ロシア揺らぐ「宇宙大国」

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ロシア揺らぐ「宇宙大国」 打ち上げ事故が影

ロシアは3日、宇宙船「ソユーズ」を国際宇宙ステーション(ISS)へ打ち上げ、10月の事故から中断していた有人宇宙飛行を再開した。原因を早期に突き止め、2カ月足らずで再開にこぎ着けたものの、ロシアの宇宙技術分野でのトラブルは近年頻発している。背景には人材不足や国営企業の独占で技術革新が進まないといった課題があるとみられる。旧ソ連時代に国の威信をかけて発展を遂げた「宇宙大国」の信頼は揺らいでいる。

3日、中央アジア・カザフスタンのバイコヌール基地。ロシア、米国、カナダの宇宙飛行士3人を乗せたソユーズが空へと飛び立った。ソユーズは約6時間後にISSにドッキングし、無事宇宙に到着した。「厳しい試練を乗り越え、ISSにいる乗組員を誇りに思う。どれほどのプレッシャーだったか想像できるだろう」。同日夜の記者会見で、国営宇宙開発企業ロスコスモスのドミトリー・ロゴジン社長は安堵の表情を浮かべた。

■35年ぶりの重大事故

10月11日の前回の打ち上げは有人飛行の事故のリスクを改めて認識させた。発射から約2分後に異常が発生。搭乗していた米ロの宇宙飛行士2人は緊急脱出し無事帰還した。ソユーズの有人打ち上げ時の重大事故は35年ぶり。政府の事故調査委員会はすぐさまロケットのブースターを切り離す時に作動するセンサー部品のゆがみが原因と特定し、組み立て時のミスだったとして作業を録画するなどの再発防止策を講じたと発表した。

ロシアの宇宙技術では近年トラブルが相次いでいた。2015、16年にISSに物資を運ぶ無人補給船が打ち上げやドッキングに失敗。17年には衛星を積んだ無人ソユーズと通信が途絶え、巨額の損失を出した。インタファクス通信によると、ソ連時代の1980年代に約3%だった事故率は10~18年に約8%にあがった。ソユーズは米国のスペースシャトルが引退した11年以降、ISSへの唯一の飛行手段。10月の打ち上げ失敗は50年近く死亡事故がないソユーズの高い信頼にも影を落とした。

■ソ連崩壊で人材不足

要因と指摘されるのが人材の不足だ。ソ連崩壊後に宇宙開発予算が大幅に減り、低い賃金などを理由に優秀な人材がほかの分野や国外に流れ、技術者が十分に育たなかった。ソ連時代の熟練技術者が引退し、次世代への継承が進んでいないとの見方が強い。政府は16~25年の宇宙プログラムで約1兆4000億ルーブル(約2兆4000億円)の支出を計画する。13年にかけて積み増してきた宇宙関連予算は14年の原油価格下落に伴う財政危機などの影響で縮小傾向にある。

非効率な生産構造を指摘する意見もある。ロシアの民間ロケット開発企業「S7スペース」で顧問を務めるアンドレイ・イオーニン氏によると、欧米の宇宙業界で90年代に統合や効率化が進んだのに対し、ロシアは50年代に形成された産業構造にとどまっている。連邦宇宙局は国営企業などと統合し、16年に国営ロスコスモス社に衣替えしたが、国営企業の独占で自由な競争が働きにくく、米国のように民間ベンチャーなどをいかした官民共同事業や技術開発への移行は鈍いという。

ロスコスモスの汚職疑惑もくすぶる。「数十億(ルーブル)が事実上盗まれた」。改革派として知られる元財務相のアレクセイ・クドリン会計検査院長官は11月下旬、国営テレビのインタビューでロスコスモスの財務不正について調査していると明らかにした。

高すぎる調達価格や凍結状態の事業への巨額の支出などの問題が見つかったという。8月にはソユーズの製造を担う関連会社の役員らが不正に金銭を得た詐欺容疑で拘束された。検察当局はロスコスモスに絡み、11月時点で16件の刑事事件が告発されたとしている。

■冷戦時代の遺産に依存

ロシアの宇宙技術は冷戦時代の遺産に支えられてきた。ソ連は世界初の人工衛星を57年に打ち上げ、61年にユーリ・ガガーリンが人類初の宇宙飛行を達成。71年には米国に先駆けて宇宙ステーションを開いた。

イオーニン氏は「核兵器を運ぶ手段の確保や米国との開発競争といった地政学的な狙いが薄れ、国が目標を見失い、宇宙開発の優先順位が下がっている」と懸念する。予算増額や新たな設備の導入では解決できず、問題は根深い。

ロシアのロケット打ち上げ回数はここ数年減少している。ロシアの専門家によると、18年はこれまでに11回と米国や中国の半分未満にとどまる。米航空宇宙局(NASA)が委託する米宇宙ベンチャー企業スペースXが19年にも有人飛行を計画するなど民間企業の参入にも期待が高まっている。

世界をリードしてきた宇宙産業の衰退に歯止めをかける手立てをロシアは見いだせていない。

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