「スルガ銀の救世主になった新生銀が描く「名誉挽回」の思惑」

画像の説明

スルガ銀の救世主になった新生銀が描く「名誉挽回」の思惑

5月15日に決算を説明する工藤英之・新生銀行社長。スルガ銀行との提携話に関しては、正式発表前ということでコメントを避けた

5月15日、不動産投資向けローンをめぐる組織的な不正を働いたスルガ銀行は、新生銀行と家電量販大手のノジマの2社と業務提携を結ぶと発表した。ただ、救世主として現れた新生銀にとっても、今回の提携話をうまく活用したい懐事情がある。
 
窮地からの起死回生――。この言葉が似合うのは、未曾有の不正融資問題により経営危機に直面しているスルガ銀行だけではないかもしれない。
 
銀行界からりそなホールディングスと新生銀行、家電量販大手のノジマ、ネット証券グループのSBIホールディングス。他業界他業種の名前が飛び出たスルガ銀のパートナー探しは、5月15日に新生銀行とノジマの2社との業務提携という形で一時的な閉幕を迎えた。
 
ここで「一時的」と記したのは、スルガ銀が今回の提携について、この2社を含む第三者と、業務提携よりも踏み込んだ資本提携を結ぶ「可能性を排除するものではない」とわざわざ公表しているからだ。ある新生銀幹部も、事前に「出資の話までは5月15日に間に合わない」と判断していたこともあり、6月に行われるスルガ銀の株主総会までに、今後も出資に関する協議が進む可能性が残されている。

スルガ救済により名誉挽回を図る

スルガ銀といえば、静岡県沼津市に本店を構えながら、都内を中心とした不動産投資向けローンに軸足を置いてきた地方銀行だ。

その収益性が高いビジネスモデルには金融界も一目置いていたが、女性専用シェアハウスの「かぼちゃの馬車」を巡り不正疑惑が浮上。ふたを開けてみれば、組織的に不適切融資やパワハラが横行するという目を覆いたくなるような惨状だった。5月15日公表の調査報告書では、契約書の改ざんなどが疑われる不正融資の案件は、金額にして1兆円超と不動産投資向けローン全体の6割以上を占めることが判明している。
 
同じく、15日に発表された2019年3月期決算。スルガ銀は純利益で970億円の赤字に陥った。不正まみれの不動産投資向けローンが焦げ付くことを見越して貸倒引当金を積み増し、それが巨額な損失となったためだ。また、スルガ銀の足元における預金残高は3兆1656億円となり、1年間で9240億円もの預金が流出。スルガ銀に対する顧客からの信頼の、低下のほどがうかがえる。
 
こうした事情があったからこそ、スルガ銀単独での信頼回復は難しいとし、不正発覚直後から提携話が飛び交った。結果としては、新生銀と、すでに5%弱の株式を取得していたノジマが第一陣として手を挙げることとなった。

スルガ救済により名誉挽回を図る
 
ただ、今回新生銀が選ばれたことについて、新生銀の内部の人間も「うちは消去法だ」と嘆いている。もとをたどれば、「スポンサー候補として金融庁が期待していた」(金融庁関係者)はずのりそなが早々に離脱。どうしても「銀行」の名を冠するところに支援を託したい金融庁の思惑が絡み、新生銀に白羽の矢が立った形だからだ。
 
そこに、工藤英之社長が「提携に前向きだった」(新生銀関係者)ことが後押しする。背景にあるのは、大手銀行の中で唯一、公的資金が国から注入されたままの銀行として、名誉挽回したいという思いだ。
 
そもそも新生銀のルーツは、かつて長期の運転資金を企業に供給し、産業界を支え続けた旧日本長期信用銀行。この長銀が平成バブル崩壊後の不良債権問題で経営破綻し、再生したのが今の新生銀となる。
 
公的資金の注入で一時国有化されたこの銀行は、リーマンショック直後に2期連続の赤字を出したこともあり、いまだに公的資金を返済できていないという“スネの傷”を抱えている。故に「公的資金を返せないなら、せめて金融当局が困っている課題に積極的に答えるしかない」(別の新生銀関係者)と恩売りを図ったというわけだ。

スルガ協業は地銀提携の呼び水か
 
ただ、スルガ銀との提携話を単なる恩売りで終わらせたくないというのが新生銀の本音だろう。というのも、新生銀の公的資金は普通株に転換されており、株価が上がれば国は保有する新生銀の株を売って公的資金を回収する、という筋道が立てられている。つまり、株価を上げなければ新生銀の悲願である公的資金の完済はなし得ないのだ。
 
その株価が低迷している中で、今回の提携を底上げのための「起死回生策にしたい」という思惑を働かせないわけはないはずだ。

さらに、新生銀の社外取締役であり同時に大株主にあたるクリストファー・フラワーズ氏が新生銀の株式を売却する意欲を示している。つまり、株主からの圧力を回避するためにも、株価上昇のための早期プランが必要不可欠だといえる。
 
では、その鍵を握るのは何か。両陣営は今後、無担保ローンや住宅ローンなどの個人向け業務、事業承継などの法人向け業務、そして資産の流動化などに関する連携と大きく3分野での事業提携を進めていく。例えば、三つ目に上げた資産の流動化に関して、すでに債権の証券化などは「多くの地銀からニーズが出てくるだろう」

(新生銀幹部)と見込んでいる分野だ。スルガ銀が抱えている住宅ローンを、新生銀が債権化するというビジネスで好事例をつくることができれば、次の地銀提携の“呼び水”にすることができるだろう。
 
一方で、スルガ銀との提携をめぐっては、新生銀にも懸念事項が残る。その一つが人材派遣。スルガ銀は提携先からの役員派遣を検討している段階だが、仮にトップマネジメント層を派遣することになっても、そうした再生請負人を果たすような「経営人材はうちにはいない」(前出の新生銀幹部)からだ。
 
スルガ銀に新生銀、そして金融庁。各社の思惑のパズルのピースを、強引にはめ込んだ末に実現したように思える今回の提携話は、スルガ銀が株主提案を実施する6月の株主総会までに、もうひと山迎えることになりそうだ。

コメント


認証コード9633

コメントは管理者の承認後に表示されます。