「外交揺らす韓国憲法」

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外交揺らす韓国憲法 世論優先の政権、司法と共鳴

日韓関係の法的基盤を根底から覆した韓国大法院(最高裁)の韓国人元徴用工判決。日本企業への相次ぐ賠償命令の根拠に持ちだしたのが憲法だ。そこに書かれた99年前の出来事が今なお日韓外交を揺らしている。

日本の判決は植民地支配が合法であるという認識を前提にしており、韓国憲法の価値観に反する」

新日鉄住金、三菱重工業への賠償命令が確定した10月30日と11月29日の最高裁の判決はおおよそ予想された内容だった。2012年、個人の賠償請求権は消滅していないとし元徴用工ら原告敗訴の二審判決を破棄、高裁に差し戻した時点で流れは決まっていた。

戦後、14年もの交渉を経て1965年に結んだ日韓請求権協定は「両国と国民の財産、権利及び利益、並びに請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決された」と明記した。12年の最高裁判決はこれを「憲法の価値観に反する」と批判した。

韓国憲法は「すべての国民は人間としての尊厳及び価値を有し、幸福を追求する権利を有する」「すべての権力は国民から由来する」とある。17年に朴槿恵(パク・クネ)大統領の罷免を決めたのも憲法裁判所だった。

さらに着目すべきは、憲法の成立経緯と理念を示した前文だ。

「韓国は三・一運動により建立された大韓民国臨時政府の法統及び不義に抗拒した四・一九民主理念を継承し……」

つまり、韓国は日本による植民地時代の1919年に日本の警察や軍と衝突し、多くの死傷者を出した独立運動「三・一運動」と、海外に逃れた運動家が同年から中国の上海や重慶で活動の拠点とした組織(臨時政府)を正式に引き継いだ国家だと憲法で定めている。

臨時政府は朝鮮半島に存在せず、国際機関の承認も得られなかった。だが、憲法は抗日組織である臨時政府が、10年に幕を閉じた大韓帝国から新生・韓国につないだかのような書きぶりだ。

「韓国は憲法で『反日』を宣言している」といわれるのはこのためだ。

10年の日韓併合条約を「無効・違法」とするのが韓国の立場だ。35年にわたる植民地支配がそもそも不法だから韓国人元徴用工の請求権は有効、という最高裁のロジックは憲法に原点がみえる。

韓国司法には、軍事独裁下で民衆への人権弾圧の道具に利用されたとの反省がある。現行憲法ができたのは韓国が民主化した87年。国民の基本権を保護するために設置された憲法裁とともに民主化の成果とされる。世論=民心を最上位に置く文在寅(ムン・ジェイン)政権と司法が共鳴したのが最高裁判決だ。法治国家としての一貫性を問われる結果を招いた。

慰安婦問題が日韓最大の外交懸案に発展したのも憲法が引き金だった。2011年に憲法裁が「日本と外交交渉しないのは、元慰安婦らの権利を侵害し違憲」と判断したためだ。

司法が日韓外交の破綻を食い止めた例もある。

09年、韓国人男性の遺族が日韓請求権協定は財産権侵害で韓国憲法に違反すると訴えた。朴槿恵政権の15年12月に憲法裁は「審判の要件を満たしていない」と却下した。

裁判の5日後、日韓両政府は慰安婦問題に関する合意を発表した。仮に憲法裁が違憲判断を下していれば、協定は韓国内で効力を失い、韓国政府は日本との再交渉を迫られていたといわれる。

朝鮮半島出身の労働者が劣悪な環境下で日本企業に従事していたのは疑いない。溝が埋まらない歴史認識をあえて曖昧にし、日本からの資金を元手に韓国政府の責任で元徴用工らに補償するとの決着方法を選んだのは韓国も同じだ。「外交の妙」「知恵」と評価した声は国内にもあった。

2005年、ときの盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は個人請求権問題を整理し、元徴用工は日本との協定の対象に含まれるとの結論を公表。文氏も当時、大統領秘書官として検討に加わっていた。

「韓国憲法の価値観」はその事実さえ消してしまうのか。韓国政府が年内に発表する予定の最高裁判決への対応策は、日韓関係の分水嶺になる。

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