「草刈機まさお」「社長芝耕作」、世界を走る

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「草刈機まさお」「社長芝耕作」、世界を走る
キャニコム、米国では「ブッシュカッタージョージ」展開

「草刈機まさお」など、ダジャレの利いた製品名と大胆なデザインの農機で成長を続けている。中小企業ながら100カ国進出の目標を掲げ、世界各地の需要を刈り取る。

「草刈機まさお」「代表取締役社長 芝耕作」……。地味な存在と思われがちな農機業界で、ダジャレを利かせた名前の様々な製品を商品化しているのが、福岡県うきは市に本社を置く農機メーカーのキャニコムだ。

9月下旬、同社を訪れると、派手なスーツに紫色のシャツを着た包行(かねゆき)均会長が笑顔で出迎えてくれた。名刺には「ネーミングの包行」と書かれている。「アルファベットや数字を並べた製品名では機能が分からない。特徴が伝わり、ついでにクスッと笑える名前がいい」と包行会長は話す。

「ぼやき」から開発アイデア
 
キャニコムは草刈り機を中心に年間8500台の農機具を販売し、右肩上がりで成長。2017年12月期の売上高は60億円を超えた。独特なネーミングによる製品の知名度向上が好業績を支える理由の一つだが、同社の強みはそれだけではない。利用者の肉体的・精神的負担を減らす様々な工夫が農林業の従事者を中心に支持されている。

DATA
キャニコム
1955年設立
本社 福岡県うきは市吉井町福益
90-1
資本金 1億円
会長 包行 均
売上高 60億6000万円
(2017年12月期)
従業員数 233人
事業内容 草刈り作業車や運搬車の製造・販売
ニッチな農機市場を開拓する

●キャニコムの売上高推移

包行家は筑後地方で刀鍛冶を代々営んできた。戦後、包行会長の父の代となり、農業用トレーラーに参入。しかし、競争環境が厳しく、販売は思うように伸びない。

転機となったのは1978年。林業の現場を視察したときだった。当時は山道で馬が木材を運搬する時代。ある女性が「馬の世話をしなければならないので、嫁いでから30年間、一度も旅行に行ったことがない」とぼやいた。

この女性の声にヒントを得て、狭い山道を行き来しやすい木材の運搬機を開発。累計2万台のヒットとなりキャニコムの礎を築いた。

次に目を付けたのは、果樹園などでの下草刈り作業。下を向いて腰を曲げての重労働だった。そこで開発したのが「草刈機まさお」。

車高が低く、ゴーカートのような感覚で運転でき、楽しく草刈りをできるようにした。ギアを工夫し、30度の険しい傾斜にも対応。特徴的なネーミングも相まって、年間販売が3000台を超すキャニコムの主力製品となった。

製品開発の出発点は、常に利用者のぼやきを聞くこと。現場に赴き、ビデオを撮り、「こんな作業がつらい」といった声をかき集め、新商品のアイデアにする。働く人の苦労を取り除くために、事業を通じて「義理と人情を貫く」のが同社の経営哲学。「ものづくりは演歌だ」という社内標語を掲げている。

農機の国内出荷額は3000億円程度。トラクターやコンバインといった平坦で広大な農地で使う機器が中心で、クボタやヤンマーなど大手4社が市場シェアの8割を握る。一方、キャニコムが手掛ける草刈り機や運搬機は、狭い道や傾斜のある土地を狙うニッチ製品。大手の参入を避けられているという。

キャニコムはニッチ戦略を徹底し、土木建設や畜産向けに使う運搬機なども開発し、今では約200種類の製品を取りそろえる。

本社横に併設された工場では多品種少量生産を追求。きつい傾斜に対応するなど特殊な構造の製品が多いので、部品は汎用品を使いにくい。エンジンとタイヤ以外は基本的に自社生産するため、製造コストは高くなる。

例えば、「草刈機まさお」シリーズの上位機種は約150万円。「海外メーカーの競合商品の2倍の値段」(包行会長)という。しかし、取っ手の配置や走行スピードなど、利用者のかゆいところに手が届くような製品設計が、支持を集めている。交換部品は午後3時までの注文なら国内向けは即日配送するという手厚いアフターサービス体制も、顧客満足度の向上につながっている。

「ネーミングの魔術師」を自称するキャニコムの包行均会長

さらに、同社が競争力を高めるために近年力を注ぐのが「DNB戦略」。D=デザイン、N=ネーミング、B=ブランドをそれぞれ意味する。「中小企業はこれまで技術を磨いてばかりで、上手に商品を売る工夫が欠けていた」という包行会長の問題意識が背景にある。

同社は中小企業にもかかわらず、デザイナーを8人雇い、毎年少しずつ農機の外観を変更している。現在は「フォーミュラ・ワン(F1)」の車両にも似た赤と黄色の配色を多くの機器で用いる。

目標は100カ国・100億円
 
キャニコムは国内を中心に業績を拡大してきたが、成長のけん引役としては海外に期待している。主力の草刈り機は、国内では草が生い茂る春夏が需要期で、秋冬は販売が落ち込む。一方、熱帯や南半球では、日本の閑散期に販売を伸ばすことができるからだ。

2005年、米国に本格参入。大型草刈り機「ブッシュ(草むら)カッタージョージ」などを展開。10年には中国でも現地生産を開始した。

海外展開では、現地化を徹底する。例えば、熱帯の東南アジアでは農業向けに年間300日程度は草刈り機が稼働。草の種類も、燃料となる軽油の品質にもばらつきがある。キャニコムでは、営業社員と設計者、デザイン担当者の3人を海外に派遣し、設計から受注までを現地でこなす。出張期間は1カ月以上になることも珍しくないという。

既に46カ国に進出し、売上高に占める海外比率は4割を超す。しかし、目標はさらに大きく「100カ国進出が夢」と包行会長は語る。目指す売上高は100億円。現在、本格進出に向け動いているのが、広大なアフリカ市場だ。本社では身長2mを超すセネガル国籍の社員を雇い、現地の調査に力を入れる。

アフリカの人々を笑わせるネーミングも、きっと包行会長の頭の中には用意されているのだろう。

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