「警察も医師も看護師も。日本じゃ考えられぬ米国人のテキトーぶり」

妥協なきテキトー人種アメリカ人

今年に入って、購読者から頂いた質問メールに答えていきたいと思います。今週はそのうちのひとつ。
高橋さんは、日本とアメリカどっちが好きなんですか?
(女性:職業、年齢不詳)

文脈から女性ということだけは分かりますが、お名前も職業も何も明記されていませんでした。

おそらく、ちょっと怒ってらっしゃった?(笑)のかも。クレームとまでは言わないまでも、日本の習慣を少し批判した内容の号を発刊した直後だったので、「アメリカかぶれ」と思われたのかもしれません。確かに日本のテレビ番組を見ると、コメンテイターの中には「欧米では…」とまるで、アメリカとヨーロッパが先進国のように発言される方も珍しくありません。それらの方と同じ種類のタイプと思われたのでしょう。

ただ、古くからの読者はわかっていただけると思うのですが、ここのメルマガでも「アメリカ人の素晴らしいところ」「アメリカ人のバカ丸出しのところ」「日本人の素敵なところ」「日本人のいやらしいところ」と4つの思いをそれぞれ25%ずつ(いやらしくも計算して)書いてきたと思っています。意識的に。事実、この4つの気持ちが等分ずつ僕の中にあります。たまたまこの方は、4つ目の日本人批判を書いた週を読まれたのかもしれません。
そのメールの中には、日本人なのに、日本人が嫌いなんですか?とも書かれていました。

ここでハッキリさせておくと、どちらかというと僕は日本人の方が好きです。もちろん人によるけれど、相対的に、人は日本の方が好き(社会はアメリカの方かもしれません)。
アメリカ人に対するムカつき度は、日本人のそれの比ではありません(笑)いや、マジで。

今から5年ほど前、メキシコとアメリカの国境付近、サンディエゴで真夜中に交通事故に遭いました。学生時代、バイクで転倒することはしょっちゅうでしたが、車が大破するほどの本格的な事故は、後にも先にも人生、これ一回でした。
夜中11時くらいだったかと思います。妻に運転を任せ、後部座席で寝ていました。

なんとなぁく、目を覚まし、なんとなぁく、助手席に車内の中で移動しました。そこから5分後、またうつらうつらと助手席で、寝かけたところ、後方からのかつてない衝撃に襲われました。寝ぼけている僕は、たまたま直前まで見ていたハリウッド映画の、その中にいて「飛行機の中で、機内の一部を爆破して、ゾンビを空の向こうに吹き飛ばす」シーンが重なり、なぜか、飛行機の中から上空へ吹き飛ばされる!と一瞬、思いました(笑)。

寝ぼけた頭はそう判断した。このままでは、空に吹き飛ばされる、と。そのくらいの衝撃と、そのくらい前方へ押し出される力を感じました。もう何が何だかわからず、気づいたら、数メートル目の前に超大型のトラックのお尻が見えます。横を見ると運転していた妻も放心状態。いまだ頭が働きません、後方からの衝撃なのに、どうして目の前にトラックが?
誰かが2人を殺しに来る!?

する意識の中、前方のトラックから、背の高い男性が降りてきて、こちらに歩いてくるのが目に入りました。パニックな頭が判断した答えは、「殺される」ということ(笑)。

今では笑い話ですが、寝ている状態で、車の後ろ半分がなくなる事故の直後は、頭が正常に働くわけがありません。僕たちを殺すために、男はトラックを降りて、こちらに歩いてきているのだとしか思えませんでした。

せめて妻を守らなければと本能のまま、その殺し屋と戦うつもりで、車を出ました。出た瞬間、両足がかつてない痛みを訴えてきて、立つ力もなく、その場にへたり込んでしまいます。すると、こちらに歩いてきた殺し屋が、僕を支えながら「大丈夫か?ごめん、居眠り運転をしてしまった…」と。

居眠り運転していた食品メーカーの大型トラックが、僕たちの車両に後ろから追撃。その衝撃で、横道に吹き飛ばされた僕たちの車両を超えて、トラックは前方5メートルまで走ったことを後で知りました。

車を見ると、後ろ半分がありません。ほんの5分ほど前まで寝ていた後部座席がまるまる潰されていた。

で、トラックの運転手の彼も自分の過失を認めている。もちろん立派な交通事故なので、警察に電話をします。身体中が痛みを訴える中、警察の到着を、妻と、ドライバーと3人で、真夜中の国境近くのハイウェイで待ち続けます。1時間経っても、2時間経っても警察は来ない。

何度もサンディエゴ警察に電話します。電話口の婦警から聞かれるのは死亡者の数。死人は出ていないと答えると「じゃあ待っててよ!」の一点張り。なぜか逆ギレ。しかも、なにか食べながらしゃべってるし(間違いなく、アホなアメリカ人みんな大好きポテトチップスだろうけれど、どうせ)。

結局、警察より先に、ドライバーが電話した自分のところの食品会社の上司が到着しました。
「代わりに、自分がこの場に残るから、彼を行かせてくれないか。彼は運送の仕事が残っていて…」と、その上司の提案を受け入れます。そこから何時間経っても、警察は来ない。

結局、妻も全身打撲からか高熱が出てきて、もう諦めることに。連絡先と車のナンバーだけを控えて、その上司も解放し、半分なくなってる車のまま運転して、ホテルまで帰りました。
今振り返っても、正常な判断ではありません。

事故の直後だから冷静な判断ができませんでした。車が大破する交通事故に遭った。先方も全面的に過失を認めている。車は保険でカバーできるけれど、どんなに少なく見積もっても日本円で数百万円は取れた。この国だと数千万円も全然珍しくありません。ヘタしたらミリオンかも。でも、正直言って、その時は、そこまで頭が回らなかったし、そこまでの気力もなかった。

もし、あの時、すぐにでも警察がきていれば。間違いなく事態は変わっていたと思います。

あとで、LAの知り合いに聞いたのですが、「死なない限りは、交通事故ごときで、LAPD(ロサンゼルス警察)は来ないよ」とのこと。なんのための警察なの??「偶然、近くにパトロール中のパトカーがあれば別だけど、そんなことごときで警察が来るわけないじゃない」と笑われました。車が大破する事故で警察が何度電話しても来ない。

日本だと一面のニュースになるはずです。車が半分なくなるくらいじゃ、そんなことごとき、に入るそうです。そう、アメリカ人って、警察ですら、これくらいテキトー…。翌朝、エマージェンシー(緊急)で行った病院でも、3時間待たされました。

日本人に対する「差別」なのか?

先々月に乗ったアメリカの航空会社のビジネスクラス。離陸してすぐに点灯させた、CAさんを呼ぶためのライト。LAまでの6時間。ついぞ、到着するまで、CAさんは来てくれませんでした。ライトは点灯しっぱなし。その間、何度も何人ものCAさんが真横の通路を行ったり、来たり。

6時間無視。おそらく、あのライト、2ヶ月経った今も点いたまんまだと思います。渡米当初は、ひょっとして人種差別をされているのかと疑いました。在米20年目の今、それは人種差別とはまったく違うと確信します。なぜなら白人でも黒人でも、アメリカの航空会社のサービスは、いつも安定してこんな感じだから。そう、安定して手抜きです。彼らのテキトーさは、決して妥協しない。テキトーにテキトーではない。きっちり完璧なまでにテキトー。

うちには来月4歳になる双子がいます。4年前、彼らが生まれてきた日のことです。

病院は、世界最高峰の医療施設と(自ら)詠うニューヨーク大学病院。
彼らがこの日に生を受けて、翌朝、ひとりの看護婦さんが、与えるミルクの量を教えに病室まで来てくれました。「ひとりずつに、3mgずつ、朝、昼、夜とあげてね」

昼間に巡回に来てくれた別の看護婦さんは「生まれた翌日は朝夜の2食で十分よ、4mgずつ与えてね」
夜間、巡回に来てくれた別の看護婦さんは「どうして昼にあげなかったの!?毎食5mgずつ与えるのよ」
翌日、診断してくれた女医さんは「朝と夜に3mgずつ、ちゃんとあげた?」

その昼、婦長さんに聞きに行きました。「正解を教えてくれ!」と。
全員違うから。
婦長さん当たり前のような顔で「だから、朝昼夜と6mgずつよ」─……。
ここでも違う、また新たな情報。キレイに、全員、ばっらバラ。全員、バカに見えました。

今、4歳になる双子の父親として、大したことではなかったと理解できます。ミルクなんて3mgでも5mgでも、1日2食でも、3食でも、そう大差ない、と。
でも、その時は、初めての出産で、彼らがこの世に生を受けて、初めての食事でした。

父親初日の僕には、とても重要なことと思い、正直、パニクりました。
例えば、「隣の病院では、こう指導している」とか、「こっちの書籍ではこう書いてあるけれど、またちがう医療の専門書ではこう書いてある」なら、まだ理解できます。まだ、わかる。そういうこともあるだろう、と。でも、今回はまったく違う。

婦長さんに言いました。「登場人物、全員、あんたのとこの、同じ病院の同じ階の同じ詰所の人間だけどなっ!!!」。簡単なマニュアルもないのかしら。産婦人科だけは、得意の「テキトーさ」を封印してくれないか、アメリカ人よ(涙)。

いざ、退院の際、受付には誰もいませんでした。親子だと証明する腕に巻きつけられた番号札を自分でハサミで切るしかありませんでした。もし僕が誘拐犯なら、これ以上なく簡単に新生児を外に連れ出すことができました。

妻の手術後に看護師が取った行動

同じニューヨーク大学病院でのこと。出産から3ヶ月後、妻が倒れました。

こんな時、もちろん、アメリカでは緊急(エマージェンシー)に行ってはいけません。命に関わる、一刻を争う状況でなければ、エマージェンシーは一般よりも待たされます。

妻は手術することになりました。かなりひどい状態だったらしく結構な大手術です。ふと、嫌な予感がした僕は、すでに真夜中でしたが、その場にいた看護婦さんに「何時になってもいいから、何かあったらケータイに電話ちょうだい!とにかく手術が終わっても電話して!」とお願いしました。

彼女はOKとテキトーに返事して、その場を立ち去ろうとしました。ちょっと待て。どこに電話する?僕はまだ彼女にケータイの番号を伝えていません。めんどくさそうに僕の番号をメモする彼女。お願いね、と念を押す僕。

「わかったわ!なにかあったらもちろん電話するし、無事に終わっても必ず電話する」と彼女は約束してくれました。「しつこくて、ごめん」と言う僕に、「ごめんなんて言わないで、家族だもの。心配して当然よ」と優しい目。アメリカのテレビ映画でよくみる表情。旅行くらいでしか本物のアメリカを知らない日本人は「アメリカ人はやさしい」と間違いなく思うことでしょう。

何時間経っても、電話は鳴りません。数時間後、しびれを切らし、病院に行くとスヤスヤ寝ている妻。詰所のソファには、テレビを見ながら、グミを食ってる例の看護婦。グミを口に入れたまま、時折、手を叩いて爆笑してる…。

もう、何も怒る気にはなりませんでした…。

こんなテキトーな連中を、好きになれるはずがありません。今までの話、日本ならスポーツ新聞どころか一般誌でも取り上げてくれそう。
でも、もちろん、ビジネスをしている時は、このテキトーさに助けられることも、またあります。後に引かない、サッパリさは、日本人にはない気持ち良さも持ち合わせてはいます。

なので、好きになったり、嫌いになったり。この19年も、この先も、僕はそう思うことでしょう。
来週あたり、アメリカ在住の読者からクレーム、来るのかな…「アメリカに住んでいるのに、アメリカが嫌いなんですか?」って(笑)。

何度も言います。僕は、アメリカが大好きで、大嫌いです。僕は、日本が大好きで、大嫌いです。で、その状況を楽しめる今の環境をとても、幸運だと思っています。

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