「迫る銀行廃業時代 」

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スルガ銀救った「預金支援」 迫る銀行廃業時代
地銀波乱(1)

「スルガ銀行に預金してくれないか。500億円は欲しい」。2018年秋、地方銀行を所管する金融庁の銀行第2課は主な地銀に預金協力を打診した。ある地銀幹部は「20年前の奉加帳方式が復活したのか」と驚いた。

会社員らを対象にした投資用不動産向け融資を拡大し、高収益を誇ったスルガ銀行。弁護士らでつくる第三者委員会は18年9月7日に投資用不動産への融資に絡んで、組織的な審査書類の改ざんなど不正融資の実態を公表した。

この前後から預金流出が加速。「このまま預金が減れば危険水準に陥る」。スルガ銀行首脳は危機感を募らせていた。18年4~9月期に減った預金は6737億円で、全預金の16%。預金のほとんどを融資に回し、換金可能な有価証券は手元にわずか。特異な事業構造も災いした。

「スルガ銀行の自業自得だ」。金融庁内には資金繰り破綻はやむを得ないとの強硬論もあった。だが、資金規模が3兆円を超える大きな地銀が破綻すれば、中小の地銀への連鎖は避けられない。「新体制で再生するまで信用を補完した」と金融庁関係者。日銀も資金供給を準備し、スルガ危機の封じ込めに動いた。

地銀の優等生とされたスルガ銀行でさえ、不正融資で経営の屋台骨が揺らげば資金繰りに窮した。経営難に陥るリスクを抱えている地銀は少なくない。

貸出金利と金融商品の販売手数料から営業経費を引いた本業損益で、5期以上も赤字を解消できない地銀は全106行のうち23行ある。その数は毎年2~3割増えている。有望な企業が地方に少ないうえに、マイナス金利で収益の源泉である貸出金の利ザヤが縮小していることが底流にある。

有価証券運用が失敗したり、想定外の不良債権を抱えたりすれば健全性を示す自己資本比率が規制水準の4%を下回る銀行はいくつも存在している。

地銀が張り巡らす店舗網は全国で約1万。大手銀行の4倍だ。行員は1.8倍。にもかかわらず預金量は大手の8割にすぎない。人口減で縮む国内市場に多くの銀行がひしめく構造はもはや持続性に欠ける。

「廃業という選択肢もある」。金融庁内で苦肉の策として模索されているのは、危機的な状態になる前に経営をたたむ銀行の自主廃業案だ。銀行法は廃業命令や、その一歩手前の上場廃止命令を規定していない。中小の地銀が経営難に陥れば、預金はあっという間に流出する。近未来の銀行廃業時代を見据え、危機対応の聖域なき議論が進む。

政府は1990年代後半の金融危機を潤沢な公的資金と思い切った不良債権処理で克服した。だが、地銀には大手銀行のような厳しい経営改革を求めなかった。そのツケが重くなっている。金融庁は「経営責任で考えろと言うだけでなく、当事者意識を持って考えていく」(遠藤俊英長官)と警戒モードに入った。

地銀を中心とした地域の金融システムに波乱の予兆が漂い始めてきた。19年は水面下に隠れてきた問題が表に出てくる可能性も高い。現場で何が起きているのか、これから何が起きるのかを描く。

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