北京で実感、中国で存在感失った韓国企業の黄昏時

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北京最大12車線の目抜き通り「長安街」(建国路)沿いの特等地に聳える「LGツインタワービル」は、この約15年の間、中国の首都における「韓国の象徴」だった。ただ「ツインタワー」(双子座)と言うだけで、2200万北京っ子は、あの30階建ての美しい2棟が、まるでおしどり夫婦のように向かい合って建つLGタワーを思い浮かべる。韓ドラ『宮廷女官チャングムの誓い』(大長今)が、中国で空前のヒットを飛ばし、全土で韓流ブームが湧き起こった2005年に、4億ドルをかけて建造されたビルだ。
先月中旬、そんなLGツインタワーが、久々に北京っ子の話題になった。何と韓国のLGグループが、この煌びやかなツインタワーを売りに出したというのである。予定価格は87億人民元(約1300億円)となっているが、まだ買い手が決まったという報道はない。
昼からアサヒビールを呷る韓国人グループ
サムスン、現代、SKに次いで韓国財閥4位のLGグループは、昨年6月、40歳の若きプリンス、具光謨(グ・グアンモ)氏が4代目会長に就任。アメリカ留学が長かった具新会長は、「中国事業よりもアメリカ事業に積極的」と伝えられていた。
それが、会長に就任してわずか1年で、「北京における韓国の象徴」を売りに出してしまったのである。「よほど懐事情が厳しくなって、背に腹は代えられなくなったに違いない」と、北京っ子は噂し合っている。
先週一週間、北京へ行っていた私は、その噂の的のLGツインタワービルに、足を運んでみた。
以前はLGグループを始め、韓国企業がぎっしり入居していたこのビルは、空き家が目立っていた。ランチタイムに「白領族」(バイリンズー=サラリーマン)たちが、エレベーターホールからゾロゾロ降りてきたが、聞こえるのは中国語ばかりで、韓国語は稀だ。
地下にある韓国料理店に入ってみた。経営者は韓国人だそうで、店内は大盛況。私は海鮮うどんと、白菜キムチをいただいた。
隣は珍しく、北京駐在の韓国人グループで、中年男性が昼間からビールを呷っていた。しかもこのご時世というのに、手にしているのはアサヒの生ビールではないか!
メニューを確認すると、ビールは4種類あって、韓国のHITEが15元、同じく韓国のCASSが20元。日本のアサヒビールは、瓶が20元で、生が25元だった。
料理を運んできた中国人店員に、「ここでは日韓どちらのビールが人気なの?」と聞いたら、「それは当然、アサヒビールよ」と答えた。ちょっと面喰った私は、「韓国で盛り上がっている『ボイコットジャパン サジアンスムニダ(買いません) カジアンスムニダ(行きません)』は、ここでは関係ないの?」と畳みかけて聞いてみた。すると、「何それ?」と言われた。ちなみに、この店のBGMで流れていたのは、五輪真弓の『恋人よ』だった。
止まらぬ「文在寅批判」
私は思い切って、アサヒの生ビールを旨そうに飲んでいる中年の韓国人男性にも、「失礼ですが、このご時世に日本のビールを飲むことに、抵抗感はないのですか?」と、恐る恐る聞いてみた。すると酔いも回ってか、韓国人男性の口から飛び出したのは、痛烈な文在寅(ムン・ジェイン)大統領批判だった。
「“文在恨”は、『日本を超える』なんてバカなこと言ってるんじゃないよ。韓国経済は、ようやく日本経済の3分の1まで来ただけではないか。そもそも韓国は1948年の建国以来、国民全体が豊かになったことなんか一度もない。最近、半導体業界が少し調子いいからと言って、うぬぼれるなと言いたい。
国のGDPの13%をたった1社(サムスン電子)で支えているなんて、おかしいと思わないか。しかも文在恨の政権になってから、隣国の中国とケンカし、日本ともケンカするものだから、財閥の収益も急速に悪化している。LGがこのビルを売りに出すことが、それを象徴しているではないか。それに財閥で仕事していると、韓国にとっていかに日本の存在が大事かを痛感するものだ。
70年以上前の歴史問題なんて、どうやったって変えることはできないのだから、韓国にとっては未来志向が唯一の選択肢に決まっている。実際、文在恨だって、大統領就任当時は『未来志向の韓日関係を築く』と言っていたではないか。それなのに、いまさら経済大国の日本を捨てて、アジア最貧国の北朝鮮と組もうだなんて、文在恨は、まさに『亡国の大統領』だ・・・」
この韓国人男性の口からは、文在寅大統領批判が尽きなかった。しかも、恨んでいることを示すため、わざわざ「文在恨」(ムン・ジェハン)と呼ぶのだという。
「最盛期には10万人を超える韓国人が暮らしていた『望京』(ワンジン=北京北東部のコリアタウン)は、いまや2万人を切ってしまった。私も望京に住んでいるが、最近の話題は、『あの人も帰国した』『あの店もなくなった』ということばかりだ。残念なことに韓国は、いまや中国からも見捨てられつつある」(同前)
たしかに、私は北京に一週間いて、以前のように韓国の存在を感じることは、皆無と言ってよかった。
THAAD配備を止めても韓国経済は浮上しない
 例えば、私が北京で暮らしていた2012年までは、サムスンの携帯電話を持っているというのが、北京っ子のステイタスだったものだ。それがいまや、中国の友人知人のほとんどが、ファーウェイのスマホを手にしている。しかもファーウェイ・ウォッチとペアで使うのが流行の最先端だ。中国のスマホ市場においてサムスンの占有率は、すでに1%を切っている。かつて年間1億台もの携帯電話を製造していたサムスン天津工場も、ついに閉鎖してしまった。
21世紀が始まった時、北京市は「新時代を韓国と共に歩む」として、市内の5万台のタクシーを、すべて現代自動車のエラントラに一新した。いわゆる「現代バブル」の時代だ。
ところがいまや「網約車」(ワンユエチャ=スマホ呼び出しタクシー)が全盛の時代で、緑と黄のエラントラは、「ダサいタクシー」の象徴と化していて、誰も乗りたがらない。ちなみに現代自動車は今年上半期、中国市場での売り上げ台数で、前年同期比マイナス5・1%。第2四半期(4月~6月)に限れば、7・3%のマイナスを記録した。
© Japan Business Press Co., Ltd. 提供 『ファーウェイと米中5G戦争』(近藤大介著、講談社+α新書)
韓国と中国は、周知のように2016年以来、THAAD(終末高高度防衛ミサイル)をアメリカ軍が韓国国内に配備した問題で、関係を悪化させた。だが中国から見れば、韓国企業が昨今、中国市場で不振をかこっている理由として、このTHAAD問題は、「雪上加霜」(雪の上に霜を加える=火に油を注ぐ)というものだ。
根本的な理由は、あらゆる業界で中国企業のレベルが、完全に韓国企業のレベルに追いついてしまったことにある。もはや追い越した分野も多々ある。だからアメリカ軍がこの先、THAADを韓国から撤去しようが関係ない。酷な言い方をすれば、韓国企業は中国市場で、半永久的に不景気が続くに違いないのである。
そのことを鑑みれば、文在寅政権が日本を敵視するのは、まさに自殺行為――北京の長安街から美しいLGツインタワーを眺めながら、そんなことを思った。

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