「特定空き家」

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固定資産税が6倍に跳ね上がる「特定空き家」の恐ろしさ

お盆休みで実家に帰省している人も多いはず。久しぶりに家族と顔を合わせるせっかくの機会、相続や不動産などお金にまつわる「実家の大問題」を家族で話し合ってみては?

2015年5月、空き家対策特別措置法が成立し、都内初の行政代執行が東京都葛飾区で行われた。その空き家特措法の威力とはどんなものか。検証していこう。

「それでは、作業を開始してください」──。16年3月、東京都葛飾区は、空き家対策特別措置法(空き家特措法。詳細は後述)を適用し、都内初となる空き家の解体を目的とした行政代執行に踏み切った。

しかも、全国初のケースとなる空き家の所有者を特定した代執行だったこともあり、同じ問題を抱える新宿区など、他の東京特別区の担当者も見学に押し寄せた。
 
葛飾区の空き家の数は、2013年の「住宅・土地統計調査」によれば、約2.5万戸。空き家率は11.1%だ。このうち、賃貸用や売却用などを除いた「腐朽・破損のある住宅」、いわゆる「特定空き家」に相当する危険な住宅は1320戸に上る。

 
今回、解体されたのは、その中の1軒、木造2階建ての一戸建てで、20年以上にわたって空き家として放置されてきたという。
 
国土交通省のまとめでは、15年7月の長崎県新上五島町を手始めに、今年3月までに、自治体名を非公表とする事例を含めて、計9区市町で代執行を実施した。

一部自治体は財産権への介入になる空き家への代執行に及び腰
 
かつて建築基準法や各自治体の「空き家条例」に基づいて細々と行われてきた代執行が、空き家特措法施行により、全国の自治体で加速しているのだ。とはいえ、一部の自治体は、真っ向から財産権へ介入することになる、所有者が判明している空き家への代執行には及び腰だ。
 
今回の葛飾区の場合は、くだんの空き家の目と鼻の先に京成電鉄本線が走り、また、接道が近隣の公園へ向かう園児の通路となっていたため、「倒壊すれば大惨事になりかねない」(葛飾区)と判断し、代執行に踏み切った。
 
解体費用の約180万円については法律通り、所有者である同区在住の70代女性に請求しているが、「今までのところ、明確に支払う意思は見せていない」(同)。もっとも女性には、マンションなど他の資産があるため、その差し押さえを検討中だ。
 
危険な空き家を解体させただけでなく、実際に強権を発動したこの代執行の効果は絶大だった。「うちの隣の空き家も壊してほしい」といった区民の“通報”により、区が把握した空き家の数は、16年7月までに368戸にまで膨らんでいる。所有者らに通告したところ、89戸の所有者が自ら更地にするなど、解決につながったという。
 
無論、そんな殊勝な所有者ばかりではない。葛飾区は今年中に2戸目の代執行を計画していたが、16年7月中旬、その対象だった建物の所有者から、葛飾区に弁護士の名前で文書が届いたという。
 
いわく「空き家ではなく、倉庫である」──。

これは、空き家問題がより早く顕在化した、地方で横行している“手口”だ。「悪知恵を付けて回っている者がいる」と歯がみするのは、別の自治体幹部。

代執行に伴い、空き家であることを証明するには、公共料金の支払い状況や、近隣住民への聞き取り調査など膨大な労力と時間が必要となる。「倉庫としても利用実態がないことを再度証明するために、一からやり直さなければならなくなった」と葛飾区は肩を落とす。
 
だが、なぜそうまでして、所有者は先延ばしを図るのか。それは特定空き家と認定されることで課せられる税金に理由がある。

「空き家対策特別措置法」の具体的な内容とは

特定空き家になれば
税金が一気に5倍に跳ね上がる

空き家特措法の全体像と、特定空き家に認定された場合、いかに税金がアップするかというシミュレーションを行ったものだ。

まず、あらためて特定空き家の認定基準とは何か。図の上段左にあるように、そのまま放置すれば著しく保安上危険で、衛生上有害であり、かつ景観を損なっている危険な空き家とされている。

近隣住民の苦情から「特定空き家」に認定される可能性も

すなわち倒壊寸前のぼろ家というわけだが、文面を読む限り主観的な解釈が可能であり、明確な基準があるわけではない。
 
先の葛飾区のように、近隣住民から苦情が寄せられて調査が行われれば、行政の判断次第で、特定空き家に認定される可能性もあることになる。
 
少なくとも、行政の“ブラックリスト”には載るわけで、その後住宅の劣化が進めば、いつ何時、特定空き家に認定されるか分かったものではない。
 
次に、特定空き家に認定された場合だが、図の上段右のような段階を経て、最終的に行政代執行に進むことになる。
 
ここで影響が大きいのが、勧告を受けた際に、住宅用地特例から除外されること。これが意味するところは、固定資産税の6分の1減税と都市計画税の3分の1減税がなくなることだ。
 
図の下段を見てほしい。土地の価値を示す課税標準が2400万円の物件のシミュレーションだ。下段左のように、先述の減税がある場合は、固定資産税5万6000円と、都市計画税2万4000円の合計額である、8万円を納めるだけでよい。
 
ところが、だ。特定空き家に認定され、勧告を受けると、下段右にあるように固定資産税は6倍の33万6000円、都市計画税は3倍の7万2000円となり、合計して40万8000円へと一気に5倍強に跳ね上がるのだ。
 
さらに勧告を受けても対処せず、命令の段階まで進めば、最大50万円の罰金が科せられる上、代執行されれば、数百万円もの解体費用を請求されることになる。
 
これが嫌ならば、自ら解体し、更地にするしかないのが、空き家特措法の恐ろしさというわけだ。

2033年に2100万戸超と加速度的に増加

ここまで行政が踏み込むのには、それなりの訳がある。下図の中ほどを見てほしい。
 
空き家の実態を総務省が調査したもので、13年の段階で空き家は全国で820万戸を数えた。さらに5年ごとに調査されることから、18年には軽く1000万戸を超えるとされる。
 
それだけではない。野村総合研究所の試算によれば、それ以降も加速度的に空き家は増え続け、33年には、空き家の数は2167万戸となり、住宅総数約7126万戸に対する空き家率は、実に30.4%にもなるという。

すなわち、3軒に1軒が空き家となる事態が十数年後に訪れるというわけだ。となれば、国や自治体も手をこまねいているわけにはいかず、空き家特措法をもって、私権に踏み込むしかなかった、というわけだ。
 
これまで国は景気浮揚策の一環として、マイホームの取得を促進してきたが、これだけ空き家が増えれば不動産市場は急速に冷え込み、市場の崩壊につながりかねない。
 
また、空き家は犯罪の格好の隠れみのとなり得るため、治安の悪化が避けられない。

事実、空き家の相談員を装って空き家を物色しては窃盗を働いたり、犯罪者や不法滞在している外国人のすみかとなっている事例もすでにある。

急増する空き家は、個人の問題のみならず、社会的問題も孕んでいるのだ。

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