「「中華復興」はまたも悲劇で終わるのか」

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中国の嘘がバレた2018年。「中華復興」はまたも悲劇で終わるのか

2018年の中国事情を「中国の嘘がばれた1年」だったと総括するのは、メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』の著者で台湾出身の評論家・黄文雄さん。黄さんは昨年末のメルマガで、「中華復興」がことごとく失敗に終わった歴史から中国の本質を指摘し、その本質ゆえにアメリカから貿易戦争を仕掛けられたと解説しています。窮地に陥いる中国の2019年はどうなっていくのでしょうか?

次々と明るみに出た中国の野心

2018年の中国事情を総括すると、「中国の嘘」がばれた1年だったと言えるでしょう。

これまで、中国は外貨準備高世界一という説がありましたが、これは海外からの外貨の借金によって支えられていることが明らかになっています。中国では私企業でも債務借入金が3兆ドル以上あり、しかも実数は「天文学的数字」とされています。中国が債務国なのは間違いありません。

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「一帯一路」も大風呂敷を広げて発表しましたが、各地で資金不足や現地住民の反対によって頓挫しているプロジェクトも多く、加えて、他国を借金漬けにして支配するという新植民地主義の狙いがあることがバレてしまい、パキスタンやミャンマーといった友邦からでさえ敬遠されるようになっています。そのことは、このメルマガでお伝えしてきました。

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今年4月には、北京に駐在するEU28カ国の大使のうち、27人が連名で一帯一路を「中国政府による補助金を受けた中国企業だけが利益を独占するシステムだ」と批判、ユーラシア大陸全域の投資政策再構築を迫られています。

● EU27カ国の大使、中国主導の経済圏構想「一帯一路」に連名で反対―米華字メディア

海洋進出への意欲もますます露骨になってきており、2016年にオランダ・ハーグの国際仲裁裁判所から「中国の南シナ海の領有権主張は根拠なし」と宣告されたにもかかわらず、南シナ海の軍事基地化が進み、今年には人工島に街まで作られていることが明らかになりました。

● 焦点:南シナ海人工島に中国の「街」、軍事拠点化へ整備着々

南洋のパラオなどは、台湾との国交があるということで、中国から断交を迫られ、それを断ると中国政府は自国民に対してパラオ観光禁止令を出し、中国企業を撤退させました。

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独裁体制確立で中国の狙いが露わに

明らかに恫喝外交であり、勢力圏を南洋まで広げることで太平洋を二分する野心をむき出しにしています。もちろん東シナ海の尖閣諸島をめぐる実効支配の強化にも余念がありません。2018年上半期において、自衛隊の中国機に対するスクランブル出動は、過去2番目の多さでした。中国に太平洋を二分するまでの実力があるかどうかは別にして、中国のこうした動きが各国の警戒心を高めるのは当然です。

中国の対外的な野心については、これまでも学者を含めてさまざまな警告がなされてきましたが、それが現実のものとして世界に認知され、その対策が本格的に始まったのが2018年でした。

アメリカの中国に対する貿易戦争もそうですし、各国でファーウェイやZTEといった中国の通信会社排除の動きが今年後半から加速していることもその現れです。

一方、中国国内では、3月の全人代で国家主席の任期10年という規定が廃止され、事実上、習近平は終身まで国家主席の座に居座り続けることが可能となりました。習近平の独裁体制が整ったのも2018年でした。しかもこの習近平への権力集中は全会一致の賛成によって成立しました。つまり、習近平への反対勢力は意外にも弱かったというのが実情です。

とはいえ、世界第二位の経済大国となった中国が、毛沢東時代へ回帰するかのように、1人の権力者の終身独裁体制へと向かう姿は、世界からも異様なものとして受け止められました。

習近平の独裁強化と、軍事的覇権強化、そして経済による新植民地主義というものは、すべてつながっているものです。もともと習近平は「中華民族の偉大な復興」というスローガンを掲げ、さらには「中国製造2025」という目標を打ち出して世界の製造業強国になることを宣言しています。

表面上、中国は国際協調や自由貿易を謳っていますが、上記の宣言のいずれもが、他国から領土、領海を奪い、技術や知的財産を奪うことを前提にしたものです。

軍事的にも領土的にも経済的にも、すべて中国が奪い尽くそうというのが中国の狙いであり、習近平の独裁体制確立によってそれが露骨に現れてきたことで、各国がようやく中国の嘘に気づき、警戒するようになったのが今年だったということでしょう。

嘘が国風。荒唐無稽な中国的数字

日本でも、かつてに比べて中国情報がだいぶ報じられるようになりました。それにより、習近平の野心や中国の危うさに気づく日本人が増えてきたと思います。安倍政権への支持率の高さや、憲法改正肯定派が増えていることからも明らかでしょう。それは、日本の言論人や学者をはじめ、日本のマスメディアは中国に注目しすぎており、中国の一挙手一投足を報じすぎるからだと私は思っています。

そもそも中国は、嘘が国風となっている国です。嘘によって成り立ち、嘘によって国が滅んできたといっても過言ではありません。「大躍進」で中国が沸いた1960年初期、実際には数千万人が餓死するという惨状でしたが、中国の指導者や日本のマスメディアは「中国の奇跡」だと本気で信じていました。

大躍進政策は、毛沢東が「数年以内にアメリカ、イギリスを追い抜く」と宣言して旗を振った、農業と工業の大増産計画です。この毛沢東の指示により、当時、各地で農業や工業における「素晴らしい成果」が次々と報告されました。各地方政府が競うように収穫量や鉄鋼生産量の飛躍的増産成功を報告し、一時は、中国の鉄鋼生産量がそれまでの1年分をたった1日で成し遂げたという「大成果」まで謳われました。

言うまでもなく、これらは毛沢東の覚えめでたくなるための虚偽の水増し報告の結果です。ところが増産報告をすれば、それだけ税として中央政府に収める生産物も増大します。そのため、村人の食料として必要な分までも政府に収めなくてはならなくなり、それに加えて地力を無視した過密な栽培を行ったことで凶作も相次ぎ、その結果、全国で5000万人とも7000万人ともいわれる餓死者が発生してしまったのです。

世の中にそんな無茶な「奇跡」があるはずがないことは、誰でもわかることですが、中華思想の中にあっては、それさえもが本当のことのように思われてしまったのです。

同様のことは、現在も続いています。改革開放後、中国のGDP成長は以前の約100倍とも200倍とも言われましたが、中国のGDPの数字がいい加減であることはよく知られています。2017年のGDPは、地方政府の合算が中央政府発表額より52兆円も超過していました。いつもながら水増し疑惑が囁かれ、信憑性がまったくありません。

● 17年中国GDP、地方合算が中央発表を52兆円超過 “水増し”鮮明、信憑性にも疑念

「中国的数字」はこのように荒唐無稽なのです。そもそも国家の基本的な数字となる人口でさえ、国務院は把握していません。政府が発表する数字もその都度、部署によっても違っており、2~3億人ほどの違いが生じることもあります。

この人口数の誤差は、清朝時代からすでに見られるものであり、決して最近始まったことではありません。事実関係の把握をせずに、結論ありきの理想数字を打ち出してばかりいるため、現実からどんどん乖離していってしまうわけです。

「中華復興」を掲げた2王朝の末路

チャイナドリームは白昼夢か

習近平は総書記・国家主席の就任直後、「中華民族の偉大なる復興」「中国の夢」をさかんに連呼していました。もちろん「中華復興」は決して習近平だけの夢ではありません。1990年代初頭、当時の江沢民主席は早くから「世界革命、人類解放、国家死滅」のスローガンを「愛国主義、民族主義、中華振興」の3点セットに置き換えて、新しいチャイナドリームとしていました。

中国史上、「中華復活」をめざす王朝は2つありました。宋と明です。しかし、「中華復活」はほとんどが悲劇で終わってしまうというのが定説です。宋は皇帝の独裁体制を確立した王朝です。科挙による官吏登用を導入し、皇帝が官僚を試験で採用することにより、皇帝だけが君臨し、他はみんな平民であるという「一君万民」体制になったわけです。

宋以前は貴族社会でした。とくに唐は貴族社会の代表的な王朝であり、中書、門下、尚書、三省は、今の三権分立に近いものでした。近代国民国家の元祖であるイギリスに近い考え方です。しかし宋は、科挙の全面施行により貴族と軍人が没落してからは、「独裁専制」政治を確立し、「中華復興」を目指したのです。しかし王朝内は王安石の新法に反対する旧法党との権力争いで混乱し、女真族の金に圧迫されて都を捨て南宋時代へと移ったが、やはり内部の権力闘争で王朝が荒廃し、やがて元に滅ぼされました。

明は「大明」と号していましたが、厳しい鎖国制度である陸禁・海禁を敷き、そのことで辺境貿易を妨げられた異民族の侵略(北虜南倭)を招き、また、明朝政府は民衆に対して重税を課し、皇帝側近として仕える宦官が政治を壟断、腐敗政治が蔓延したことから、実は中国史上最も暗黒の時代としても知られています。

明はあまりの苛政と腐敗により立ち上がった李自成を首魁とする農民蜂起軍によって滅ぼされました。こうして宋や明による「中華復活」は、悲劇として幕を閉じました。それが中国の宿命であり、歴史なのです。

「中華復興」が悲劇で終わる理由

なぜ「中華復興」を目指すと必ず悲劇に見舞われるのか。それは、中華の精神史を見ると一目瞭然です。「魅力あるソフトウエアがなかった」という一言に尽きます。

「春秋戦国時代」は「百家争鳴」の時代であり、「諸子百家」の思想もありました。しかし、それらは単に「目的のための方法論」にすぎませんでした。または、政治のハウツーを論じただけです。儒教にしろ朱子学にしろ、尚古主義で古えの形式ばかりにこだわるために、本質が伴わないのです。

したがって、中華文化は中身のない張子の虎のようなものであり、その文化風土で育ってきた人々は案山子のように魂のない人々になってしまうのです。そこが、中華文化とキリスト世界の西洋、イスラム世界の中東、仏教世界のインドなどと大きく異なる点です。

行動規範としての宗教もなく、きわめて世俗的な中華文化や中華民族には、漢王朝の武帝時代のような「独尊」、つまり強制がふさわしいのです。宋王朝は独裁体制を確立し、明王朝では社会の隅々まで特務やスパイによって監視され、人権などほとんどありませんでした。

習近平時代には、「中華民族の偉大なる復興」を叫びながら、チベット人、ウイグル人、モンゴル人などをすべて中華という牢屋の中に閉じ込めて、幻の中華民族を創出しています。

強制でしか人民を統制できないとなれば、ことあるごとに強制の強化は避けられません。そうなると、必ずどこかで歪みや反発が起こり、天下大乱が避けられなくなります。これは中華社会の宿命なのです。

アメリカに「兵糧攻め」される中国

しかしトランプ大統領は国家による補助金を受けて国際的競争力を高めている中国国営企業の貿易や企業買収を不公正だとし、アメリカへの輸入産品に次々と報復関税をかけ、中国に対して貿易戦争を仕掛けました。もともと暴言や突然の方針転換などが話題になっていたトランプ大統領ですから、対中強硬姿勢もトランプ大統領個人の性格によるもので、交渉を有利に進めるためのポーズだと考える日本の知識人も少なくありませんでした。

しかし、今年10月4日に、ペンス副大統領がワシントンで講演し、中国に対しては経済に限らず安全保障分野でも断固として対抗措置を取ると発言したことで、日本の言論人や学者もようやく、アメリカの本気度を理解したのです。

ペンス副大統領の演説後、やっと、米中貿易経済戦争の本質を知りたがる日本の言論人や学者が増えたことに、私は驚きを隠せませんでした。アメリカの台湾に対する姿勢を見て、私はアメリカの本気度を知っていたからです。

アメリカは、中国の弱みを最も多く握っている国です。アメリカは中国最大の輸出国です。そのアメリカに制裁関税をかけられ、「兵糧攻め」されている状態です。中国は報復としてアメリカからの輸入品に関税を課しましたが、中国は大豆の輸入をアメリカに頼っているため、この値段が上がれば、家畜飼料の高騰、さらには家畜肉の高騰を招き、食料価格が上昇していくことになります。

すでに9月ごろから、中国では豚肉が値上がりし始めています。しかも、豚コレラの流行も価格高騰に追い打ちをかけています。中国人にとって豚肉はなくてはならない食材ですから、この状態が長く続けば、人民の不満が高まっていくでしょう。

● 中国、貿易摩擦で豚肉が値上がり

米中貿易経済戦争の本質とは?

2019年の相場のキーワードは「基準喪失」だと見ています。為替・株式・仮想通貨の3分野について、今年の見通しとトレードにあたっての注意をお伝えします。

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