「やりたい放題」

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中国の犠牲者が続々。途上国を蝕む「一帯一路」のやりたい放題

中国が提唱する現代版シルクロード構想「一帯一路」。「着々と進行中」とも「息切れ寸前」とも伝えられていますが、その真相はどこにあるのでしょうか。

荒々しい中国資本主義の「一帯一路」戦略──カンボジアで見た思いもよらぬ光景

中国や東南アジアで手広くビジネスを展開している友人の案内でカンボジアを3日間、視察した。カンボジアはASEAN-10の中でも国力的には下位にあって、人口は第7位の1,600万人、GDPは第8位の223億ドル、1人当たりGDPは第9位の1,390ドル(2017年推定)ではあるが、近年はGDP年率7%ほどで成長し続けていて、活気に満ちている。とはいえその活気を吸い尽くしているのはどうやら中国で、その「一帯一路」戦略の光と陰のコントラストがカンボジアでこそよく見えるのだという。

実際、カンボジアはタイ、ラオス、ベトナムと国境を接するインドシナ半島のヘソなのである。

シハヌークビル経済特区

首都プノンペンから南西に国道4号線を230キロ、3時間半かけて走ると、シハヌークビルの港町に達する。この港は、カンボジア唯一の海洋港で、しかも水深のある良港である。というだけでなく、1953年にフランスの支配から脱した後にシハヌーク殿下が真っ先にこの港を建設し、それを見下ろす山上のホテルをも自ら企画し設計を指導もして「インディペンデンス・ホテル」と名付け〔そこに私共も宿泊した〕、殿下のそれらの行跡を記憶するために旧市名コンポンソムをシアヌークビルに改めたという、町そのものがカンボジアの独立を象徴する記念物なのである。

ところがここ数年の内に、そこがカンボジアの中国への従属を示す一大拠点に変貌してしまうという酷いことが起きた。

“従属”と言っても、もちろん悪いことばかりではない。港から12キロほどの4号線沿いに2008年から建設が始まった「シハヌークビル経済特区(SSEZ)」は、カンボジアと中国との政府間協定に基づいて中国の官民が全面協力し、計画面積1,113ヘクタールの広大な敷地に最終的には300社、従業員8~10万人、小学校まで備えた一大工業都市を作り上げようとするもので、現在までに敷地の約半分が整備され、110社が入居もしくは準備中である。その9割は中国企業。職種は繊維・縫製、靴・鞄、家具・木工などが多い。

実はカンボジア全土には、経済特区が47カ所もあってサービスを競っているが、その中でこのシハヌーク経済特区はダントツの規模と企業数を誇っていて、それはこれを何としても成功させて「一帯一路構想のランドマークに仕立てよう」という習近平主席とフン・セン首相との合意によるところが大きい。

港のすぐ近くには日本のODAによる「シハヌーク港経済特区」が2012年に開所したけれども、面積は25分の1、入居企業は日本からの2社のみで、ゲートに管理人もおらず半ば廃墟化しているのとは、天と地の違いである。

恐らく日本の場合、外務省と現地大使館は有償資金協力を出しただけで満足で、出来た特区が巧く活用されているかどうかには関心がない。後のことはJICA辺りに委ね、JICAとて自分が作ったものではないし、閑散としていても自分の懐が痛む訳でないから何もしない、問い合わせがあれば答える、ということなのではないか。

それに対して中国の場合は、政府間協定の下で江蘇省無錫の民間開発企業が全面出資し、まずは自分の地元の企業に働きかけて進出を促し事業として成功させようと必死に取り組むから、初めから意気込みが違う。日本のお役所仕事というのは、国民の税金を使って国の恥を晒しているようなものなのである。

カジノ&ホテルの乱立

ところが困ったことに、「一帯一路」構想に乗って進出してくるのは繊維や靴の工場だけではない。それより遥かに凄まじい勢いで、中国の不動産業とカジノ産業とがシハヌークビルに殺到し、静かな海浜リゾートだった田舎町は下品極まりないギャンブル街へと変貌しつつある。

我々が到着したのは夜も22時近い頃だったが、建ち並ぶカジノ&ホテルにはケバケバしいネオンが煌めいて、超ミニスカートのお姉さんや黒服のお兄さんがたむろし、玄関には制服に警棒の逞しい警備員が構えているという異様な光景が広がっていた。いまこういったカジノ&ホテルはいくつあるのかを尋ねると、まだ市内の数十カ所で突貫工事が続いていていくつになったか分からないけれども、昨年末で86軒になったことは確かであるらしい。

こうなると当然治安も悪化して、中国人同士の喧嘩や撃ち合い、強盗、誘拐、麻薬売買などの闇の犯罪が広がる。また中国人とカンボジア人との抗争もあり、昨年11月にはカンボジア人の10代の青年3人が中国人を襲撃して逮捕される事件が起きた。

「中国カジノ資本主義」の哀れな姿

カジノの客はもちろん中国人が中心で、そのためにシハヌークビル国際空港では無錫、武漢、成都、昆明、杭州、深川など中国の地方都市からの直行便がドンドン増えている。かつてはマカオが米国のラスベガスを凌ぐほどの隆盛を誇ったが、習近平の汚職摘発運動で党・政府の高官や国営企業幹部のド派手な遊びがなくなり、今は地方のちょっとした小金持ちがシンガポールやカンボジアで遊ぶのが流行っていて、間もなくカンボジアのカジノ産業がマカオを上回りそうだとまで言われている。

そうなるには、もはやシハヌークビル空港が手狭なのでこれを拡張する計画と、プノンペン空港に降りる北京や上海など大都市からの客を運ぶための4車線の高速道路を中国が資金を出して建設する計画とが進められている。

カンボジアのカジノは、ここと、もう2カ所、プノンペンから東へベトナムのホーチミンに通じる国道1号線を170キロ走った国境の町バベット、そして5号線を北西へ400キロ走ったタイとの国境のポイペトの計3カ所に集中している。

いずれも、自国内では禁止されているカジノで遊びたいタイ人やベトナム人の小金持ちが相手だが、中国人はワンランク上で、飛行機でプノンペンやシハヌークビルに飛んでくるのである。

バベットも翌日訪れてみた。何もない原野のような所に数十軒のカジノ&ホテルがひしめき合い、裏に回れば中国人建設労働者向けの共同住宅と貧弱な中華料理店ばかりという「中国カジノ資本主義」の哀れな姿に、胸が潰れた。

さて、首都プノンペンには特例によって1軒だけ、それこそ安倍晋三首相が誘致を切望する超高級「統合型リゾート」の好例としてNAGA WORLDが存在する。これはマレーシア華僑の大金持ちでかつてフン・セン首相の経済顧問を務めたチャン・リップケオンが首都圏のカジノ利権の独占権を与えられて経営している。

キンキラキンのロビーに入って行くとまず目立つのは、奥のラウンジ・バーにたむろする派手な女性たちの客待ち姿ではある。しかし、その両脇の広い賭場を覗くとブラックジャックのテーブルや全電子式のルーレット台に群がる人々は割と普通で、サンダルを引っかけたような風体で入って来たオバさんがルーレット台に座るや無造作に100ドル札を財布から抜いて投入口に滑り込ませ、慣れた手つきでボタンを次々に押してゲームをセットして行く様子にあっけにとられてしまう。

大阪のオバちゃんが買い物代わりにちょっとパチンコ屋に立ち寄ったという風情である。

危ぶまれる「一帯一路」の前途

文明論を持たないと……

こうして、カンボジアで垣間見た中国「一帯一路」戦略の具体的な展開は、一言でいって大混乱である。経済特区に進出しているのは、実際の運営にはたぶんいろいろ問題を抱えているかもしれないけれども、基本的には、額に汗して働いて、いい製品を作って中国や世界に売ろうという健全な物作り資本主義であり、そこで働くカンボジア人にとっても学ぶことは少なくないはずだ。

それに対して、不動産を買い漁ってカジノやホテルを乱造し、さらに海に面した高層コンドミニアムを建造して中国の小金持ちに売りつけようというのは、その場限りの金儲けだけを狙ったまさにカジノ資本主義で、こんなことが長続きするはずがない。

おまけにカジノには必ずマフィアの闇ビジネスが付いて回る。その原理は、金儲けのためなら殺人でも撃ち合いでも誘拐でも汚職でも何でもOKだという刹那主義で、中国がもし米国をしのぐナンバー・ワンの経済超大国として世界の尊敬を集めていこうとするのであれば、こんな恥ずかしいものを周辺国に輸出してはならない。

さらにこれに輪をかけて混乱的なのは、「一帯一路」に軍事的拡張の意図を絡ませるというまことに不謹慎かつ不用意なメッセージである。1月9日にはシハヌークビルの港に初めて、中国海軍の艦船3隻が入港した。かねてから中国はフン・セン政権に対し軍港の提供を求めていると言われていて、米国政府がそれに対して敏感になっていると言われている。

シハヌークビルがすでにほとんど中国人の町になって、昔から住んでいるカンボジア人が暮らしにくくなって引っ越して行くといった事態が生じていて、そこにカジノ産業を下支えする中国マフィアが進出し、海からは軍艦が押し寄せてやりたい放題を演じるというのでは、「一帯一路」の前途は危ない。

中国は文明論に基づいて世界との接し方を考えるのでないと自滅するのではないか。

MAG2

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