2018年11月1日よりタイトルをWCA(世界の時事)に変更しました。
「インドの食料事情改善に日本の技術 」
インドの食料事情改善に日本の技術
インドで食料事情の改善に向けた日印協力が広がっている。虫食いや病害、コールドチェーン(低温輸送網)の不備による農作物の廃棄が大きな問題となる中、日本の技術や知恵を採り入れる動きが相次ぐ。日本企業にとって商機であるだけでなく、インドの農家の収入向上などに貢献しそうだ。
■野菜洗浄剤に30分
ムンバイ市内の飲食店で働くビクラム・コトリさんは店でも自宅でも、野菜を料理に使う前に専用洗剤で洗う。「野菜に虫がいたり、細菌や寄生虫が付着していたりするといけないからね」。野菜洗浄剤を混ぜた水に野菜を30分ほど浸すという。「インド料理は加熱するレシピが多いから水洗いで済ますけど、サラダとか生野菜を使う場合は念入りに洗うんだ」
インドでは虫食いや病害で農作物の生産高の4割近くが廃棄に回るとされる(南部カルナタカ州)
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インドでは虫食いや病害で農作物の生産高の4割近くが廃棄に回るとされる(南部カルナタカ州)
インドでは虫食いや病気による農作物の被害が多い。農機や農業関連事業を手がけるインド財閥マヒンドラグループによると、同国では害虫や病気によって農産物の生産高の4割近くが損なわれる。優れた農薬の不足と不適切な農薬利用が一因とマヒンドラはみる。
そこで同社は2018年10月、住友商事と組んだ。傘下のマヒンドラ・アグリ・ソリューションズの農薬輸入販売事業を切り出して新会社をつくり、新会社は住友商事の出資を受け入れた。マヒンドラ・アグリ・ソリューションズのアショック・シャルマ社長兼最高経営責任者(CEO)は「住友商事と組むことで優れた農薬をインドで販売でき、農作物の被害を劇的に減らせるだろう」と期待する。
住友商事は日本の農薬メーカーをはじめ幅広い製品を扱う。日本は農薬の開発力が世界でもトップ級。住商によると09~18年に世界で開発された農薬の新製品(60品)のうち、日本発は30品と半分を占めた。
■意外と少ない農薬使用量
インドでは農産物に大量の農薬が使われていると思われがちだが、実態は異なる。国連食糧農業機関(FAO)のデータでは、2016年の国別の農薬の使用量でインドは5万410トンと世界12位。1位の中国の35分の1、2位の米国の8分の1だ。
農地面積は日本の37倍にもかかわらず、農薬の使用量は日本(5万1006トン、10位)より少ない。残留農薬の問題もあり、農薬の使用に不安を持つ消費者もいるが、適切な使用が広がれば害虫や病害による食料の廃棄ロスを減らせるだろう。
収穫後のロスを防ぐ取り組みも動き出している。
1月21日、バングラデシュとの国境に近い東部シングール(西ベンガル州)で農産品の保存倉庫の完成式が開かれた。庫内の温度と湿度を一定の範囲に保つ定温倉庫で、太陽光発電パネルと蓄電池を活用し、電力供給が不安定な農村でも24時間安定的に稼働できる。
国際協力機構(JICA)が支援するプロジェクトで、西ベンガル州政府の協力のもと物流会社の川崎陸送(東京・港)のノウハウを生かして建設した。インドでは収穫後の温度管理が十分できておらず、傷んで売れなくなる農産物が大量に発生している。これを改善するため、収穫した農産物は定温倉庫に持ち込み、出荷まで保管する。作物の検品や選別作業、加工なども倉庫内で行う。廃棄ロスを減らすほか、鮮度を保って付加価値を高め、農家の所得向上を後押しする。
9月まで実証実験を行い、廃棄ロスの削減や作物の販売価格、農家の収入などの変化を調べる。川崎陸送はうまくいけば将来、同様の倉庫をインドに100棟建てる計画だ。農家が作物を持ち込みやすい場所に同様の倉庫が普及すれば、コールドチェーンの構築につながる。
これらのほか、西部マハラシュトラ州では農機大手クボタの指導でサトウキビの収穫量が増えた。サトウキビの苗を植え付ける際に、苗と苗の間を従来より広くするよう教えたという。
自動車などの工業やIT(情報技術)が注目されがちなインドだが、農業や食品といった人々の暮らしに不可欠な分野にこそ日本の技術と知恵を生かせる課題が隠れているように思えてならない。
日経