「JR東「ワンマン運転拡大」に見る」

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JR東「ワンマン運転拡大」に見る、鉄道乗務員レス化の未来

読売新聞などが報じた、JR東日本の「ワンマン運転拡大」方針。JR東は将来、運転士を乗せない「ドライバレス運転」も視野に入れているが、通常運行時はともかく、非常時には大丈夫なのか、という声もある。乗務員の役割と自動化について、考えてみよう。

JR東が進める
車掌なしの「ワンマン運転」
電車の運転士

JR東日本は運転士のみで車掌なしの「ワンマン運転」が拡大する一方、将来的には車掌のみ乗車して運転士のいない「ドライバレス運転」を目指す 
読売新聞は9月18日、JR東日本が2020年度をめどに「ワンマン運転」を拡大する方針だと報じた。

他紙は追随していないものの、今年3月5日の日刊工業新聞も同様の方針を報じており、またJR東日本の労働組合「JR東労組」webサイトでも、7月24日に会社側からワンマン運転の拡大について提案を受けたと伝えられていることから、実施に向けた準備が水面下で進んでいることは間違いなさそうだ。

ワンマン運転とは、端的に車掌が乗務しない運行形態を指す。かつてはバスや路面電車にも運賃収受や案内のための車掌が乗務していたが、1950年代からワンマン化が進み、1970年代以降はローカル線を中心に鉄道にもワンマン運転が拡大した。

JR東日本も既に、北関東や東北のローカル路線でワンマン運転を行っているが、対象を運転士1人の目視で安全確認が可能な1~2両の「短編成」の列車に限っており、3両編成以上の列車では原則として車掌が乗務する「ツーマン運転」を原則としてきた。

しかし今後、少子化による人手不足と利用者の減少が予想されることから、運転本数と収益性を両立させる合理化策として、3~6両の「中編成」にもワンマン運転を拡大する方針を固めた。読売新聞によれば、首都圏では鶴見線や内房線、外房線など3~4両編成の列車が運行する路線への導入が想定されているそうだ。

また7両以上の「長編成」の列車が走る路線についても、自動列車運転装置(ATO)導入やホームドア設置など必要な対策を実施した上で、導入を進めていく方針だという。

鉄道の未来形?「ドライバレス運転」とは

JR東日本は昨年7月に発表したグループ経営ビジョン「変革2027」で、将来的に運転士を必要としないドライバレス運転の実現を目指すと明記した。

ドライバレス運転とは運転士が乗務しない運転形態だが、必ずしも無人運転を意味したものではなく、安全確認やドア操作、案内等を行う係員は乗務する想定だ。運転士は丸々機械に置き換えられ、車掌だけが残ると考えるのが分かりやすい。

一方、ワンマン運転は運転免許を持つ運転士が1人で乗務する運転形態である。ローカル線では手動の運転操作からドア開閉、案内放送、さらには運賃収受まで運転士と車掌と駅員の全てを担当するケースがあるが、地下鉄など都市部ではATOによる自動運転を前提とし、ドア操作や案内放送、安全監視などが主になる。こちらは運転士の運転操作だけを機械に任せ、運転士が車掌の業務を引き継ぐ形だ。

見かけの上では似ているワンマン運転とドライバレス運転だが、養成に長い時間と多額の費用を要する運転士を必要としないドライバレス運転は、鉄道事業者にとって採用、教育の両面で大きな改善が期待できる。

だが、ドライバレス運転の実現には、法令上・技術上の解決すべき課題が多く、また多額の設備投資を必要とするのが実情だ。取り組みのモデルケースであり、シンボルと位置づける山手線や新幹線は別としても、他路線と線路が並行していたり、踏切のある路線への拡大は長期的な課題となる。当面「長編成」の路線では、ATOやホームドア整備と並行して、まずはワンマン運転の拡大が進むことになるだろう。

その一方で、ワンマン運転の拡大には不安の声も少なくない。1000人以上が乗車する朝ラッシュの電車が事故や災害に巻き込まれた時、運転士1人で対応できるのだろうかと考えると、確かに心配になってくる。しかし、運転士と車掌が2人いたところで1000人以上の対応は難しいのが現実で、ツーマン運転を行っている路線においても、乗客を車両から降ろして徒歩で避難誘導する場合は、基本的に駅員など応援の到着を待って行われる。

応援が来るまで待っていたら、助かるものも助からないのではないかという不安はもっともだ。だが極端な話、1両に1人車掌を乗せたところで、現場対応できる保証はない。非常時に対応するために常時係員を張り付けておくという解決策は、要員確保、人件費の両面で非現実的と言わざるを得ない。

鉄道は事故の未然防止を優先目標として、ATS(列車自動停車装置)など多重の安全装置を設置している。しかし、過去に発生した様々な重大事故や重大トラブルは、トラブルを見越したリスクコントロールや、事故発生後の安全確保の重要性についても多数の教訓を残している。

悲惨な鉄道事故を教訓に進化してきた安全対策
 
例えば「国鉄五大事故」のひとつに数えられる、1951年に発生した京浜東北線の車両火災「桜木町事故」では、ドアコックを操作すれば扉を手動で開けられることが知られていなかったため、脱出できなかった乗客が多数死亡した。この事故を教訓に、非常ドアコックの設置と表示が義務化された。

ところが、1962年に常磐線で列車が多重衝突した「三河島事故」では、非常ドアコックを操作して線路に降りた乗客が、対向列車にはねられて死亡する惨事が起きてしまった。そこで三河島事故を教訓に、事故発生時、速やかに周辺の列車を停止させる防護無線が開発されることになった(防護無線という名前は聞き覚えがなくても、電車が急停車した際に「危険を知らせる信号を受信した」という説明を聞いたことはあるだろう)。

その他にもソフト面からハード面まで対策は様々だ。例えば、最近も話題になった、台風や大雪時に実施される計画運休や間引き運転。これは元々、救助が到着するまでに時間を要する駅間停車を避けることを目的に始まったものだ。また、駅間停車した列車を、最寄りの駅や避難可能な場所まで低速で移動できるように、車上や変電所に設置した非常用バッテリーから電力を供給する設備の設置も進んでいる。

それでも完璧な対策は不可能なのが事故やトラブルだ。旅客機が「機内安全ビデオ」で非常時の対応と協力を求めていることからも分かるように、大量輸送を担う公共交通機関においては、非常時の安全確保に乗客の協力は不可欠である。そのためにもワンマン運転の導入にあたっては、経営上の必要性や安全対策の積極的な発信に加えて、利用者の不安や疑問に対して丁寧に向き合うコミュニケーションが必要になるはずだ。

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