「ホワイト国除外の黒幕説と中国包囲網」

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1.緊急事態のサムスン

7月13日、サムソン電子のイ・ジェヨン副会長は緊急社長団会議を開き、日本の半導体の材料輸出管理変更に対する対応策を話し合いました。

会議に出席したのは、サムスン電子半導体・ディスプレーを総括する金奇南・電子デバイスソリューション部門副会長とメモリー事業部の秦教英社長、システムLSI事業部のカン・インヨプ社長、サムスンディスプレーの李東燻社長らで、会議は4時間近くに及び、思い雰囲気だったそうです。

李副会長は会議で「日本の輸出規制にともなう影響は半導体とディスプレーに限定されずスマートフォンと家電などに拡大する可能性がある。コンティンジェンシープランをまとめよ……日本問題が解決されないかもしれないという最悪のシナリオを仮定して対応すべき。代替材発掘、海外工場を通じた迂回輸出、取引先多角化、国内素材産業育成案を検討せよ……

日本から供給された素材の調達先をロシアと台湾、中国などに多角化し、ロシアのフッ化水素品質も評価してみよ」と具体的な指示を出しているところを見ると、相当な危機感を持っていることが窺えます。

また、李副会長は会議の最後に「第4次産業革命時代が本格化する時点で今後産業と経済だけでなく政治部門でどのようなことが起こるかわからない。現在押し寄せている状況にばかり汲々とせず、中長期的に見通して状況に対処する力が必要だ」と述べたそうで、今回の問題が長期に渡ることを覚悟している節があります。

韓国・聯合ニュースはサムスンが、輸出規制の対象に上がったフッ素ポリイミド・フォトレジスト・高純度フッ化水素の物量確保に成功した」と報じていますけれども、サムスン電子の関係者は「イ副会長が社長団会議で懸案を調査し非常時局に備えるよう指示したのは事実だが、日本への出張で新規契約を獲得したり、追加の物量を確保したわけではない……第3国に迂回する案も聞いてたことがない」と否定しています。

戦略物資をちゃんと管理している証明を出せばいいだけなのに、それが出来ないところが韓国という国の限界を示しているのかもしれません。

2.サプライチェーンの取り込みを図る中国

7月15日、中央日報は、件の3材料のうちの一つであるフッ化水素について、サムスン電子が中国や台湾で、SKハイニックスは中国で供給元をそれぞれ発掘したと報じています。

それによると、新たに発掘した業者の中にはすぐに使える99.999%の高純度フッ化水素を納品できる所もあり、韓国に持ち込んでテストを始めたとしています。

ただ、いくら材料が手に入っても、即、切り替えることが出来るわけではありません。メモリ半導体の拡散は一ヶ月から一ヶ月半程度かかりますから、仮に日本産以外のフッ化水素に切り替えたとしても、どれくらいの出来栄えになるかは、それくらい待つ必要があります。

実際にはラインの細かいチューニングが必要ですし、場合によっては出荷試験の見直しも必要になってきます。今までと同等の収率が直ぐに出るとはちょっと考えにくいです。筆者なら、不良品多発のリスクを考慮し、これから投入するシリコンウェハで作られるサムソンメモリ製品は敬遠したいところです。

また、ある企業関係者によると、中国の供給元が、一定の価格での長期供給契約を要求しているそうです。供給元の多角化を図りたいサムソンにとって、供給元と価格の固定は嫌でしょう。

それになんといっても中国企業ですからね。それこそ中国共産党の都合で”政治的”に供給をストップされてしまうリスクを考えるとことを考えるとちょっと二の足を踏むかもしれません。

一方、中国にしてみれば、サムソン電子を自陣営に組み入れることは、ファーウェイへの製品供給確保にも繋がりますから、中国の素材メーカーをフロントに出して、積極的に取り込みに掛かる動機は十分にあると思われます。

3.中国と手を切れ

一方、韓国が中国に飲み込まれていくのに待ったを掛けている国があります。アメリカです。

7月10日、韓国の康京和外交部長官がアメリカのポンペオ国務長官と電話会談しました。

国務省の発表によると、ポンペオ長官と康京和長官が電話協議で再確認したのは「北朝鮮の最終的で完全に検証された非核化」、「日米韓の三角協力の重要性」、「インド・太平洋における密接な協力の維持」の3点です。

韓国側の報道だと、この電話会談で、康京和外交部長官が日本の貿易管理見直し措置について「日本の貿易制限措置が世界の貿易秩序に悪影響を与える」と非難し、ポンペオ長官が「理解する」と答えたと報じていますけれども、元日経解説委員の鈴置高史氏によると、国務省の発表資料では「理解する」とのくだりどころか、「対韓輸出の管理強化」という案件自体が一切、出ていないのだそうです。

つまり、アメリカは日韓摩擦をスルーし、北朝鮮の完全な非核化とインド・太平洋での協力を韓国に呑ませたと発表したというのですね。

特に、インド・太平洋での協力、すなわち、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を韓国に飲ませたということは、そのまま、中国包囲網に韓国も参加するということを意味します。

アメリカの発表が本当だったとしたら、韓国は中国と手を切る踏み絵を踏んだことになります。

4.黒幕説とファーウェイ

先に取り上げた、元日経解説委員の鈴置高史氏は、今回の日本の措置の黒幕はアメリカではないのかという仮説を挙げています。

鈴置氏は日本の輸出管理強化の背景には米国がいるのかという質問に「安全保障の専門家にはそう見る人が多い」と答え、証拠はないと前置きしながらも、今回の事件の黒幕はアメリカ政府のように見えると述べています。

筆者は7月4日のエントリー「安倍とトランプの連携プレーと三重の戦略」で、今回の措置はファーウェイへの締め付けをも狙った、安倍総理とトランプ大統領の連係プレーではないか、と述べましたけれども、アメリカが今の日韓貿易問題の仲裁に一向に乗り出さないことといい、状況を見る限りアメリカが黒幕の可能性は否定できないと思いますね。

鈴置氏は今回の日本の措置について、韓国では単なる報復ではなく韓国潰しだとする「日本の陰謀論」が語られ始めたものの、「アメリカの陰謀論」にまでは至っていないとし、その理由はアメリカに見捨てられるという現実から目を逸らしたいのだ、と指摘しています。

その心理が本当だとすると、今後韓国はアメリカからの情報は、国内に対してはシャットアウトするか、自分の都合の良いように曲解して、あとはひたすら日本が悪いの大合唱をして、国民の不満が韓国政府に向かわないようにするのではないかと思いますね。

つまり、文政権は、対日対抗ムードを煽ることで、政権維持を図ろうとしているのではないかということです。

7月17日、韓国与党の「共に民主党」は日本の輸出規制強化への対策に当たっている党内の「日本経済報復対策特別委員会」の名称を「日本経済侵略対策特別委員会」に変更したと発表しました。

「報復」だと、自分の行動が切っ掛けとなって引き起こされたニュアンスがありますけれども、「侵略」だと自分には一片の非がなく、相手が悪いと責任を擦り付けることができますからね。いつもの被害者ポジションを取るための名称変更は勿論のこと、戦略物資の横流し疑惑の話題逸らしをして隠蔽しようという狙いもあると思いますね。

この特別委員会の呉奇炯幹事は名称変更は「日本の経済挑発が深刻という状況認識の下、超党派での対応が必要だと強調するため」とし、引き続き日本に撤回を求め、25日には海外メディアとの懇談会を開く考えを示していますけれども、自らの行動を振り返り、過去の輸出記録の調査や管理強化に踏み込む積りは更々ないようです。

韓国がホワイト国から外れれば、通常管理に戻される品目が増えることが確実視されています。日本の経済産業省がホームページを通じて告示した監視品目リストは40種類。その中には遠心分離機、人工黒鉛、大型トラックなどが含まれています。

韓国政府がこの問題を日韓だけの二国間問題に押し込めようと躍起になっていますけれども、文在寅政権が日本を批判して悪戯に時間を浪費すればしただけ、自国経済がダメージを受ける構図になりつつあります。

韓国の経済焦土化は意外と近いのかもしれませんね。

日比野庵

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