「米中貿易戦争はアメリカ完勝になる」

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武者氏「米中貿易戦争はアメリカ完勝になる」
いずれ日米の株価は「もう一段の上昇」へ

アメリカと中国の貿易戦争は長期化の様相を呈しつつある。表向きは2国間の貿易不均衡をめぐる交渉だが、実態は覇権をめぐる争いであり、砲弾が飛び交わない戦争だ。

この先には何があるのか。何より、両国と深い関係を持つ日本の経済や株にどんな影響を及ぼすのか。前回(「日本の株価が大きく上昇すると読む理由」)に引き続き、武者リサーチ代表の武者陵司氏に話を聞く。

「アメリカはトランプ大統領で没落する」は本当か?

最近、アメリカを中心とする資本主義に懐疑的な目を向ける人が増えています。国際政治学者のイアン・ブレマーは、「アメリカの時代は終わった」と明言していますし、日本でもリベラル派はもとより、保守系論客の中にも、「トランプ大統領によってアメリカはいよいよ没落する」などと発言する人が増えてきました。はたして本当でしょうか。

アメリカはもちろん、日本にもドナルド・トランプ大統領が嫌いという人は大勢います。「トランプ大統領、好きですか?」と聞くと、恐らくかなりの人は「ノー」と言うでしょう。確かに、口だけでなく素行も悪い。見た目の押し出しの強さに加えて、けんか腰の言葉を聞くと、もうそれだけで「結構です」と言う人が多いのは、無理のないところだと思います。

でも、ちょっと考えてみてください。口も素行も悪いトランプ大統領ですが、彼は大統領選挙の時の公約を、着々と実行に移しています。すでに規制緩和だけでなく画期的な税制改正も実現しました。

不法移民を認めない政策については、随分と論争が繰り広げられているものの、そもそも法を犯して入国している人たちなのですから、国家としてそれを認めないのは当たり前のことです。これだけ、選挙時に打ち出した公約を、すべて実行している大統領は、今まで見たことがありません。

他国との通商問題については、まさに今、中国との間で貿易戦争が深刻化・長期化しようとしていますが、トランプ大統領の矛先は中国だけでなく、欧州にも向けられています。

アメリカは本当に孤立主義なのか?

このように世界中と通商問題で対峙し、高関税をかけることで相手から譲歩を得ようとするスタンスは、ともすれば孤立主義に見られるのは事実ですし、論者の一部からは、アメリカの保護主義的な態度が世界経済のブロック化を進め、世界恐慌から第2次世界大戦の悪夢を招いた歴史の再現になるのでははないかと懸念する声も上がっています。

しかし、アメリカが孤立主義・保護主義的な政策をさらに強め、極端な話、国を閉ざすことまでできるかといえば、それは不可能です。何しろアメリカの必要物資(財)は、9割が海外からの輸入に頼っています。

またアメリカ企業は世界中(中国を除く)のインターネット空間を支配し、世界中から富をかき集める仕組みを構築し、それがアメリカの経常収支を大きく改善させています。

アメリカの国益は、孤立主義・保護主義の対極にあるのです。そしてトランプ大統領は、もちろんその事実を知っています。知ったうえで、中国からの輸入品に対して高関税をかけ、揺さぶりをかけているのです。つまり、トランプ大統領の保護主義的な発言は、あくまでもトランプ流の戦術にすぎず、本質的な戦略は、あくまでもグローバルなのです。

WTOは機能したのか?

現在、トランプ大統領は日本をはじめとした諸外国と、二国間による話し合いを中心にして、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)を順次、締結しようとしています。

これは明らかにGATT(関税および貿易に関する一般協定)と、その流れを汲むWTO(世界貿易機関)の精神に反します。

なぜなら、WTOは国際的な貿易のルールを決めるにあたって、加盟国の全会一致を前提にしているからです。二国間でFTAやEPAを交渉し締結すると、ほかの国の排除につながるおそれがあると考えています。

だからこそ、WTOは何を決めるにせよ、多国間交渉による全会一致を原則としているのです。したがって、トランプ大統領が推進している二国間交渉は、WTOの精神に反するもの、ということになります。

アメリカが中国のルール無視を看過しないのは当然

しかし、本当にWTOの精神は正しかったのか、機能したのかということを、私たちは今一度、考える必要があると思います。WTOは、GATTの後を継いで誕生しましたが、先進国と新興国との間で対立が生じ、2001年から機能停止に陥り、現在に至っています。この年、WTOに加盟したのが中国でした。

結局、WTOが機能不全に陥っているなか、中国は国際貿易のルールを無視した形で経済規模を拡大し、アメリカを差し置いて覇権国家になろうとしています。アメリカがこれを看過するわけにはいきません。

かつて日本が、経済力でアメリカを追い越しそうになった時に行われたように、今度は中国に対して、アメリカは封じ込めを行おうとするはずです。

その中国と蜜月状態にあるドイツに対しても、トランプ大統領は厳しい目を向けています。ドイツは今、世界で最大の経常黒字国ですが、その積み上げられた黒字を、南欧諸国へのファイナンスに回しています。

これがドイツによる南欧諸国に対する金融支配につながるのではないかという懸念を、トランプ大統領は強く抱いています。

ましてや自動車関税についても、EUからアメリカへのそれは2.5%であるのに対し、アメリカからEUへのそれは10%ですから、トランプ大統領が「アンフェアだ」と主張するのも当然でしょう。

言葉が悪く、従来の常識や手法を無視しているのでつい誤解されてしまいますが、トランプ大統領は、大統領として選挙民から委託された政策を、きちんとやっているのです。

勝負が見えた米中貿易戦争

とはいえ、問題は米中貿易戦争が、どこまでエスカレートするのかということでしょう。関税引き上げ合戦が止めどもなく進めば、世界経済にとって大きなマイナスになりますし、この点を懸念する人が多いのも事実です。もし、そのような事態になれば、日本の株式市場にとっても、ネガティブな影響が及びます。

しかし、そうはならないと思います。米中戦争は、アメリカの勝利で終わることは確実です。そもそも中国がここまで経済的に発展できたのは、アメリカから中国への巨額の所得移転が行われたからです。

「日米とも、株価はもう一段上にいく」と読む理由

たとえば、アメリカの2017年の対中貿易赤字は3750億ドルで、アメリカの貿易赤字全体の約半分を占めます。また、アメリカの対中経常赤字は、この10年間、GDP比で2%にもなります。アメリカ全体の経常赤字は、GDP比で2.4%なので、ほとんどの赤字は対中国によるものであるのがわかります。

中国はアメリカに譲歩せざるを得ない

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アメリカは今後、GDP比で2%を占める対中経常赤字を1.5%、あるいは1.0%に引き下げる手段を講じてくるでしょう。

そして、中国はアメリカに譲歩せざるをえません。なぜなら、米中貿易において、中国は圧倒的に受益者だからです。

もし、アメリカが中国との貿易を完全に途絶すれば、先に白旗を上げるのは中国です。中国は、アメリカから得ている利益を失わないようにするためにも、アメリカが提示してくる要求をのまざるをえないのです。実際メンツを維持しつつも、習近平政権の対米姿勢は、著しく融和的です。

そればかりか中国では、アメリカを本当に怒らせた習近平政権の失政に対する批判が高まっているといわれています。

また米中貿易摩擦の結果予想されるダメージを緩和するために、財政拡大、金融緩和などの景気テコ入れ策が策定されています。

このように考えると、米中貿易戦争は当面の世界経済にも株式市場にとっても、マイナス要因ではないことが明らかです。市場がこれに気づいた時、株価の重石がなくなり、日米ともに株価はもう一段高を目指すことになるでしょう。

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