2018年11月1日よりタイトルをWCA(世界の時事)に変更しました。
「第2のハイテクバブル崩壊」が近づいている?
「第2のハイテクバブル崩壊」が近づいている? 「アップルショック」は何を告げているのか
2019年が始まった。相場格言では今年は「亥固まる」。ところが亥年の年初は、世界同時株安で始まった。為替も一時は1ドル=104円台をつけるという波乱の展開である。1月4日に大発会を迎えた東京証券取引所も下げて、日経平均株価は452円81銭安の1万9561円96銭と2万円台を大きく割り込んだ。
4日のNYダウは一転大幅高となったが、ジェローム・パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が世界景気を不安視する市場に配慮した発言をしたことが大きい。
問題だったティム・クックCEOの「2つの言い訳」
同時株安の発端は、1月2日にアップル社のティム・クックCEOが株主宛に送った書簡にある。同社のプレスリリースにも出ているから、こういうときは原典に当たってみるのが確実だ 。昨年10-12月期の売り上げが、2カ月前の見通しの「890〜930億ドル」から840億ドル程度になりそうだと下方修正を伝えている。それだけなら大事件ではないように思えるが、問題はクックCEOの「言い訳」の中身にあった。
ひとつは中国市場の弱さで、「中華圏」(The Greater China=アップル社は中国に台湾と香港を加えてこういう呼び方をしている)の落ち込みが、そのまま会社全体の収入減になると伝えている。
これを聞くと「やっぱりね」であって、中国経済の減速は予想以上に深刻なようだ。2019年は案の定、世界的な景気後退への警戒が必要だということになる。
もうひとつはiPhoneの需要が弱含んでいることで、それはドル高や競争激化、さらには消費者行動の変化(例えば新機種に買い替える代わりに、バッテリーを交換するようになった)などを指摘している。要はスマートフォン市場も成熟化してきた、ということに尽きる。なにしろiPhoneが初登場したのは、ひと回り前の亥年の2007年のこと。アップル社の「画期的な新製品」も、だんだんネタが尽きてきたように見える。
もう少し大袈裟に言わせてもらうと、これはアップル社に先導されてきたハイテクブームに対する「頂門の一針」(急所をついた厳しい戒め)なのではないか。
アップルは現在、時価総額で世界最大の企業であり、”GAFA”と呼ばれる「プラットフォーマー」企業の代表格だ。しかしなぜそんな大成功を収めることができたかと言えば、「アメリカで設計し、中国で製造して、全世界で販売する」という「いいところ取り」ができたからだ。
アップル社はいわばグローバリズムの申し子的存在であった。さらに言えば日本の電子部品メーカーも、部品供給という形でその恩恵に浴してきたことは言うまでもない。
しかるに昨年後半からの「米中新冷戦」の流れは、この流れを断ち切ってしまいそうだ。昨年末には、米議会で「アジア再保証イニシアティブ法」(Asia Reassurance Initiative Act of 2018)が、上院は全会一致、下院も大多数の支持を得て成立した。
これは中国の影響力拡大に対抗すべく、アメリカがインド太平洋地域への関与を強め、日本など同盟国との関係を強化し、各国の防衛力整備を支援していくことを定めたもの。
具体的な項目の中には、台湾に対する武器売却も入っているから半端な内容ではない。ドナルド・トランプ大統領に対し、議会が超党派で「中国とのディールは軽々にはならぬぞよ」と釘を刺したと解するべきだろう。
米中の経済面での協力がいよいよ望み薄に
逆に中国の習近平国家主席は1月2日、台湾に向けて重要演説を行い、「祖国統一は必須であり必然だ」と、「一国二制度」の具体化に向けた政治対話を迫っている。外部勢力の干渉や台湾独立分子に対しては、「武力行使を決して放棄しない」とも語った。
こんな風に言われれば、昨年11月の統一地方選挙で大敗した民進党の蔡英文総統も息を吹き返してくる。アメリカとしても、台湾支援を強めることになるだろう。2020年の次の総統選に向けて、米中が台湾への影響力を行使し合うことになるのではないか。
安全保障面で米中がかくもガチンコ対決になると、経済面での協力も望み薄になってしまう。米中は週明け1月7日から北京で通商協議を行う予定だが、3月1日の期限までに合意に達することができるだろうか。
こんな風になってしまうと、「高品質な製品を廉価に製造できる」というグローバリズムの時代が過去のものに思えてくる。アップル社のビジネスモデルは、根本から見直されることになるだろう。時価総額で世界最上位を独占していたGAFAも、その株価の一定部分はバブルだったということになるのではないか。
今回の「アップルショック」は、2000年のハイテクバブル崩壊の再来なのかもしれない。
思うにわれわれが知る「IT革命」には、20世紀版と21世紀版があった。
20世紀版のIT革命は、パソコンや携帯電話といったハードウェア中心に進んだ。1990年代後半に電子メールやホームページ、エクセルや「パワポ」などが短期間に普及し、「ウィンテル」と呼ばれるマイクロソフトやインテルが持て囃された。この時期は日本企業もまだ元気で、ソニーや任天堂は十分に「勝ち組」に属していたと言っていいだろう。
ところが、「IT革命で確かに便利にはなったけど、どうやってカネを稼ぐのよ」という点に答えがなかった。新興のネットベンチャーがいくら時価総額を膨らませても、持続的にキャッシュを生み出す仕組みは作れなかった。かくして2000年春、アメリカでは「ミレニアム相場」に沸いていたナスダック市場が失速し、日本ではソフトバンクや光通信の株価が地に落ちた。ハイテク産業の復活には長い時間を要することになる。
21世紀版のIT革命は「バラ色」なのか?
それとは対照的に、21世紀版のIT革命はソフトウェア中心で静かに進行した。特にアップル社が送り出した数々の新製品は、新しいサービスのプラットフォームとなった。この間に普及したのがeコマースであり、SNSであり、音楽や動画配信サイトであり、電子決済などである。さまざまな方法で「課金」システムが生み出されたので、新しい国際標準を生み出す”GAFA”企業は向かうところ敵なしとなった。
そんな中で日本企業は、アリババやテンセントといった中国企業の後塵を拝し、遺憾ながら「下請け」の立場に甘んじている。かろうじて半導体製造装置などを得意分野としているものの、それも今回の「アップルショック」の直撃を受けることだろう。
現在進行中の21世紀版IT革命は、AIやビッグデータ、5Gなどによる次なるステージへと続くと目されている。最近ではお役所の文書の中にまで、「第4次産業革命」とか「Society 5.0」といったバズワードが登場する。
しかるにその先に浮かぶ未来は、かならずしもバラ色ではないのではないか。自動運転が実現し、交通渋滞が解消するといったポジティブな変化は大いに結構。
ところが最近の中国で実際に起きたように、数万人規模のコンサート会場からたった1人の指名手配犯が画像認証技術によって割り出される…といった事案を聞くと、そんな世の中は勘弁してほしいと思いたくなる。
管理社会の下で個人のプライバシーは失われ、一握りのエリートが富を独占し、技術を持たない人は移民やAIに職を失われる……いや、そうなる以前に、日進月歩のハイテク機器に全然ついていけなくて哀しい思いをしている、という人は少なくないだろう。
21世紀版のIT革命は、そろそろこの辺で調整期を迎えてもいいのではないか。次なるイノベーションを受け入れられるほど、人間社会は成熟していない。GAFA礼賛論もそろそろ鼻についてきた。AI社会の到来も、もう少し先でいい。マーケット的には少々、痛い思いをするかもしれないが、米中新冷戦はかかる変化を遅らせてくれる天の配剤かもしれない。2019年が、本当の意味で「亥固まる」年になってくれることを望むところである。
さて、お立合い。今年も懲りずに最後は競馬コーナーである。この週末のシンザン記念は出世レース。昨年このレースを勝ったアーモンドアイは、それから牝馬3冠を次々に制し、ついにはジャパンカップをレコード勝ちして1年を終えている。今年も括目してダイヤの原石を探してみたいところだ。
年明け3歳馬はまだキャリアが少なく、判断材料も不足している。それでも狙ってみたい馬がいる。
シンザン記念の本命はヴァルディゼール
ヴァルディゼールはキャリア1戦のみとはいえ、昨年11月10日の2歳新馬戦の勝ちは目覚ましいものだった。今を時めくロードカナロア産駒で、母父ハーツクライという血統も関心をそそる。
普通だったら、2連勝でこのレースを迎えるアントリューズあたりから流すところだが、このレースの主眼は未来のG1ホースを見出すことにあり。だったらここはヴァルディゼールで「エイヤッ」と単勝で勝負してみたい。
2019年は不透明性の年。とはいえ、「山より大きなイノシシは出ない」ともいう。ありがたいことに、競馬は賭けたカネ以上のものを失うことはない。ここはひとつ、亥年の運試しと行ってみよう。