏は次のように話す。

「日本が原料である蛍石を中国から輸入してフッ化水素を生産しているのに対し、ロシアは原料を自国でまかなえるので、その点では有利だ」

「ただしロシアから韓国に輸出するとなると、フッ化水素の強い侵食性のため、輸送に関して特別な条件を整えなければならない」
「韓国にとっては、輸送距離が近い日本と取引する方が、好ましいのは間違いない」

ロシアからのフッ化水素調達が実現するかどうかはまだ分からないが、代替品をロシアに求める流れ自体は、他の品目にも拡大していくだろう。
 
ロシア極東に詳しいロシアNIS貿易会(ROTOBO)モスクワ事務所の齋藤大輔所長は、もともと韓国企業はチャレンジ精神が強いと指摘する。
「韓国は常に日本よりも一歩先を行く姿勢がある。日本企業が極東進出を躊躇していた時でも、ロシア市場の将来性を見越して積極的に展開してきた」

「現在の進出分野は、ホテル、農林水産、通信など多岐にわたる」
「韓国企業は、見切りをつけるのが早いという面もあるが、成功するかどうか分からなくても、可能性があればとりあえず進出してみるという前向きな姿勢がある。その点が、慎重な日本企業との大きな違いだ」
 
また齋藤氏は、「韓国はシベリア鉄道を利用した物流輸送にも積極的で、今ではロシア鉄道にとって優良なお得意様だ」と話す。
 
日本でも、ソ連時代にはシベリア鉄道輸送はメジャーな手段だったが、ソ連崩壊とともに下火になり、貨物量はピーク時の10分の1以下に落ち込んだ。
 
ようやく最近になって日本でもシベリア鉄道の利便性が見直され、昨年初めて国交省のパイロットプロジェクトとして、日本からモスクワまでの輸送試験が実施された。
 
納期・輸送品質とも結果は上々で、シベリア鉄道は有望な輸送手段だという認識が広まった。
 
現在は、パイロットプロジェクト第2弾として、日本からロシアを通り抜けて物資をヨーロッパへ輸送する試験が行なわれている。
 
ただし韓国は、日本よりももっと早く、シベリア鉄道が「使える」と気づいていたのである。
 
そして何と言っても、韓国からロシア極東への観光客の激増には目をみはるものがある。
 
2017年に、沿海地方(ロシア極東の日本海沿岸に位置する、州都ウラジオストクを含む地方)を訪れた韓国人旅行者は10万335人だったが、翌年2018年には22万6849人になった。
 
これに対し、2018年に沿海地方を訪れた日本人は韓国の10分の1にも満たない2万995人である。
 
少々乱暴な計算だが、日本と韓国の人口1人当たりの数で考えれば、韓国人がロシア沿海地方を旅行先として選ぶ確率は、日本人より26倍も多いということになる。
 
それだけ韓国人の、ロシアに対する精神的な壁は低いということだろう。韓露間の観光ビザが撤廃されて5年が経ち、ロシアは韓国人にとってごく普通の旅行先になったのだ。
 
韓国からウラジオストクへの直行便は週50便以上あり、韓国の地方都市とウラジオストクを結ぶ定期フェリーもある。
 
日本からも鳥取からウラジオストクまで、週に1便だけ定期フェリーがあるが、運営しているのは韓国の会社である。
 
こういった人的往来の活発さが、韓国企業のロシア極東進出に拍車をかけているのは間違いないだろう。
 
ウラジオストク中心部のあるカフェでは、韓国語のメニューを10冊作っていたが、日本語と中国語は1冊ずつしかなかった。
 
店員によれば、店内に韓国人しかいないこともよくあるという。そのカフェの隣には、韓国語表記しかないスムージー店があり、やはり韓国人の若者でにぎわっていた。
 
韓国ファーストは至る所で起きている。韓国人にとって海外旅行は日常生活の一部だ。反日感情が原因で日本への旅行をキャンセルした人々の一部は、近場のウラジオストクに流れ、旅行者はより一層増えるだろう。
 
日本人がロシア旅行するにはビザが必要だが、沿海地方に限って言えばオンラインで申請と受領が完結するため、韓国人と比べてそれほど不利ではない。
 
航空券が飛びぬけて高いというわけでもない。やはり問題はロシアという国に対する精神的な壁だろう。
 
来春には日本航空と全日空がウラジオストクに直行便を就航させる。
 
これがコンスタントな旅行者増の一助となるのかは、未知数だ。席が埋まらずに撤退してしまうことがないよう祈るばかりである。
 
安倍晋三首相は機会あるごとにプーチン大統領のことをファーストネームで「ウラジーミル」と呼び、ロシアとの友好ムードを強調している。
 
しかし、極東での庶民レベルの往来を見てみれば、首相が演出している「親近感」と実態とは、乖離があるように思える。
 
ロシアにおける日本の好感度は高く、日本製品の信頼性も高いが、そのポジションにあぐらをかいて表面的な友好で満足している間に、ロシア人の心を韓国にもっていかれてしまうかもしれない。

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