「人気取り政策」

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韓国・文政権の「人気取り政策」が限界に達している理由

文在寅大統領の
支持率低下に歯止めがかからない
 
韓国、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率低下になかなか歯止めがかからない。外からは、文大統領は政権を維持するため、なりふり構っていられない状況に陥っているように見える。

今のところ、文大統領の最大の点数稼ぎは北朝鮮との融和策の促進とみられる。その意味では、同大統領の頼みの綱は、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長ということになりそうだ。ただ、現在、その「頼みの綱」も大きな進展が見られない。同大統領の政権運営の厳しさは増している。

2017年5月に文政権が発足した時、同氏への支持率は80%を超えていた。当時の韓国経済は緩やかな回復を維持していた。その中で、有権者は革新を重視する文氏の有言実行を期待した。有権者は文氏に、政財界の癒着スキャンダルにまみれた朴前政権までの政策との決別や、所得再分配への取り組みを求めた。

しかし、短期間に一国全体の経済構造を変えることは難しい。

それには、長期の視点と揺るがぬ決意(コミットメント)が必要だ。同時に、改革は一時的な失業などの痛みを伴う。これまでのところ、文氏は財閥依存度の高い経済構造を変えることができていない。経済を変えると声高らかに宣言したにもかかわらず、それが実行できなければ同氏が有権者の不信を買うのはある意味では当然といえるだろう。

現在、文氏は実行ができていない状況を、何とか「他の案件」で埋め合わせようと必死のようだ。その政治姿勢で韓国が長期的に国力を高めることができるかは不安である。

大統領支持率と
韓国の国民性
 
韓国の事情に詳しい専門家の中には、「大統領支持率の推移には韓国の国民性がよく表れている」との指摘もある。端的に言えば、熱しやすく、冷めやすい韓国の国民性も寄与しているのかもしれない。

文氏は、朴前大統領への不満をうまくすくい取ることで大統領の地位を手に入れた。その主張は、財閥に依存して成長を遂げてきた経済から脱却し、国民の所得が増えるように改革を進めるというものだった。

当時、アジア地域の景気は、中国のインフラ投資等に支えられ、上向いていた。その状況下、韓国の有権者心理には、「革新派の政治家が自分たちの暮らしを楽にしてくれる」と期待するだけのゆとりがあった。それが、文氏への熱狂的な支持につながった。

ただ、実際に財閥中心の経済を改革することは容易ではない。

サムスン電子の売上高は韓国GDPの15%程度に達する。サムスンなどの成長が韓国経済を支えているのが実態である。やみくもに財閥を解体すれば、経済を壊しかねない。本当に文大統領が経済改革を進めるのであれば、長期の視点で規制緩和や起業支援などを進めることが不可欠だ。

しかし、文大統領にはその肝心な「長期の視点」が欠けていた。

同氏は成長から分配へ政策をシフトすることを主張した。その目玉が、最低賃金の引き上げだった。これに対して、企業経営者が反発するのは当然だ。7月、文大統領は最低賃金引き上げの公約を撤回せざるを得なくなった。

有権者にとって、公約の撤回は期待を裏切ることに他ならない。最低賃金引き上げが頓挫するとともに、支持率は低下した。見方を変えれば、一時の熱狂が冷め、「改革は容易ではない」という厳しい現実を理解する有権者が増えたということだろう。

9月の南北首脳会談後は支持率が持ち直すかに思われたが、そうはなっていない。11月最終週の時点で支持率は48%台に落ち込み、不支持の割合は文政権発足後の最高水準に達した。文大統領の「実力」に気づき始めた有権者は増えている。

北朝鮮を
「頼みの綱」とする文大統領
 
文大統領が支持率回復のために重視しているのが、北朝鮮との融和政策の強化だ。

国内の不満が高まる中で、文大統領は有権者の目線を経済政策の失敗から国外の問題に向けさせようとしている。韓国大法院(最高裁)が徴用工の問題でわが国企業に損害賠償の支払いを命じたのは、この考えに沿った「人気取り政策」が反映されているといえよう。日本企業への賠償請求に関して文政権は、判決を遅らせた理由で大法院の判事に逮捕状まで請求している。

文政権には、「司法権の独立」を尊重する精神は感じられない。

1965年の日韓請求権協定によって、日韓両国は過去の請求問題が“完全かつ最終的に解決”されたことで合意した。国際政治において、国家間の協定を一方的に反故にすることはありえない。それは、「国家の信頼」そのものをなくす行為だ。

支持率回復には何でもやるという文氏の追い込まれた姿が目に浮かぶようだ。

その上、年内に北朝鮮の金正恩委員長のソウル訪問を実現させようと、文大統領は躍起になっている。経済政策が行き詰まる中、北朝鮮との融和政策の強調は、文政権にとって支持率回復の「切り札」といえる。金委員長の訪韓を実現し、それを国全体で歓迎してハッピーな雰囲気を醸し出すことで点数を稼ぐことを文氏は狙っている。

ただ、度重なる南北首脳会談にもかかわらず、北朝鮮と米国の交渉は進んでいない。韓国在住の知人に聞いたところ、次回の首脳会談をソウルで開催することに文大統領がこだわるあまり、「北朝鮮への譲歩が行き過ぎている」との批判的な見方は増えつつあるようだ。

韓国には米軍が駐留している。金委員長がその韓国を訪問するということは、丸腰で敵陣に乗り込むことに等しい。強大な指導者としてのイメージを民衆に植え付け支配基盤を強化したい金委員長が、文政権の要請にやすやすと応じるとは考えづらい。

朝鮮半島情勢の中で
孤立しつつある韓国
 
現在の北朝鮮・金委員長にとって、韓国と首脳会談を行う必要性は低下しているはずだ。なぜなら、6月の米朝首脳会談にて、北朝鮮は体制維持のための「時間稼ぎ」に成功したからだ。北朝鮮は朝鮮半島の非核化にコミットすると表明した。

見返りとして、米国は北朝鮮の「体制維持」を保証した。会談の前日に金委員長がシンガポール市内を散策し、上機嫌だったことを見ると、“落としどころ”は初めからわかっていたに違いない。

米国から「体制維持の保証」を取り付けた金委員長は、米国との貿易戦争に直面する中国との関係強化に取り組んでいる。中国からのバックアップを得た上で同委員長は米国との交渉を行い、制裁の解除などを通して社会体制を立て直したい。

それは、金一族の支配基盤を強化することに他ならない。

現在の北朝鮮にとって重要なのは、中国との関係を強めつつ、時間を稼ぐことだ。すでに、北朝鮮と中国の関係強化は、ロシアの対北朝鮮政策にも影響を与えている。ロシアとしても、極東地域での影響力を強めるために北朝鮮との関係は欠かせない。

北朝鮮は主要国との交渉の門戸を開くために韓国との会談に応じた。金委員長が米中ロと交渉を進めやすくなった状況下、北朝鮮が韓国と会談する意義はかなり低下している。

中国経済の減速を受けて韓国の景況感も悪化している。支持率回復の頼みの綱である北朝鮮の関心は、韓国ではなく、米中などの大国に向かっている。その中で文大統領が有権者からの信頼を得ていくことはかなり難しいだろう。そうなると、韓国政府からわが国への批判・要請はさらに強くなることも考えられる。

今後、極東地域における韓国の孤立は一段と高まる恐れがある。

有権者は文大統領の公約が実現性を伴っていないとの見方を強めるだろう。支持率の動向を見る限り、韓国世論は自国の大統領が、都合の悪いことを糊塗(こと)しようとしていることを見透かしているとも解釈できる。この状況下、文氏が人気回復のためにやっていることは徒労に終わる可能性が高そうだ。

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