「裁判官が内部告発」

画像の説明

中国最高裁、消えた裁判記録 裁判官が内部告発、炭鉱開発めぐる訴訟

記録がなくなった経緯を説明する王林清裁判官=中国メディアのサイトから

中国の最高裁にあたる最高人民法院で民事裁判の記録が消え、担当裁判官が上司の介入を告発した――。いったい何が起きたのか。前代未聞のスキャンダルは、トップの院長や党上層部の関与まで疑われる事態になっている。

「最高法院には泥棒がいるのか?」

元国営テレビの人気司会者、崔永元氏がログイン前の続き昨年末にSNSでつぶやいた一言が発端だった。陝西省の炭鉱開発権をめぐり、最高法院で争われた訴訟の記録が審理中になくなっていたと指摘。瞬く間に広まった。

崔氏は2千万人近いフォロワー(読者)を持つ。昨年、俳優范冰冰(ファンビンビン)さんの脱税疑惑を暴露したことでも知られ、内部告発者の「駆け込み寺」になっている。

裁判は2017年末に終わっていた。最高法院はメディアを通じ「記録は全て保管されている」と否定したが、崔氏が暴露を続けるのに耐えきれなかったか、2日後に「調査を開始する」と前言を翻した。

さらに世間を驚かせたのは、最高法院で訴訟を担当した王林清裁判官の自撮り動画がネットに流れたことだ。16年11月に記録がなくなった時の状況を語り、上司にすぐ報告したこと、監視カメラを調べるよう求めたが2台とも壊れていたと言われたことなどを説明した。王裁判官自身も崔氏と連絡をとっていた。

1月8日、共産党中央政法委員会の指揮で、国家監察委員会、最高人民検察院(最高検)、公安省の合同チームが調査に乗り出した。消えた記録には、法院の上司の指示や関係当局の意見が書かれた部分があり、意図的に持ち出された可能性が指摘されている。

王裁判官は「上司から差し戻しを指示されたとき、周強院長の意向だと言われた」とも証言。崔氏も、15年に汚職で失脚した副院長が「周強院長の指示に基づき、この件は保秘を徹底する」と書き込んだ、とする記録を公表した。裁判への干渉が疑われる事態になり、ネット上では周院長更迭の情報が飛び交う。

中国では司法への政治の介入が問題となってきた。習近平(シーチンピン)政権は司法の独立を「西側の誤った思想」と拒むものの、司法への信頼確保のため「依法治国」(法に基づく統治)を掲げ、「人民が公平と正義を感じられるよう努力する」とアピールしてきた。

そこへ、最高法院をめぐる疑惑が持ち上がった。最高法院の裁判官ですら法に頼れず、内部告発せざるを得なかった。ネット上では「これが現実だ」と絶望感が広がっている。

党関係者は「見つかれば大騒ぎになることを最高法院トップが簡単にやるとは思えない。更に上のレベルの介入を隠すなど別の目的があったのでは」とみる。

周院長は、習氏らから「エリート化」を批判された共産主義青年団(共青団)のトップ経験者でありながら要職に残る数少ない幹部の一人。スキャンダルを利用した「共青団たたき」との見方もある。

■巨大利権からみ、判決が二転三転

巨額の利権が絡む裁判は判決が二転三転した。二つの企業が争った構図から、それぞれの後ろ盾となった高官の政治闘争が絡んでいるとの見方がある。

舞台は産炭地として知られる陝西省・楡林。中国メディアの報道によると、地元民間企業が2003年8月、新たな鉱脈の開発権を得て、費用や利益を8対2で分け合う内容で省政府系企業と契約した。その後、埋蔵量は推定20億トンと判明。当時は石炭が高価で、6兆円を超す計算だった。

ところが省政府は同年10月、炭鉱開発権は政府が決めると新たに規定。政府系企業は06年4月、別の香港企業と改めて契約し、「03年時点では契約は成立していなかった」と主張した。

納得できない地元企業は翌月、契約違反を主張して提訴し、一審で勝訴。だが二審の最高法院は09年、審理不十分として差し戻した。2度目の一審で地元企業が逆転敗訴。さらに警察が地元企業の経営者を虚偽登記の容疑で逮捕した。その後、無罪となった経営者が改めて上訴し、結局、17年12月に地元企業が最高法院で勝訴した。

差し戻し前の08年に最高法院の副院長が省政府の高官を呼んで協議し、省政府が最高法院に意見書を送っていた疑惑も浮上。意見書には「一審判決を維持すれば重大な結果を招く」と書かれ、省政府が最高法院に圧力をかけたと疑われた。

後から開発権を得た香港企業の経営者は省政府で事務員として働いた経歴を持つ。父も当時の夫も地元の党幹部だったとされ、香港で築いた財力や高官との関係を利用したとの見方もある。ただ、地方政府が最高法院を従わせるのは容易ではなく、中央の高官の関与もささやかれている。

裁判が続いた時期に省長などを務めていた趙正永氏について15日、「重大な規律違反の疑いで調査している」ことが発表された。事件との関連は不明だ。

■王林清裁判官が動画で語った内容

・「動画の目的は、自分を守り、受け入れがたいことを避けるために、一定の証拠を残しておくことだ」

・「記録がなくなったのに気づいてすぐ上司に報告したが、上司はとても落ち着いた様子だった」

・「部屋の外にある2台の監視カメラについて上司は『2台とも壊れていた』と説明した。おかしいと思った」

・「16年5月、上司から『周強院長の指示でこの裁判は差し戻すことになった』と言われたが、差し戻しは1回しかできない民事訴訟法の規定に反するので反対した」

・「差し戻しの指示は撤回されたが、両方の契約を解除しろという新たな指示が出た。双方が主張していないのに裁判所が勝手に解除できないと反対した」

コメント


認証コード5512

コメントは管理者の承認後に表示されます。