「北方領土はあきらめろ」

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安倍総理も苦笑い…プーチン「平和条約提案」の怖すぎる真意
「北方領土はあきらめろ」そして…

北方領土の解決抜きで平和条約…?

ロシアのプーチン大統領が存在感を発揮している。9月12日にはウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムの壇上で突如、同席した安倍晋三首相に「年末までに平和条約を締結しよう」と提案した。大統領の思惑は、どこにあるのか。

プーチン氏は「われわれは70年にわたって交渉してきた。安倍首相はアプローチを変えよう、と提案した。私の考えはこうだ。(日本とロシアが)平和条約を今ではないが、今年が終わる前に、前提条件を付けずに締結しよう」と語った。

ブルームバーグによれば、安倍首相は返事をしなかったが「聴衆は喝采した」という。安倍首相が答えなかったのは当然だ。日本は「北方領土問題を解決して日ロの国境を確定したうえで、平和条約を結ぶ」というのが基本的方針である

プーチン氏は提案について「いま思いついたことだが、ジョークではない」と語り、ロシアの外務次官は「(提案は)日本への事前通告なしだった」と説明している。大統領が、どこまで本気だったかは疑わしい。一種のスタンドプレーだった可能性もある。

安倍首相は壇上で苦笑いしていた。あえて前向きに受け止めれば、そんな話を公衆の前でできるほど、2人は率直な関係を築いている、と評価できるかもしれない。

そもそも平和条約とは何か。法的に戦争状態にある2国が戦争の終結を宣言して締結する条約だ。日本はロシアの前身である旧ソ連と戦ったが、1945年8月15日にポツダム宣言を受諾し、9月2日に降伏文書に調印した。

旧ソ連軍は日本がポツダム宣言を受諾した後、北方領土に入り、9月5日までに北方領土を順次、占領した。その後、一方的にロシア領土への編入を宣言した。日本は51年に米国などとサンフランシスコ平和条約を結んだが、旧ソ連はこれに調印しなかった。

以上の経過から、日本がロシアと平和条約を結ぶには、まず日本の領土である北方領土を返してもらって、国境線を確定することが前提になる。戦争後の領土の帰属を最終的に確定するのが、平和条約の役割そのものと言ってもいい。

北方領土問題の解決抜きで平和条約を結んでしまえば、ロシアの領土編入を既成事実として認める結果になりかねない。プーチン氏は「前提条件を付けずに平和条約締結を」と提案したが、日本にとっては「北方領土はもうあきらめろ」と言われたのも同然なのだ。

「北方領土がだれのものか決まっていないが、とりあえず棚上げして平和条約を結ぼう」と言っても、世界史をみれば、領土の争いが戦争になった例はいくらでもある。「戦争の火種を残す平和条約」というのは原理的矛盾だ。それでは平和条約にならない。

「米軍基地」という難題
さて、東方経済フォーラムには常連の安倍晋三首相に加え、中国の習近平国家主席も初めて参加した。習氏は共産党や国営企業の幹部ら600人を引き連れていた。ロシアは同じタイミングで、冷戦後最大規模となる軍事演習を実施した。

フォーラムと軍事演習は、プーチン氏にとってロシアの存在感を世界にアピールする絶好の機会になったのは言うまでもない。

安倍首相がプーチン氏と会談したのは、これで22回目だ。5月に会ったときも首脳会談に先立って、同じロシア国際会議協会が主催したサンクトペテルブルク国際経済フォーラムにプーチン氏とともに出席している(https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/rss/hoppo/page25_001358.html)。

今回の首脳会談では、北方領土で日ロが進める共同経済活動に関して、海産物の共同開発や温室野菜栽培など5つの事業のスケジュールを確認した。日本の一部には「共同経済活動よりも、真正面から北方領土交渉に取り組むべきだ」という意見もある。

安倍政権は、まず経済協力を進めて「その先に領土問題の解決がある」というスタンスである。私は経済優先アプローチに賛成する。いくら日本が「返せ、返せ」と叫んでも、相手がその気にならなければ、話は前に進まないだろう。

まさか、軍事力で奪い返すわけにもいかない。結局は「相手がその気になるかどうか」の勝負なのだ。となれば、相手に「返したほうが得だ」と思わせるためには、日本が経済的メリットを示すことが、もっとも効果的ではないか。

北方領土問題には、安全保障と軍事が絡んだ難題もある。

米国は日米安保条約に基づいて、必要なら、日本のどこにでも米軍基地を置くように求めることができる。外務省の解釈によれば、日本の同意は必要だが、合理的な理由がない限り、日本が拒否する事態は想定されていない。ということは、北方領土が返還されれば、米国はその島にも米軍基地を置くかもしれない。

ロシアとすれば、米軍基地ができる可能性があると分かっているのに、北方領土を返す気にはならないだろう。ここでは、米国が鍵を握っている。日本と米国、ロシアの間で、米軍基地問題について友好的な合意が成立しない限り、領土問題の解決は難しい。
まさか、金正恩と…?
大前提になるのは、まず日本とロシアの信頼関係である。それから良好な日米関係。これは現状、申し分ない。最後が米国とロシアの信頼関係だ。米ロ関係は史上最悪と言われているが、7月の米ロ首脳会談で改善に向かう兆しもある。

プーチン氏は安倍首相と会った後、中国の習近平国家主席と会談した。習氏は対ロ貿易や投資の拡大を約束するとともに、同時に実施されたロシアの軍事演習に大規模な中国軍部隊を派遣し、ロシアとの蜜月関係を誇示した。

一方で、プーチン氏は安倍首相と10月の再会談を約束した。自衛隊制服組トップの河野克俊統合参謀長の10月訪ロを受け入れ、軍事当局者同士の交流を促進する姿勢も見せた。中国との連携を進めながら、日本との友好関係も強化しようとしている。

このあたりがプーチン氏のしたたかさである。中国と日本を両天秤にかけて、互いにけん制する効果を狙っているのだ。結果的に、ロシアの存在感を高める思惑が見え隠れする。突然の平和条約発言も、中国をけん制する思惑の延長線上で思いついたのかもしれない。ロシアの日本接近を一番、嫌がるのは中国だ。

もう1つ、プーチン外交で見落とせないのは、いまだに北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長とは会談していない点だ。金氏は中国の習主席とは、もう3度も会った。ところが、プーチン氏と首脳会談は「いつか開かれるだろう」との観測が流れているが、まだ1度も実現していない。

それはなぜか。「自分を安売りして、中国の風下に立ちたくない」という理由は容易に推察できる。もっと積極的に、決定的な出番を狙っているのかもしれない。自分が主導権を握って、朝鮮半島情勢の行方を左右するような機会を待っているのだ。

いつロ朝首脳会談は開かれるのか。プーチン氏の動向は朝鮮半島問題をめぐっても、目が離せない。

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