「14億人を支配する7人 」

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世界最強の政党「中国共産党」の実像――14億人を支配する7人

ビジネスオンライン 中国を象徴する天安門

米国に次ぐ世界第二の経済体となった中国。図体の大きさだけではなく、画期的なイノベーションを生み出すなど、創造力の面でも今や世界をリードする存在だ。10年前は「遅れた途上国」だった中国が、なぜ瞬く間に「S級国家」へと変貌したのか。長年中国と関わり続けている気鋭の論者に、社会、政治、技術の各方面から分析してもらった。

●「党が指導する国」は全てが二重体制

中国、すなわち中華人民共和国は、1949年の建国以来、中国共産党が一党独裁で支配する社会主義国である。いちおう共産党以外にも衛星党と呼ばれる8つの政党があるが、お飾りにすぎない。なにせ憲法(中華人民共和国憲法)に「中国共産党による領導(指導)は中国の特色ある社会主義におけるもっとも本質的な特徴である」と明記されている。独裁をやめるには、憲法を変えなければならないのだ。  
 
中国共産党による支配は、国の上層部から社会の基層にまで張り巡らされている。どういうことかというと、省庁などの国の機関、さらには企業、学校、あるいは住宅地の住民委員会に至るまで、あらゆる組織は原則的には共産党委員会との二重体制になっている。日本にはない話なのでなかなか理解が難しいと思うので、北京を事例に紹介しよう。 
 
市長といえば、日本ではその市でいちばん偉い人物になるわけだが、中国ではナンバー2でしかない。北京市には北京市政府のほかに中国共産党北京市委員会という組織がある。「党委(共産党委員会)」と呼ばれるその組織のトップは書記。北京市長および北京市政府が行政を担当し、書記と党委がその北京市政府を指導するという関係だ。
 
政策を決定するのは書記と党委であり、実行するのが市長と市政府。共産党の立場がつねに上なのだ。あらゆる自治体、国有企業、学校には党委が設置されている。民間企業には党組織がないところもあるが、最近では国が奨励していることもあって設置される事例が増えている。「民間企業といっても、結局共産党にコントロールされているじゃないか」と米国の不信を招いたゆえんだ。
 
省、市から県に至るまで、サイズは違えども党委と政府が存在する。党が現地政府を指導する。指導する側とされる側の関係はどこまでいっても変わらない。

●共産党員はエリートか
 
上から下まで、みっちりと党組織があるため、党員数も膨大だ。2017年末の時点で約9000万人。14億の中国人の6%以上が共産党員なのだ。改革開放がはじまった1978年時点では約3700万人。約40年で2.5倍とすさまじい勢いで膨張していることが分かる。
 
この党員膨張の背景には、社会と中国共産党の変化がある。市場経済を導入した中国では企業経営者や自営業者、中産層などの新たな階層が登場したほか、大学定員も大きく増えた。中国は一党独裁の政治体制だが、独裁とはなにも下々の意見を無視できるという意味ではない。むしろ選挙によって信任されていないだけ、がんばって自らの正当性をアピールする必要があるともいえる。
 
そこで中国共産党はさまざまな社会階層を取り込もうと拡大し、その数を増やした。いまでは大卒以上の党員が4300万人に達している。2015年の全国人口サンプル調査によると、大卒以上の学歴を持つ中国人は1億7000万人。大卒に限れば4人に1人は党員だ。名門大学ならばさらに比率は高いだろう。その結果、名門学生ばかりが就職する大企業も社員は党員が多い。
 
一方で数が増えれば、党の質も変わる。かつては党員とはエリートの証であったが、いまではちょっといい大学ならば学生でも簡単に党員になれてしまう。党員になったからといって必ずしもメリットがあるわけではないが、「就職向けに資格を一つ増やしておくか」というぐらいの軽いノリで入党する若者も多い。
 
それだけに党費未払い(所得に応じて、収入の0.5~2%程度と決まっている)や党紀違反(共産党員は宗教の信仰が禁じられているが、こっそり信仰を持っている、あるいは風水にどっぷりはまる人もいる)が後を絶たない。企業家もそうだ。会社が大きくなれば、政府との関わりも増える。党員にならないかと勧められて断れないこともあれば、付き合いの一つとして党員になることもあるだろう。

●共産主義と資本主義の「二面性」
 
2018年、中国大手IT企業の阿里巴巴集団(アリババグループ)の創業者である馬雲(ジャック・マー)が共産党員だったことが判明したとして大きなニュースになったが、中国にくわしい人は「まあ、そうでしょうね」という受け止め方だった。ジャック・マーは政府と一定の距離を置いてきたとはいえ、中国を代表するような企業のトップが党員にならないということは考えづらいからだ。
 
アリババグループと並ぶ大手IT企業、騰訊控股(テンセント)のトップ、馬化騰(ポニー・マー)も18年、人民服を着て革命聖地を訪問するというパフォーマンスを見せたし、テンセント本社の前には「党とともに起業しよう」というモニュメントまで置かれている。これだけ見ると、テンセントは共産党色どっぷりに見えるが、パフォーマンスと実態は別だ。支配政党の共産党に逆らっても得はないし、怒られないように忠誠を示すパフォーマンスを見せるぐらいはたいした手間ではない。
 
中国共産党は民間企業にも党組織を設立するよう求めている。どの企業が党組織を設立し、どの企業が設立していないかは公表されていないが、一定以上の規模の会社ならば、政府との付き合いを考えれば党組織をつくっているはずだ。
 
ただし、党組織があるからといって、その会社が共産党のいいなりかというと、そうではない。申し訳程度に党組織をつくるも活動実態がない企業が多い。結局のところ、9000万人もいれば内情はさまざまだ。ヒラ党員でも志操堅固な人物もいれば、たいした考えもなしに入党したナンチャッテ党員もいる。ちゃんと活動している党支部もあれば幽霊支部もあるわけだ。中国共産党は巨大なピラミッド型構造を持つ組織だが、底辺は結構いい加減といってもいい。

●権力ピラミッドのトップに君臨する7人
 
中国共産党全体の意思決定機関となるのが中央委員会だ。第19期(2017~2022年)は中央委員204人、候補委員172人の計376人から構成されている。彼らは年1回北京に集まり、党の政策について議論、決定を下す。ちなみに候補委員は出席はできるが発言権はなく、投票もできないオブザーバー参加だ。
 
毎年春には「両会」が開催されている。全国人民代表大会と全国政治協商会議の総称だ。日本のメディアでは「日本の国会に相当」と紹介されることが多い。国会とは名ばかりで、法案が否決されたことはないが、両会をあえて中国政府版国会だと呼ぶのであれば、中央委員会が中国共産党版国会といえるだろうか。そう考えると370人という、会議には多すぎる構成人数も理解しやすい。
 
日本の国会との違いは開催期間だろう。中央委員会が開催されるのは年1回、約4日間だけだ。これだけの期間で全てを決めることはできないので、閉会中の意思決定機関がある。それが中央政治局だ。
 
中央政治局を構成するのが政治局委員だ。政治局委員は中央委員から選出される。政治局委員は現在25人が定員で、ポストによっては中央委員クラスに指示を出す立場にもなる。政治局委員25人の中から選ばれたトップ中のトップが、現在7人で構成される政治局常務委員だ。現在のメンバーは次の通り。

 習近平総書記
 李克強総理
 栗戦書全国人民代表大会常務委員会委員長
 汪洋全国政治協商会議主席
 王滬寧中央書記処常務書記
 趙楽際中央規律検査委員会書記
 韓正常務副総理
 
この7人は党内序列の順番に並んでいる。会議などの席次や、メディアで紹介される順番はこの序列に従って定められているが、序列7位の韓正は、序列6位の趙の命令を絶対に聞かなければならない、というわけではない。

●まさに「トップ・オブ・トップ」
 
彼らは常務委員会を構成し、重要な政策、人事に関する決定権を有する。政治局常務委員による会議「政治局常務委員会会議」が出した意見を、政治局会議で審議するという建前になっているが、過去に意見が否定されたことはない。実際には政治局常務委員が決めたことが中国共産党の決定事項となっているのだ。
 
その意味で、中国共産党中央政治局常務委員会会議こそ、中国の最高指導機関といえる。常務委員会は第14期(1992~1997年)から奇数で構成されるようになった。賛否を問う多数決を取る際に、同票で分かれないようにとの考えからだといわれている。
 
ということは、常務委員の票はみな同じ重みを持っていることが推察される。国のトップである総書記だからといって、2票分、3票分の投票権を持っているわけではない。同じ1票でカウントされるというわけだ。
 
14億人の中華人民共和国。その中の独裁政党・中国共産党の党員が9000万人。共産党の意思決定機関である中央委員会が376人(うち投票権を持たない候補委員が172人)。常設の意思決定機関である中央政治局委員が25人。
 
そしてトップ・オブ・トップ、中国共産党の最高指導陣が政治局常務委員7人。こういうピラミッド構造になっているのだ。引退した長老が口を挟むこともあるが、原則的にはこの7人をどういう顔ぶれが占めるかを巡って、中国の権力闘争は展開される。

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