「海亀族」

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技術移転に中国「海亀族」の影
米中対立の根は深い

激しさを増す米中対立。新たな火種は中国の通信機器・スマートフォン(スマホ)大手の華為技術(ファーウェイ)の副会長兼CFO(最高財務責任者)がカナダ当局に逮捕された一件。米国が制裁を科すイランとの違法取引に関わっていた疑いが持たれている。

ファーウェイといえば、欧州やアフリカなどへも通信機器を輸出し、急成長を果たしてきた中国を代表する民営企業だ。日本でもソフトバンクが携帯電話の基地局で採用していることで知られる。ただ、米国はかねてファーウェイの通信機器を通じて中国が不正に通信を傍受しているとして、同社製品を米国市場から締め出してきた。日本を含む同盟国にもファーウェイ製品を使わないよう要請するなど、「包囲網」作りを急いでいる。

米国が締め付けたいのはファーウェイに限らない。米側は中国が半導体やAI(人工知能)などハイテク分野を中心に、米国から不当に技術を持ち出しているとにらむ。

技術流出問題の根は深い。何せ、中国には海外に留学してから帰国し、中国の経済発展を支えてきた「海亀族」と呼ばれる人材が300万人超いる。彼らの中には米国で最先端技術を研究してきた人材も少なくない。こうした人材を通じて、中国は先端技術を海外から吸収している面があるのだ。

中国のネット検索大手で、最近は自動運転技術の開発に力を入れる百度(バイドゥ)の張亜勤総裁はそんな海亀族の先駆け的な存在だ。中国メディアによれば張氏は飛び級で入った中国科学技術大学で10代のうちに修士号を取得。

米国に渡り、ジョージ・ワシントン大学で博士号を得た。入社した米マイクロソフトではアジアの研究開発部門のトップを務め、2014年にバイドゥに転じてからは、検索技術の応用やAI、自動運転などの先端技術の研究を主導している。

張氏が米国に留学した1980年代は、中国でまだ留学が珍しい時代。華やかな経歴を持つ張氏はスーパーエリートといえるが、中国はその後、こうしたエリートを次々と生み出してきた。

「「中国ユニコーン」の創業者も海亀族」

アリババ集団が出資する顔認証技術のスタートアップ、北京曠視科技(メグビー)の創業者、印奇氏は今、中国でもっとも注目を浴びる「海亀族」の1人かもしれない。1988年生まれの印氏は中国の名門、清華大学を卒業後、米コロンビア大学で顔認証技術の開発で成果を挙げたことで知られる。

清華大学時代に知り合った2人の「学友」と共に2011年にメグビーを設立。印氏が持つ技術をベースに顔認証技術の精度を高め、メグビーを中国のユニコーン(非上場ながら10億ドル以上の企業価値を持つ企業)に育て上げた。

共産党員でもある印氏は、李克強首相主催の会議に呼ばれ、AIの動向について解説したこともある。今年30歳と年齢は若いながらも、ハイテク産業を重視する党に対する「ご意見番」のような存在だ。

共産党が印氏のような人材を積極的に育成している点も見逃せない。あらかじめ選抜した優秀な人材を海外に送り込む「千人計画」と呼ぶプロジェクトがそれだ。2008年に立ち上げ、ハイテクなど国が重点分野と定める分野の人材を世界の最先端の研究の場に身を置かせることで自国の産業発展に役立ててきた。対象者には党が資金を支援するなど手厚く優遇しており、トランプ政権も問題視しているとされる。

グローバル経済の下で、有能な人材を介して中国に流れ込む新技術の種。中国の特許出願数も急増し、自前の開発力にも磨きをかける。半導体やAIなどでは、世界トップレベルの水準を誇る技術領域も出てきている。

技術覇権に向けて着々と手を打つ中国。トランプ政権が焦りを強めるのは、こうした事情もある。

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