英国「合意なき離脱」ショック、金融危機を超えるか

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合意なき離脱ショック

1月16日、英国が欧州連合(EU)を離脱する期限まで残り10週間となったが、いまだに事態を打開する道筋は見えておらず、英国経済へのショックを和らげるための移行期間が確保できない可能性が高まっている。

英国が欧州連合(EU)を離脱する期限まで残り10週間となったが、いまだに事態を打開する道筋は見えておらず、英国経済へのショックを和らげるための移行期間が確保できない可能性が高まっている。

メイ英首相がEUと合意したEU離脱(ブレグジット)協定案について、与党・保守党議員の多くが反対に回る中で、英下院は15日、賛成202票、反対432票の歴史的大差で同案を否決した。

これによりさらに現実味を増す英国の「合意なき離脱」は、経済に一体どのような影響を与えるのだろうか。項目別にまとめた。

●英国経済

イングランド銀行(英中銀)はブレグジットの経済影響について、最悪の場合、英国経済が1年以内に8%縮小する可能性があり、その影響は2008─09年の世界金融危機を上回ると試算している。

そこまでひどくない、通関や規制障壁が残る「合意なきブレグジット」の場合、英国内総生産(GDP)が3%縮小すると見込んでいる。

英中銀はまた、英国の大規模な経常赤字が抱えるリスクも指摘。大半が投機的資産に向けられた海外マネーによるもので、英経済に「ブレグジットショック」が発生した場合、これらが枯渇する可能性がある。

製造会社は支障が出ることを危惧

●貿易

少なくとも短期的には、貿易障壁が高くなることで、英国、EU双方の企業が打撃を受ける。

英国の輸出企業はEUの輸入関税に直面する。関税率は平均5%だが、同国の主力輸出品については、自動車に10%が課せられるなど、さらに高くなる。英国の自動車産業は約80万人を雇用している。

製造企業は、通関手続の遅れによって自らの「ジャストインタイム」製造方式に支障が出ることを危惧している。

だが離脱賛成派は、テクノロジーの活用により通関手続の遅れは緩和されると予想。将来的に英国がEUとの自由貿易協定を実現すれば、輸出も自由に行えるようになると主張している。

また同賛成派は、EUとの緊密な関係を続けるよりも、米国やインド、中国といった、より成長率の高い国々と貿易する方が英国にとって利益になるとも主張している。ただし、英国財政を予測する担当者は、こうした諸国との2国間貿易による恩恵は小さなものに留まる可能性が高いとされている。

●港湾と備蓄

イギリス海峡の港湾や空港で渋滞が発生した場合の対策として、政府は、高速道路沿いに大型トラック駐車場を建設中であるほか、イングランド南部の空港を使う計画だ。

英ドーバーとフォークストーンの車両1台当たりのチェックに要する時間が2分余分にかかる場合、M20高速道路とA20幹線道路に46キロの交通渋滞が発生すると英インペリアル・カレッジの研究者は試算している。

多くの製造企業は、通関手続が遅れた場合でも製造ラインを稼働させ続けるため、部品の備蓄を進めている。英国政府は製薬企業に対し、薬剤の備蓄を通常より6週間分積み増しするよう要請している。

離脱賛成派は、こうした懸念は行き過ぎだと主張。「合意なき離脱」の場合もトラック運行に支障は生じないと述べた仏カレー港湾当局者のコメントを指摘している。0

フランス当局は、追加的に数百の通関担当者を雇い、通関施設を増設する計画を明らかにしている。

●財政とイングランド銀行

ハモンド英財務相は、ブレグジットが経済的なショックを与える場合に備えて財政支出を拡大すべく、財政上の予備費を積み上げてきた。

しかし同時に、長期的には、合意なきブレグジットという事態に陥るとすれば、緊縮財政を終らせるという自身の公約を考え直すことになる、と同財務相は警告している。

離脱賛成派は、プラスになるはずだと主張

離脱賛成派は、合意なき離脱は、EU予算に対する英国政府からの資金拠出がただちに終了することを意味しており、公共財政にとってプラスになるはずだと主張している。

英中銀は投資家に対し、合意なき離脱ショックが生じた場合でも、中銀が直ちに救済に動き、金利を下げるとは期待しないよう警告している。英ポンド下落によって、同国のインフレ率が押し上げられ、利下げの障害となる可能性がある。

●英ポンド

経済に打撃を与える可能性が高いことを考慮すれば、合意なき離脱は、恐らくポンド売りの引き金となるだろう。ポンドの対ドル相場は2016年にEU離脱を決めた英国民投票以来、約13%下げているが、この幅がさらに拡大することになる。

英中銀による「最悪の離脱シナリオ」では、ポンドは25%下落して米ドルと等価になると試算されている。

●英国株価

ポンド安になれば、世界で事業展開する英最大手企業の多くにとって、株価が上昇する可能性がある。FTSE100種株価指数の構成銘柄であるブリティッシュ・アメリカン・タバコ<BATS.L>やグラクソ・スミスクライン(GSK)<GSK.L>など、収益の7割を海外で稼いでいる企業がそれに含まれる。

だが、より国内市場に注力して、収益の半分を自国に依存するFTSE250種株価指数に含まれる企業は打撃を受ける可能性がある。

●債券

合意なき離脱による経済ショックが生じた場合、通常であれば、投資家は英国債という安全資産に流れるはずだ。

だが、合意なき離脱はメイ首相にも大きな打撃を与え、新たに総選挙が行われる可能性がある。

党勢を回復している左派・労働党は、公共投資の大幅増を公約しており、一部の投資家を動揺させることだろう。

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