「巨大利権か。」

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被ばくリスクのX線胃がん検診を受けさせたい人々

現在も広く行われているX線胃がん検診の被曝リスクが国会で取り上げられ、話題となっています。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、具体的な被曝線量を示しその危険性を記すとともに、このようなリスクを伴う検査法が無くならない理由を白日の下に晒しています。

ようやく国会で取り上げられたX線胃がん検診の被ばくリスク

ようやくというべきか。集団健診バスなどで昔から続けられているバリウム使用のX線胃がん検診について、被曝の危険性が国会で取り上げられた。現在、先進国でバリウムによる胃がん検診を行っているのは日本だけともいわれる。

筆者は30歳代のころ集団検診で胃に数個のポリープが見つかり、胃カメラ検査を受けて良性と判断されたが、その後数年間は年に1回、嫌なバリウムを飲んで変化していないかどうかを確かめた。当時の胃カメラ検査はチューブが太かったため喉に通す時がひどく苦しく、二度と受けたくないと思っていたので、X線検査を選択したのだ。

幸いなことに、胃の良性ポリープが癌に変化する可能性は低いという医師の知見を信じて、その後はいっさい胃がん検診なるものを受けたことがない。

なぜ幸いかというと、あのまま毎年1回、30年以上にわたってX線検査を続けていたら、どれだけの放射線被曝量が体のなかに累積していたか、空恐ろしいからである。

では、胃のX線検査で1回どれだけ被曝するのだろうか。5月30日の参議院財政金融委員会において問題を提起した風間直樹議員は次のようなデータを示した。

「私の手元の資料によると、大きなフィルムで撮影する直接撮影では1回15ミリから25ミリシーベルト、検診車による小さなフィルムでの間接撮影方法では、1回20ミリから30ミリシーベルトも被曝する。胸部レントゲン撮影の被曝線量は1回あたり0.1ミリシーベルトだから、いかに胃のX線検査の被曝量が多いかがわかる」

このデータについては多少、疑問がある。胃部X線検査はさまざまな角度から最低8カット撮影するほか、撮影の合間もX線を当てたまま胃の状態を見る「透視」が必要だ。その分、被曝量は多くなる。だから、透視の時間を考慮しなければ実際の被曝量は推定できない。

風間議員は、間接撮影の場合遠い位置からの撮影なので線量が強いと説明したが、透視時間を考慮すれば、集団検診車より医療機関の直接撮影のほうが高くなるのがふつうだろう。

実際、名古屋大学の調査では、間接撮影で2.9ミリシーベルト、直接撮影で4.0~13.4ミリシーベルトという数値が出ている。風間議員が指摘した数字に比べて低いが、それでも十分、健康被害が懸念されるレベルだ。
福島原発事故の直後にさかんに使われた一般人の年間許容量「原則1ミリシーベルト以下」という基準値を思い出せばわかるだろう。

集団検診を受けるだけで、たやすく年間1ミリシーベルトという許容基準を上回ってしまう。なんらかの病気でCT検査を受けると、さらに10~20ミリシーベルトも被曝線量がプラスされる。

70歳となった筆者の場合、直接撮影による胃部のバリウム検査を35年にわたって続けたと仮定すれば、最低でも4×35で140ミリシーベルトを体が受ける計算だ。累積で100ミリシーベルトをこえたら、健康被害が出る可能性が指摘されている。

医療による被曝が世界一多い日本

そもそも日本は世界一、医療による被曝が多いらしい。2004年、世界有数の医学雑誌「ランセット」に掲載されたオックスフォード大学研究グループの論文によると、75歳以上の日本人の年間がん発症者の3.2%にあたる7,587人はX線撮影の被曝が原因だというのである。

諸外国に比べX線CT装置の台数が多いこともあるだろうが、それに加えて、日本がいまだにバリウム検査を重視していることを見逃すわけにはいかない。

国立がんセンターの「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン」を読めば明白だ。2014年に改訂されているのだが、胃X線検査については従来通り「住民健診型」「人間ドック型」のいずれについても「推奨する」とされている。

胃カメラ検査に関しては、2005年版で「住民健診」を「推奨しない」とされていたが、14年版でようやく「推奨する」に引き上げられた。

一方、ピロリ菌の有無などを調べる胃がんリスク検診は「推奨」されていない。「死亡率減少効果を判断する証拠が不十分」というのがその理由だ。

血液検査でピロリ菌の有無と胃粘膜の萎縮度を調べ、胃がんリスクの程度によってグループ分けし、最もリスクの低いグループは定期胃がん検診を不要とするのが胃がんリスク検診である。

胃がん患者の99%がピロリ菌感染者だということは医学的に証明されている。ピロリ菌に感染していないと判定されたグループは、無駄な検査を回避し、その他のグループだけが、胃カメラ、つまり内視鏡検査を受ける。そのほうがはるかに合理的ではないか。この検査を排除しょうとするのは不可解である。

WHOの専門家会議は、胃がん診療で最も大切なのはピロリ菌対策だと結論づけているのに、なぜかバリウム集団検診がいまだに偏重されているのが日本の現実だ。

厚労省によると胃がん検診のうち77%がバリウムによるX線検査で、内視鏡検査は22%にすぎない。その理由について厚労省の佐原康之審議官は次のように述べた。

「有識者による議論をいただきながら国の指針を定めて科学的根拠に基づくがん検診を推進している。内視鏡に切り替えにくい理由としては、被験者の負担感が高く、巡回のバスによる職場での検診ができないので利便性が低下することがある」

しかし、ほんとうにそのような理由なのだろうか。
暴かれる「検診ムラ」の利権構造

がん検診事業を進める国内最大の民間組織は「日本対がん協会」である。東京を除く46道府県に提携団体(支部)があり「日本対がん協会グループ」を形成している。

1960年に同グループの宮城県対がん協会が東北地方に胃X線の健診車を巡らせ住民検診を始めたのが日本で最初の集団検診だ。現在では、子宮、肺、乳房、大腸の集団検診も行われている。

グループ全体で約1,000台の検診車を持ち、申し込みを受けて地域や職域を巡回する集団検診には、市区町村から補助金が出る。国から自治体に配られる地方交付税のうち約180億円がその原資だ。

日本対がん協会は1958年に朝日新聞の80周年記念事業として設立されたため、現在でも事務局は朝日新聞からの出向者が中心だが、役員の顔ぶれをみると、国立がん研究センターの強い影響下にあることがわかる。

会長は元国立がん研究センター総長、垣添忠生氏、常務理事の一人は中釜斉・国立がん研究センター理事長である。元総長と現理事長が運営にたずさわっているのだ。

国立がん研究センターはもともと厚生労働省直営の機関で、2010年4月1日に独立行政法人へ移行し、国立がんセンターから国立がん研究センターに改称された。

国立がん研究センターと密接に結びついた日本対がん協会を「検診ムラ」の総本山と呼ぶのはジャーナリストの岩澤倫彦氏だ。

薬害C型肝炎に関する調査報道で「新聞協会賞」などを受賞した岩澤氏は著書『バリウム検査は危ない』のなかで、ピロリ菌感染の有無などを調べるリスク検診を重視する立場から、次のように「検診ムラ」の利権構造を暴いている。

胃がんリスク検診が導入されると…国が定める5つのがん検診のなかで最も大きな収益をあげるバリウム検査を失う…ここ最近で買い替えが進んでいる1台5,000万~9,000万円という高額なデジタル式X線検診車が無用の長物と化して、大量の診療放射線技師が職を失うことになる。つまり、バリウム検査は、全国に存在する検診組織、天下り役人、バリウム製剤、X線フィルム、X線装置メーカー、診療放射線技師、さらには科学的根拠というお墨付きを与える研究者まで、実に幅広い利害関係者を抱えているのである。

「バリウム検査」が「リスク検診」にとって代わられるのを避けるため、日本対がん協会と天下りを通じて密接な関係にある国立がん研究センターは「胃がん検診ガイドライン」で、リスク検診を「推奨」から外し、排除しようとしたのではないのだろうか。

検診による収益が増える仕組みに

厚労省では「がん検診のあり方に関する検討会」を2012年5月以来、28回にわたって開いてきた。構成メンバーは9人で、うち国立がん研究センターの幹部が2人、日本対がん協会支部の幹部が1人と、「検診ムラ」で3人を占めている。あとは大学の医学部教授、健康保険組合幹部、日本医師会幹部、自治体の担当者らである。

参院での質疑で、厚労省の佐原審議官は「有識者による議論をいただきながらがん検診を推進している」と答弁したが、国立がん研究センターの意見が通りやすいメンバー構成になっている有識者会議で、どこまで公正な判断が期待できるのか、はなはだ疑問だ。

バリウムによる胃の集団X線検査は、“要精検率”が他のがん検診に比べて圧倒的に高いという。要精検の判定を下された受診者に別料金で胃カメラ検査を行って二重取りをすれば、検診による収益はさらに増える。

以上のような諸事情により、バリウム検査を手放せないのだとすれば、バカを見るのは受診者だ。国会でもっと議論を深めてもらいたい。

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