「無残な凋落 」

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宇宙大国、無残な凋落
 
ロシアの宇宙船「ソユーズ」による日本人宇宙飛行士の打ち上げや帰還を取材するため、モスクワ郊外の「飛行管制センター」には幾度も足を運んだ。近代的な建物を想像されるかもしれないが、実際には、ソ連時代にタイムスリップしたような、レトロ感たっぷりの低層施設である。
 
オペレーション・ルームの大部屋には飛行経路などを映す大画面があるが、かなり旧式だ。暗い廊下を挟んでずらりと執務室が並んでいる内部構造は、ソ連の役所そのものである。ロシアでは一般的なことだが、飛行管制センターでも、トイレの洋式便器に便座は付いていなかった。
 
米国の宇宙船「アポロ11号」が月に降りたってから20日で50年を迎える。当時の米国を月に駆り立てたのは、ソ連との熾烈な競争にほかならなかった。
 
アポロ11号より10年以上も前の1957年、ソ連は世界初の人工衛星「スプートニク」を打ち上げ、61年にはガガーリンによる初の有人宇宙飛行を行った。冷戦下、宇宙開発で出遅れた米国が、国の威信をかけたのがアポロ計画だった。
 
翻って今、再び「宇宙ブーム」が到来している。米国は5年以内に、月の周回軌道に新宇宙ステーションを建設する計画だ。新興勢力の台頭もめざましい。中国は今年1月、無人探査機を世界で初めて月面裏側に着陸させた。今月15日予定の発射は延期となったが、インドも月に無人探査機を送り込もうとしている。
 
目立つのはロシアの凋落だ。米科学者団体の昨年11月末時点の集計によると、宇宙空間で稼働している人工衛星の数は、米国が849、中国が284で、ロシアは152と水をあけられている。日本は80余りだ。
 
米スペースシャトルが2011年に退役し、地球と国際宇宙ステーション(ISS)を飛行士が往復する手段はソユーズだけとなった。ロシアはこのソ連時代の「遺産」で存在感を保ってきたが、独壇場は終わりに近い。

米スペースX社は3月、有人型のドラゴン宇宙船を発射し、ISSとのドッキングや帰還を成功させた。米ボーイング社も有人宇宙船を開発中だ。
 
安定感を誇ったソユーズだが、昨年8月には、ISSに接続したソユーズの穴が原因でISSの気圧低下が発生。地上作業での過失による穴だった。10月にはソユーズ発射直後に異常が生じ、米露の飛行士が緊急カプセルで脱出した。
 
ロシアは12年から、将来の新型ロケット発射も見据え、極東で「ボストーチヌイ宇宙基地」を建設している。だが、給与未払いによる労働者のストライキが度重なり、100億ルーブル(約172億円)の不適切支出が発覚するなど醜聞続きだ。工期は大幅に遅れている。
 
ロシアではソ連崩壊後の1990年代、国家資金が宇宙分野に回らず、人材が大量に流出した。その後も、国家機関と国営企業による非効率で不透明な宇宙事業運営が続き、現場の士気低下が著しい。2014年のクリミア併合以降は、ウクライナや欧米諸国との関係悪化でロケットや衛星の部品調達にも影響が出ている。
 
米国同様に民間活力を導入し、国際協調路線に復帰せねば活路は開けない。専門家にはそんな意見が根強いが、プーチン露政権が耳を傾ける様子はない。

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