2018年11月1日よりタイトルをWCA(世界の時事)に変更しました。
「失われた20年」
中国経済の先行きが日本の「失われた20年」と重なる理由
米中貿易摩擦の長期化は中国経済の成長率低下圧力だ。成長率目標達成のために、貿易摩擦激化によるダメージを補うべく、中国政府が金融・財政政策を講じることで、公的部門、民間部門の債務が増大する。
その姿が、生産年齢人口減少による経済成長の低下を取り繕う為に、景気対策を繰り返し債務を拡大させた1990年代後半以降の日本と重なる。
2019年4~6月期のGDP
伸び率では1992年以来の最低の水準
15日に発表された中国の2019年4~6月期のGDPは前年同期比6.2%増となり、伸び率では四半期ベースで統計の公表を始めた1992年以来の最低の水準となった。
米国による対中関税引き上げの影響で輸出が落ち込んでいる。景気対策による増加が期待されるインフラ投資も、景気を上向かせるほどの勢いはまだない。民間投資も、シャドーバンキングの抑制や米国の対中関税引き上げの影響で伸び悩み、自動車販売は、販売優遇策による需要先食いの反動もあってマイナスが続いている。景気の先行指標である製造業PMI(購買担当者景気指数)も6月に、国家統計局、財新どちらも景気判断の分かれ目となる50を割りこんだ。
政府の経済成長率の目標は今年3月の全人代(全国人民代表大会)で示された6~6.5%。低下したといっても目標圏内であるが、楽観はできない。目標を提示した時点では、発動されていなかった米国の対中関税第三弾部分の10%から25%への引き上げの影響は、これから本格化する。
米国の対中関税第三弾部分だけで6%割れの公算も
米国の対中関税第三弾部分だけで
6%割れの公算も
6月29日の米中首脳会談で米中の貿易協議は再開となった。しかし、国営企業への産業補助金などの中国の国家資本主義体制の根幹にかかわる件で、中国が譲歩することはないだろう。
「中国は米国の農産物を輸入すると約束した」とトランプ大統領は発言しているが、中国は公式に認めていない。ファーウェイへの禁輸措置緩和についても詳細はまだ固まっていない。進まぬ交渉に業を煮やし始めたトランプ米大統領は、関税が引き上げられていない残り3000億ドルの中国からの輸入品への25%関税賦課を再びちらつかせ始めた。
第三弾部分だけでも、6%割れの公算はある。そのうえ米国への輸出品全額への25%関税となれば年率にして1%前後経済成長率を押し下げることになる。何ら対策をとらなければ成長率の6%割れは確実だ。
ただ、6%台の経済成長率を達成するために、中国政府は金融政策、財政政策を総動員すると予想されるため、経済成長率達成自体を不安視する声は少ない。
年初から、地方政府による地方債の発行は増加しており、地方債増発で財源を裏付けられたインフラ投資はこれから増勢を強めてくるだろう。「4月以降、地方政府は産業補助金を増やしている」(関辰一・日本総合研究所主任研究員)こともあり、民間投資も回復してくる。個人消費は、自動車販売以外の個人消費はもともと堅調。今年後半から来年にかけて減速に歯止めがかかってくるとみられている。
しかし、こうした景気対策は諸刃の剣である。公的、民間部門双方を含めた債務増大をもたらすからである。
債務膨張は顕著だ。預金準備率の引き下げなど中国人民銀行が金融緩和を進めてきたこともあり、6月の人民元建ての新規融資額は1兆6737億元と5月の1兆1855億元から大きく増加し、残高は144兆7100億元と前年同期比13.2%増となった。
日本のバブル崩壊後の状況を研究し、 教訓としている中国政府
すでにふれたように、景気対策の資金調達のために、地方政府は地方債を増発している。その結果、銀行融資以外の債券発行などの資金調達残高を示す社会融資総量の残高も、6月に前年同月比10.9%増の213兆2300億元となった。
今後、関税引き上げによるマイナスの影響を打ち消すための、追加の景気対策が講じられることになれば、地方政府債務も含めた債務はさらに膨らんで行くだろう。
日本のバブル崩壊後の状況を研究し、
教訓としている中国政府
この状況は、バブル崩壊後生産年齢人口がピークをつけ、潜在成長率が低下していった日本の90年代後半の状況と類似している。成長率が低下すると、財政出動を伴う景気対策が講じられる。公的機関を活用して融資促進策も講じられた。対策の効果があるうちは、潜在成長率を上回る一定の成長率を確保できるが、効果がなくなれば、反動もあり成長率が落ち込む。そして、再び景気対策が講じられる。
こうした過程を繰り返す中で、日本政府そして地方自治体の債務が膨らんでいった。また、日本の多くの民間企業は、バブル期に債務を膨らませていた。
そして、金融危機後の経済低迷期に、業績不振のなか、債務の重さに苦しみ倒産する企業が増え、金融機関は不良債権の増加に悩まされた。中国も不動産価格などが下落するようなことがあれば、90年代後半の日本同様に重い債務負担に喘ぐ事態に陥りかねない。
中国の生産年齢人口は2014年前後にピークをつけたとみられる。中国政府は、日本のバブル崩壊後の状況を研究し、教訓としている。それゆえ、経済成長率を大きく低下させないように対策を講じながらも、むやみに債務を拡大させることには慎重だ。しかし、現時点では、対米貿易戦争のダメージを相殺し、経済成長率を確保するための債務拡大に追い込まれている。
落としどころが全く見えない対米交渉について 中国は長期戦覚悟のようだ。トランプ大統領より親中な大統領の誕生を待つ戦略である。しかし、関税が引き上げられた状態が長期化すればするほど危機のマグマが膨らみ、中国経済を蝕むことになるだろう。