「中国が米中覇権戦争に絶対勝てない3つの理由」

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中国が米中覇権戦争に絶対勝てない3つの理由

前回の『トランプの「中国潰し」に世界が巻き添え、貿易戦争は覇権争奪戦だ』では、米中貿易戦争が覇権争奪戦に転化していることを指摘した。米国は、中国のウイグル人迫害を非難し始め、人民解放軍を制裁し、台湾への軍事支援を強化している。中国は、GDPでも軍事費でも世界2位の大国だ。しかし、この「戦争」で米国には勝てないだろう。その理由を3つ挙げる。(国際関係アナリスト 北野幸伯)

<第1の理由>
中国経済が悪化し続けるのは必然だ
米中の覇権争奪戦で中国の勝ち目はない。

米中貿易戦争は、覇権争奪戦争そのもの。しかし、中国はこの戦いで米国に勝利することはないだろう 
 
まず第1に、中国経済が悪化していくのは必然であることが挙げられる。これは、米中貿易戦争が始まらなくても、そうなる方向だった。どういうことか。

中国のGDP成長率を見てみよう。2008年9.6%、2009年9.2%、2010年10.61%、2011年9.5%。この国は、2008年に起きたリーマンショックの影響が皆無であるかのような成長を続けていた。

ところがその後を見ると、2012年7.9%、2013年7.8%、2014年7.3%、2015年6.9%、2016年6.72%、2017年6.86%、2018年6.6%(IMF予測)と、着実に鈍化している。
 
実をいうと、2010年代末に向けて中国経済の成長が鈍化していくことは、大昔から予測できた。たとえば、筆者は2005年に出版した『ボロボロになった覇権国家』127ページに、こう書いた。

<中国は2008・2010年の危機を乗り越え、初めは安くてよい製品を供給する「世界の工場」として、その後は1億3000万人の富裕層を抱える巨大市場として、2020年ぐらいまで成長を続けるでしょう>

2005年の時点で、中国は2008~2010年の危機を乗り越え、成長を続けるが、それも2020年までと予想していた。なぜこのような予測になるのか?

筆者の根拠は、「国家ライフサイクル論」だ。「国家ライフサイクル論」では、国のある体制にも人間の「生老病死」のようなサイクルがあると見る。具体的には、大きく「移行期=混乱期」「成長期」「成熟期」「衰退期」に分けることができる。

まず、前の体制からの「移行期」は、混乱が続いている。しかし、有能なリーダーが出て政治の混乱を終わらせ、かつ正しい経済政策を行うと、「成長期」に突入する。
 
中国は、安い人件費を武器に「安かろう悪かろう」と批判されながらも急成長。しかし、人件費が高くなるにつれて成長率は鈍化する。やがて企業は、より労働力の安い外国に生産拠点を移すようになる。こうして成長期は終わり、低成長の成熟期がやってくるのだ。

中国のライフサイクルは
日本の「30年遅れ」である
 
日本と中国の国家ライフサイクルを比較すると、中国は、日本から約30年遅れていることがわかる。

1950年代、日本、成長期に突入。
1980年代、中国、鄧小平改革で成長期に突入。

1960年代、日本、「安かろう悪かろう」と揶揄されながらも急成長。
1990年代、中国、「安かろう悪かろう」と揶揄されながらも急成長。

1970年代、日本、「世界の工場」になる。
2000年代、中国、「世界の工場」になる。

1980年代、「日本が米国を追い越す」と多くの人が確信。
2010年代、「中国が米国を追い越す」と多くの人が確信。

この「パラレル状態」が続くと仮定すると、2020年代からの中国は以下のようになる。

1990年代、日本、「バブル崩壊」から「暗黒の20年」に突入。
2020年代、中国、「暗黒の20年」に突入?

日本政府が尖閣を国有化した2012年、日中関係は「戦後最悪」になった。それで日本では、生産拠点を中国の他にもつくる「チャイナプラスワン」という考えが一般化した。日中関係の悪化が直接的原因だったが、中国の人件費が高騰し、利益が出にくくなったことが長期的理由だった。
 
外国企業が逃げ出す。これは、国家ライフサイクル論では、まさに「成長期後期」の典型的現象だ。つまり、米中貿易戦争が始まらなくても、中国経済の栄華は終わりつつあったのだ。

結論を書くとこうなる。

国家ライフサイクル通り、中国の経済的繁栄は終わりつつあった。米中貿易戦争は、この繁栄終了のプロセスを加速させるだろう。

<第2の理由>
中国の政治体制の脆弱性
 
第2の理由は、中国の政治体制が脆弱であることだ。ご存じの通り、中国の政治体制は、共産党の一党独裁だ。つまり、民主主義国家にあるような、「選挙による政権交代システム」がない。これは、非常に重大な欠陥だ。

理解しやすいように、米国と比較してみよう。黒人と白人のハーフ・オバマ前大統領の誕生は、まさに「革命」だった。ケニア人を父に持つ男性が、WASP(白人、アングロサクソン、プロテスタント)が支配する国のトップになったのだから。しかも、このプロセスは、選挙を通してあっさり実現した。これが米国の強さであり、安定性である。

日本でも、自民党が増長し悪政を行うようになると、時々政権交代が起こる。しかし、交代は選挙によって行われ、流血の事態は起こらない。これが日本の強さと安定性だ。実際の革命なしで、平和裏に「革命的」なことを起こせる。これが、民主主義国家の強さなのだ。

ところが中国では、そうはいかない。中国人が「政権交代」を望むなら、革命を起こすしか方法がない。

選挙で選ばれたことがない共産党は、これまで2つの「正統性」を確保してきた。1つは、国民党を駆逐して、「中華人民共和国」を建国したこと。2つ目は、奇跡的経済成長を実現したこと。ところが既述のように、中国の経済成長は終わりつつある。それで、共産党が勝手に中国を支配できる「正統性」はなくなりつつあるのだ。

今後、中国経済は必然的に悪化していく。そして、その責任は共産党、特に独裁者・習近平にあると認識されるだろう(中国政府は「貿易戦争を始めた米国が悪い」と国民に説明するだろうが)。

1990年代初めのバブル崩壊後、日本の政界は混乱した。そして1993年、日本新党の細川護熙氏が総理大臣に就任。38年間続いた自民党時代は終焉した。
 
2020年代になると中国の政界も、景気悪化で混乱することになるだろう。選挙による政権交代システムがない中国は、1990年代の日本以上の大混乱に陥る可能性が高い。

<第3の理由>
戦闘なしの戦争で、中国は勝てない
核兵器の登場と拡散で、戦争の形態は変わった。
 
米国と中国は、共に両国を破壊し尽くせる核兵器を保有している。それで両国は、大規模な戦闘が起こせない。結果、戦争の形は大きく変化した。戦闘よりも、情報戦、外交戦、経済戦などが重視されるようになったのだ。
 
情報戦で、中国は米国に勝てない。中国は、民主主義のない一党独裁国家だ。

言論の自由も、信教の自由も、結社の自由もない。ウイグル人を100万人強制収容しているといわれる、人権侵害大国である。こういう国なので、米国が望めば、容易に中国を「悪の帝国」にすることができるだろう。
 
外交戦は、自国の味方を増やし、敵国を孤立させるために行われる。「アメリカファースト」のトランプは、お世辞にも「外交上手」とはいえない。彼の要求が厳しすぎるので、欧州、ロシア、中国がお互いに接近している。
 
トランプの外交は、米国にとっては大きな懸念要因だろう。しかし、中国の景気がますます悪化すれば、人権問題がフォーカスされるようになる。
 
金のある人権侵害国家と付き合いたい国は、たくさんある。中国は、いつでも人権侵害国家だったが、1990年から2000年代の間、日欧米企業は、競ってこの国に進出してきた。
 
しかし、金のない人権侵害国家は「ただの人権侵害国家」だ。結局、世界の国々の大半は、再び米国側につくことになるだろう。

最後に経済戦。現代の戦争では、これがメインだ。ここでも、米国が勝つ可能性が高い。

米国は、年間5000億ドル強を、中国から輸入している。一方、中国は、米国から年間1300億ドルしか輸入していない。貿易戦争によって、お互いの全製品に関税をかけたとすると、中国が受ける打撃は、米国が受ける被害の3.8倍になる。

以上を簡潔にまとめてみよう。

・中国経済は、米中貿易戦争がなくても悪化していくトレンドである
・中国経済は、米中貿易戦争で悪化のスピードが加速する
・不況で、中国の政治は不安定化する
・民主的政権交代システムがない中国では、クーデター、革命が起こりやすくなる
・核大国である米中の「戦争」は、情報戦、外交戦、経済戦がメインになるが、中国は米国に勝てない

日本が注意すべき
2つのこと
 
米中貿易戦争が、覇権争奪戦に転化する中、日本はどう動くべきなのだろうか?注意すべき点は2つだ。

まずは、「孤立しないこと」。1937年に日中戦争が始まったとき、中国は、米国、英国、ソ連から支援を受けていた。この戦争は事実上、日本vs米英中ソの戦いだった。日本が負けるのは当然だ。

あれから80年の時が過ぎ、日本は現状、孤立していない。しかし、中国は常に日本を孤立させようとしているので、決して安心はできない。

日本は、中国の罠にはまって孤立しないよう、常に慎重に行動しなければならない。
 
もう1つは、軍事同盟国・米国との関係を最優先にし、中国に接近しすぎないこと。第2次大戦時、日本最大の失敗は、ナチスドイツと軍事同盟を結んだことだった。「負ける国の同盟国になったこと」が致命的ミスだったのだ。

今の日本政府はそんなバカなことはしないと思う人が多いかもしれない。しかし、米中覇権争奪戦が始まった途端に、日中関係が大きく改善された。

日本は、第2次大戦時のようにフラフラし、米中の間を揺れているようにも見えるのだ(安倍首相は、習近平との会談後、すぐにインドのモディ首相を別荘に招くなどして、バランスをとっているようだが)。

日本政府は、愚かにも「負ける国の側についた」第2次大戦から教訓を得て、今度は「勝つ国」の側にいなければならない。

そして、「勝つ国」は、またもや米国なのだ。

DIAMOND

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