「統一朝鮮」

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文政権が日韓関係をわざと毀損するのは「統一朝鮮」への意思表示

米中貿易戦争や、韓国文在寅政権の北朝鮮への肩入れ行為など、東アジア情勢の動向は目が離せません。今後、東アジア諸国の関係はどのように変化していくのでしょうか?そこで今回から4回にわたって、茂木誠氏の著書『日本人が知るべき東アジアの地政学』から、今後の東アジア情勢の展望についてわかりやすく解説します。1回目は朝鮮半島です。

吉田首相は憲法9条を盾に
従属国としての平和を選んだ
 
日本を国賓として公式訪問したばかりのトランプ大統領が、日米安保条約の片務性に対する「不満」を側近に語ったとブルームバーグ紙が報道しました。トランプ氏は4年前の大統領選以来、NATO諸国や日・韓といった同盟国の防衛に対する米国の軍事支出の荷重について不満を表明してきました。
 
大阪G20へ向かう直前に米メディアのインタビューで、「米軍は日本を全力で守るが、米国が攻撃されても、日本人はソニーのテレビで攻撃を見ているだけだ」と答え、大阪での会見では「日米安保条約は不平等な合意だ。改定の必要があることは安倍首相もわかっている」と発言しました。これはトランプ氏の真意といっていいですし、米国人の立場からすれば、至極まっとうな意見といってよいでしょう。
 
これまでの日米関係は、表面的には「対等の同盟国」でも、その実態は「宗主国と従属国」というべきものでした。米軍占領下からの主権回復を目指した当時の吉田茂首相は、その条件として日米安保条約の締結をのまされました。主権回復後も米軍が巨大な基地を使用し続け、日本にも再軍備を迫りました。

吉田は米軍が世界各地で引き起こす戦争に日本が巻き込まれることを危惧し、米軍占領下で制定された日本国憲法の第9条を盾にとり、「基地は提供しますが、日本は軍隊を持ちません。自衛隊は軍隊ではないので、米国の戦争には協力しません」と米国を説得しました(吉田ドクトリン)。

「非武装中立×平和憲法」が日本の社会主義化を招いた

こうして自民党政権は、「従属国としての平和」を維持してきたのです。その見返りに日本は、外交において独自路線を選ぶことを制限され、核武装はもちろん、戦闘機の開発や空母の保有も禁止され、米国債を際限なく買わされてきたのです。

「非武装中立×平和憲法」が日本の社会主義化を招いた
 
日本が牙を抜かれたままにされていたことは、近隣の大国――ソ連(ロシア)や中国にとっても自国の安全にとって都合のよいことでした。国会では日本社会党など「革新勢力」が常に3分の1以上を占め、憲法改正を阻止し続けました。

「日米安保×平和憲法=対米従属」という吉田ドクトリンとは似て非なるもので、「非武装中立×平和憲法=結果としての対ソ従属、日本の社会主義化」が彼らの真の目論見でした。しかし「対米従属からの離脱」という主張は耳に心地よく、多くの若者がこの主張に魅了されました。
 
吉田ドクトリンを脱しようとしたのが岸信介首相でした。岸は吉田安保条約の不平等な条項改定を求め、日米関係をより対等なものにすることを米国に認めさせたのです。このとき、社会党や労働組合の呼びかけに応じた数万人のデモ隊が国会を包囲し、岸内閣を退陣させました(安保闘争)。

「団塊の世代」が憲法改正を封じ
“悪夢のような”民主党政権を生んだ
 
この事件は、自民党政権に大きな心理的効果を及ぼしました。安保闘争世代(いわゆる団塊の世代)が社会の中核を占めると、自民党政権は憲法改正という党是を封印してしまいました。国家百年の大計より、目先の選挙の票が重要だったのです。
 
冷戦末期にソ連が弱体化し、新たに中国が台頭すると、親米保守政党としての自民党は田中角栄らの親中派が牛耳るようになります。やがて田中派の内紛から自民党を離党した小沢一郎、鳩山由紀夫らが旧社会党系と手を結んで民主党を結成しました。安保世代が幹部クラスとなっていたマスメディアはこれにエールをおくり、ついには自民党を下野させて鳩山首相の民主党政権を現出させたのです。
 
わずか3年で崩壊した民主党政権の最大の「実績」は、沖縄の米軍基地移転問題で自民党政権が築き上げた対米関係を毀損したことでしょう。また海上保安庁の巡視船に対する中国漁船の衝突事件では、中国政府の恫喝に屈し、超法規的措置で中国人船長を釈放しました。震災と原発事故への対応の不手際、経済不況の長期化から民主党政権は瓦解し、安倍自民党政権に交代しました。
 
しかし、この民主党政権を今も情緒的になつかしみ、客観的な評価ができない人々が一定数存在しています。世代別世論調査では、世代が上になればなるほど安倍自民党への批判傾向が強く、かつての安保闘争世代が「三つ子の魂百まで」と頑張っている様子がうかがえます。

文政権を支える韓国の「団塊世代」は
強烈な「朝鮮民族至上主義」
 
韓国においても「安保世代」が存在します。文在寅(ムン・ジェイン)政権を生み出したのが、まさにこの世代です。
 
韓国における「安保闘争」とは、親米軍事政権に対する民主化運動のことで、日本とは比較にならないレベルのものでした。朝鮮戦争で同じ民族が殺し合った記憶は、今も消し去ることはできません。韓国の軍事政権による「親北朝鮮派」「左派」に対する弾圧は激烈を極め、その反動で「反軍政」の民主化運動も過激化しました。多くの死傷者を出した1980年の光州事件はその典型です。
 
1960年代に生まれ、80年代に学生運動を経験し、韓国が民主化された90年代に30歳代だった世代(三八六世代)こそ、日本における「安保世代」です。彼らは軍事政権を支えてきた米国に嫌悪感を抱き、米韓軍事同盟に反対し、米軍基地の撤収を要求し、北朝鮮を「民族の同胞」として擁護し、南北の統一を真剣に考えているのです。
 
日本の安保闘争を主導した「革新勢力」は、日本民族主義を嫌悪してきました。しかし韓国の民主化運動は、朝鮮民族主義と深く結びついているのです。北朝鮮がどれほどの個人崇拝、人権抑圧を行っていようが、「朝鮮民族の自主独立を守ったから擁護する」のです。なにより、北には外国の軍事基地が存在しません。それだけでも賞賛に値する、と考えているのです。

親北派の文政権は太陽政策で
米韓同盟解消を目論む
 
彼らにとって大韓民国は「米国の従属国」であり、その歴史は恥辱にまみれたものでした。「自主独立を貫いた朝鮮民主主義人民共和国」こそ、彼らの理想国家なのです。
 
この三八六世代の支持で成立した金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)の2代の大統領は、北朝鮮に対する「太陽政策」――経済支援という「太陽」で北朝鮮を軟化させる――をとり、平壌(ピョンヤン)を訪問して先代の指導者・金正日(キム・ジョンイル)との南北首脳会談を実現しました。
 
軍人大統領だった朴正煕(パク・チョンヒ)の娘、朴槿恵(パク・クネ)大統領は、米軍のミサイル防衛システム「THAAD(サード)」を導入するなど北朝鮮に軍事的圧力をかける政策をとりました。ところが側近の不正問題が明るみに出ると、親北派が主導する「ろうそくデモ」がソウルの街を覆い、朴槿恵大統領は議会で弾劾されて失職しました。大統領選挙の結果、「太陽政策」の盧武鉉大統領の秘書だった文在寅が当選し、大韓民国は米韓同盟から離脱する方向へと大きく舵を切りました。

第3回米朝首脳会談の意図は?

第3回米朝首脳会談の意図は
「統一朝鮮」黙認と中朝離間工作
 
金正恩労働党委員長との南北首脳会談、北朝鮮のスパイを取り締まる国家情報院の無力化、38度線の地雷原撤去、米韓合同軍事訓練の中止、平昌(ピョンチャン)冬季五輪での南北合同チームの結成、日本海における「北朝鮮漁船の救助」と、日本の海上自衛隊偵察機への火器管制レーダー照射、日韓基本条約で解決済みである日本統治時代の補償問題の蒸し返し。
 
文在寅政権が行ってきたこれら一連の政策は、決して支離滅裂なものではありません。「米韓関係、日韓関係をわざと毀損して、南北統一を実現する」という明確な意思の現れなのです。
 
政治体制も経済体制も異なる南北朝鮮を、いかに統一するのでしょうか。それは「一国二制度」です。共産党独裁の中国が、自由主義経済の香港の体制を維持したままこれをのみ込んだように、労働党独裁の北朝鮮が、自由主義経済の韓国を維持したままこれをのみ込むのです。
 
南北は同一国家になりながらも、緩やかな連邦制の形をとるでしょう。そして北の核ミサイルは、北が主導する「統一朝鮮」の核ミサイルとなり、韓国の財閥による投資で北朝鮮経済は急成長するでしょう。労働党の独裁は揺るがず、北の人民は韓国企業の安い労働力として使われるのです。
 
大阪G20に出席した文在寅大統領に対し、ホスト役の安倍首相は日韓首脳会談を拒否し、冷遇しました。自衛隊の観艦式にも、韓国海軍を招待リストから外しました。経済産業省は大量破壊兵器の開発に関わる戦略物資の輸出を規制しない「ホワイト国」から韓国を除外する方針です。

文在寅氏が強く望んできたことに、ようやく日本側が応えてあげたのです。これこそ「日韓友好」です。文氏はさぞ満足でしょう。

南北朝鮮は近いうちに統一!どちらが主導するのか?

南北朝鮮は、北が主導する形で近いうちに統一するでしょう。それが南の民意である以上、外野のわれわれにはどうしようもありません。しかし、統一朝鮮が中国と一体化することもありません。なぜなら、直接国境を接する中朝は、地政学的には敵同士だからです。
 
大阪G20の直後にトランプは板門店の軍事境界線を電撃訪問し、3回目の米朝首脳会談を行いました。「米国は北朝鮮主導の半島統一を黙認する。その代わりに、中国とは距離を置け」というメッセージです。地政学の観点から東アジアの歴史と地理的条件を考察すれば、これらのことが明らかになるのです。

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