[韓国財閥、逆風下で世代交代が加速 ]

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韓国財閥、逆風下で世代交代が加速

韓国の公正取引委員会は、毎年、韓国の財閥について発表を行う。
 
資産規模が5兆ウォン(1円=10ウォン)のグループを対象に、財務データや「総帥」を公表する。2019年5月15日の最新の発表の最大の特徴は「世代交代」だった。
 
韓国経済は財閥主導で成長してきた。経済全体に占める財閥の比重も高い。過度な経済力集中を防ぐために公取委の役割も重要だ。
公取委が総帥を指定
 
公取委は毎年春に、財閥の資産規模、負債比率や売上高などのデータを公表する。その中で興味深い項目がある。
 
公取委が、各財閥の事実上の「総帥」を韓国でもめったに使わない「同一人」という単語を使って指定するのだ。
 
公取委は、資産規模が5兆ウォン以上の企業集団を「公示対象集団」、同10兆ウォンの企業集団を「相互出資制限集団」に指定する。それぞれ、様々な規制を受ける。
 
それ以外に、総帥を中心にグループ内の出資形態や取引状況を調査する。総帥自身や家族、親戚が事実上の経営権を握る企業に不当に業務を発注しているかなどを調査して、処分するためだ。
 
公取委が指定する総帥は、企業グループが選んだ人物とは異なることもある。
 
例えば、ある財閥で父親が息子に「会長」を譲る。社内外では息子が「会長」で総帥を継承したことになるが、公取委は父親をそのまま総帥指定することがある。
 
グループの実態からすれば、父親が実権を握っていると判断すれば、公取委はそのままにするのだ。
 
つまり公取委の発表は「政府指定総帥」の選任とも言える。
 
2019年の発表では、注目できる内容があった。まず、いくつかの財閥で前の総帥が死去し、世代交代が大きく進んだことだ。
LG、韓進、斗山で総帥交代
 
LGグループは、長年会長を務めた具本茂(ク・ボンモ)氏が死去し、長男である具光謨(ク・グァンモ)氏が2018年6月に総帥に指定された。1978年生まれの同氏は、具本茂氏の実弟の息子から養子になってグループ後継者になった。
 
40歳でグループ総帥になった。LGグループは長年、現代、サムスンに次ぐ財閥だったがここ数年はSKグループに抜かれ、上位3グループとは規模の面でかなり差がついてしまった。5位のロッテグループの急追を受けることにもなってしまった。
 
電子、化学という主力分野でどんな成長戦略を描けるのか。就任2年目で難題を背負っている。
 
資産規模13位で大韓航空などを傘下に持つ韓進グループは、2019年4月に趙亮鎬(チョ・ヤンホ=1949年生)会長が死去した。
 
趙亮鎬氏には、「ナッツリターン事件」を起こした長女のほか、取引先の幹部に水の入った紙コップを投げつけた次女、部下や取引先社員に暴言を吐いた妻がいる。
 
さらに、ファンドが支配構造の改革を求めて持ち株会社の株式を買い占めるなど話題に事欠かず、「後継者」については韓国メディアの関心も高かった。
 
相続問題はまだ決着していないようだ。
 
一部韓国メディアは、後継争いの可能性についても報じたが、韓進グループは趙亮鎬氏の長男でグループ持ち株会社である韓進KAL会長に就任したばかりの趙源泰(チョ・ウォンテ=1976年生)氏を総帥として届け出て公取委もこれを認めた。
 
趙亮鎬会長が保有していた株式の相続をどうするか次第で、持ち株会社の筆頭株主がファンドになる可能性もある。趙源泰会長は、グループ経営権の維持という難題に取り組むことになる。
 
LGも韓進も、1970年代後半生まれの総帥に世代交代が大きく進むことになる。
 
ただ、2人の若き総帥ともに、人物像も経営哲学もほとんど外部に聞こえてこない。どういう意思決定をしているかも見えにくく、株主や社会の理解を得るためには、今後「外部との意思疎通」をどう進めるかも課題だ。

錦湖アシアナ、コーロンは退任してもそのまま
 
また、資産規模で15位の斗山グループでも総帥が代わった。
 
同グループは2016年に、創立者のひ孫で初代会長の孫にあたる朴廷原(パク・ジョンウォン=1962年生)氏を会長に選任していた。
 
ところが、公取委は、同氏の父親である朴容昆(パク・ヨンコン)氏を総帥として一貫して指定してきた。
 
斗山グループは、創立者→初代会長→朴容昆氏と長男継承が続いた。朴容昆氏は、主力のOBビールを売却して重工業部門に「業種転換」を図るなど「中興の祖」として力を振るった。
 
その後、朴容昆氏の弟に順番に会長を譲ってきたが、この間、兄弟間の紛争が起きた。これを収め、兄弟間世襲が終わると朴容昆氏の長男が会長になった。
 
公取委は、この間も、朴容昆氏が実権を持っていると見ていたわけだ。朴容昆氏が2019年3月に死去したことで、ようやく朴廷原会長が総帥になった。
 
資産規模28位で売却手続きが進むアシアナ航空を傘下に抱える錦湖(クムホ)アシアナグループは、朴三求(パク・サムグ=1945年生)氏が無理な拡大路線の影響で経営が悪化した責任を取ってすべての役職から辞任した。
 
しかし、公取委は、同氏を総帥として指定したままだ。
 
また、同30位のコーロングループでも、2代目の李雄烈(イ・ウンヨル=1956年生)氏が2018年末に会長などから退任して「グループ経営からの引退」を宣言し、専門経営者がトップに立った。
 
公取委は株式の保有状況などから、そのまま李雄烈氏を総帥に指定した。

現代自動車は代替わりせず
 
公取委の総帥指定で今年注目を集めていたのが現代自動車グループだ。
 
同グループは、2018年9月に鄭夢九(チョン・モング=1938年生)会長の長男である鄭義宣(チョン・ウィソン=1970年生)氏を「総括首席副会長」に昇格させた。
 
鄭義宣副会長は、人事や投資など重要案件についても実質的な意思決定者になっているとの見方が強い。このため、現代自動車の総帥も交代するとの見方が出ていた。
 
というのも、公取委は2018年、病床にあるサムスングループの李健熙(イ・ゴンヒ=1942年生)会長に代わって長男である李在鎔(イ・ジェヨン=1968年生)副会長を総帥に指定した。
 
さらに高齢のロッテグループの辛格浩(シン・ギョクホ、重光武雄=1922年生)名誉会長に代わって次男である辛東彬(シン・トンビン、重光昭夫=1955年生)会長を総帥に指定した。
 
だが、公取委は鄭夢九会長が大株主であり、通常の経営意思決定には問題がないとして、これまで通り総帥として指定した。
 
こうみると、公取委の指定基準やその意味が分かりにくいことも確かだ。

逆風下で代替わり相次ぐ
 
韓国の財閥はここ数年、「代替わり」の時期を迎えている。
 
サムスン、現代自動車、LG、ロッテ、韓進・・・1990年代末の「IMF(国際通貨基金)危機」を乗り切ってグローバル化路線で成長する際に、強いリーダーシップを発揮した総帥が相次いで相次いで一線を退いている。
 
新しい総帥は、海外で教育を受け、視野も広い。だからといって、韓国社会がこれまでのようなオーナー家による「世襲」をすんなり受け入れる雰囲気であるわけでもない。
 
韓国社会の世襲に対する視線はどんどん厳しくなっている。
 
そもそもこの間、韓国の財閥は急成長して、総帥といえども、多数の株式を確保できているわけではない。
 
公取委によると、10大財閥の総帥の持ち株比率は1%もない。
 
持ち株会社や個人資産会社、あるいは、複雑なグループ内での株式持ち合いを通して経営権を維持してきた。つまり本当は「オーナー」でもないにもかかわらず、「オーナー」として振る舞っているのだ。
 
だから、こうした総帥の非常識な言動や公私混同が表面化すると、あっという間に批判が拡散して経営権を揺るがす事態に発展してしまいかねない。
 
こうした変化を受けて文在寅(ムン・ジェイン=1953年生)政権も、「公正経済」「経済民主化」を掲げ、財閥の支配構造やオーナー経営に対しての規制を強めている。
新成長動力を開拓できるか?
 
さらに問題なのは、次の成長戦略がなかなか見つからないことだ。
 
韓国の財閥は、総帥の強いリーダーシップを基盤とした大胆な投資と素早い意思決定で急成長してきた。
 
だが、先代の総帥が事業化したのは、すでに欧米や日本で主力産業に育っていた分野だ。
 
いわば「追いつけ追い越せ型」のビジネスを進めるには強力なリーダーが力を発揮できた。実績を上げることで、不透明なオーナー経営に対する批判も封じてきた。
 
いまや韓国の財閥は、新分野を開拓して成長を探らなければならない。優等生タイプの世襲総帥にとっては、酷な課題でもある。
 
韓国の2018年の名目GDP(国内総生産)は1782兆ウォンだった。資産規模5兆ウォン以上の企業グループの売上高はこの4分の3以上を占める。
 
韓国の大企業はほとんどすべてが世襲の総帥がいる財閥または公企業だ。こうした硬直化した産業構造から新しいビジネスがどう生まれるのか。
 
毎年発表になる公取委の「財閥資産規模ランキング」に登場するグループと総帥は重い課題を背負っている。

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