「公約撤回でボロが出た」

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韓国文政権「人気取り政治」の限界、公約撤回でボロが出た

韓国・文在寅大統領の支持率が低下している 
“最低賃金引き上げ”の公約が守れず
韓国・文在寅大統領の支持率は急落

今年6月以降、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率が急落している。その背景には、同氏が掲げてきた“最低賃金引き上げ”の公約が守れなかったことがあるようだ。
 
これまで同大統領は、朴前政権の政財界スキャンダルを巧みに使いつつ、高支持率を維持してきた。それに加えて、北朝鮮との融和促進や経済改革を通した最低賃金の引き上げによる格差是正などを主張してきた。
 
こうした同氏の政治的姿勢を見ると、文氏の政策はやや近視眼的な人気取り政策が多く、長期的な視野で安全保障や韓国社会の持続的な発展を目指した政策とは考えにくい。つまり、文氏はポピュリズム的な政治を進めているように見える。
 
ここへ来ての文氏の支持率急落は、“韓流ポピュリズム政治”の行き詰まりと言えそうだ。この状況が続けば、韓国世論は、文氏と対照的な主張を繰り広げて不満取り込みを狙う政治家の支持に回る可能性がある。
 
また、文政権が融和を進めてきた北朝鮮は、新たな大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に取り組んでいると報じられている。
 
それは、文政権への支持率を低下させる外部要因の一つといえる。すでに韓国の企業経営者からも「文大統領の経済政策にはついていけない」との意見も出始めた。正式な大統領就任から約1年、文政権は今後、正念場を迎えることになりそうだ。

経済の基本的なメカニズムを
無視した文氏の公約

 “2020年、韓国の最低賃金を時給1万ウォン(約1000円)に引き上げる”、文氏はこの公約を経済政策の目玉に掲げてきた。その背景には、財閥系企業とそれ以外の企業の間で拡大してきた経済格差の是正を実現することがある。
 
朴前政権は、財閥企業を重視した経済運営を進めた。文政権は従来の大企業中心の権威主義的政治との決別をうたい、“革新”を目指すことを宣言した。それに伴い、世界的にも例を見ないスピードで最低賃金を引き上げることは、同氏への支持をつなぎとめるために欠かせない取り組みとして重視されてきた。
 
7月、韓国政府は、2019年の最低賃金を約11%引き上げ、時給8350ウォンと決定した。2年続けて、韓国は最低賃金の増加率を2ケタ台で引き上げたことになる。その上で文政権が公約を実現するためには、韓国の企業がさらに最低賃金を20%程度引き上げなければならない。
 
これは、非現実的な目標だ。
 
基本的に、賃金の増加率は経済成長率に従う。2016年、韓国の実質GDP成長率は2.9%、昨年は3.1%だった。2018年1~3月期の成長率は、前期比1.0%、4~6月期は同0.7%と鈍化している。

いずれも、文政権が公約に掲げた最低賃金の引き上げ率には遠く及ばない。この点で、文大統領は、経済の基本的なメカニズムを無視している。むしろ文氏は、韓国の企業に無理強いを行い、公約実現を目指してきたわけだ。
 
その政策に企業経営者が反発するのは当然だ。
 
政府の要請に応じて無理に賃上げを行えば、経営は悪化する。特に、中小企業にとっては、無理な賃上げは死活問題だ。その状況を回避するためには、企業は人員削減などのリストラ策を進めなければならなくなるだろう。長い目で考えると、文氏の公約は、韓国の雇用環境の悪化、経済成長率の下振れリスクを高める恐れがある。

文大統領に不満募らす韓国世論

企業経営者からの反対に直面して初めて、文大統領は自らが重視してきた公約の無謀さに気づき、公約の達成をあきらめた。それが同氏の「公約を守れず申し訳ない」との謝罪の弁につながった。

文大統領に
不満募らす韓国世論
 
この状況を受けて、文政権の公約実現を期待してきた韓国の世論。特に労働者からは不満が噴出している。もともと、韓国では、労働組合の影響力が非常に強い。“韓国は労組大国”と指摘する経済の専門家もいる。
 
代表例が、現代自動車の労組だ。毎年のように、彼らは賃上げを要求してきた。経営者が要求を受け入れないと、現代自動車の労組はストライキに踏み切り、要求を押し通してきたのである。この結果、同社の平均給与は9000万ウォン超(円貨換算で900万円超)に達する。これは、トヨタ自動車を上回る水準だ。
 
過去5年間、現代自動車の株価は下落基調で推移している。株式アナリストの中には、労組の賃上げ要求が自動車業界のコスト増加要因になっていると指摘するものが多い。専門家の中には、労組からの賃上げ要求は韓国自動車業界を崩壊させる要因の一つになりかねないとの危惧を持つ者もいる。
 
韓国の労働者は、企業(雇用主)に賃金の積み増しを求め、それを実現することを、当然の権利と扱ってきたわけだ。韓国企業と労組の関係を振り返ると、労働者にとって、勤める企業の経営状態は賃金交渉と関係がないといえる。経営状態が良好でも、悪化していても、毎年のように賃上げが求められてきた。
 
そのため、労働者=弱者と位置づけてきた文政権の公約は、韓国の労働者にとって、“渡りに船”だったはずだ。今年に入ってから行われてきた協議では、労働者側が昨年の最低賃金の水準から、一気に1万ウォンの賃金水準の実現を求めた。明らかに、韓国の労働者サイドには、文政権の公約を利用して、従来以上の賃上げを達成しようとする目論見(もくろみ)があった。
 
こう考えると、文政権が公約実現を断念したマグニチュードは軽視できない。公約の断念は、文氏が、これまで同氏を支持してきた労働者よりも、企業経営者に耳を傾け始めたことを意味するからだ。文氏を支持してきた人々にとって、それは裏切りと映るだろう。

文政権の
レームダック化懸念
 
ある意味、韓国では、政治圧力を通した分配から、企業の成長支援へと政策の是正が進んでいる。今後は、起業支援などを通して民間企業の成長ダイナミズムを高めることが欠かせない。

簡単に言えば、文政権は、市場原理が働きやすい環境を作り、成長期待の高い分野に経済資源が配分されやすい社会を目指すべきだ。それが、韓国経済の所得再分配機能の強化などには欠かせない。
 
文政権が本来あるべき政策を進めるのは難しいだろう。4月の南北首脳会談後、文大統領への支持率は80%近くまで上昇した。7月下旬、支持率は就任以来最低の62%にまで低下している。文氏が大衆の不満に迎合する政策を重視してきただけに、公約を守れなかったことが有権者の離反に直結している。
 
経済面に加え、外交・安全保障面でも、文政権への逆風は強まるだろう。
 
それが、北朝鮮問題だ。北朝鮮の金正恩委員長は、米国との首脳会談で体制維持への確約を取り付けることができた。今後、北朝鮮は中国などからの支援を取り付けつつ、更なる核兵器の開発などを進めるだろう。なぜなら、金独裁政権にとって、核攻撃能力の保有は体制維持のための切り札だからだ。
 
安全保障の専門家の多くが、北朝鮮による核の放棄は考えられず、問題は何ら解決していないと指摘している。米朝首脳会談によって北朝鮮は、時間稼ぎに成功した。それは、今後の朝鮮半島情勢を一段と不安定化させる要因と考えるべきだ。
 
その状況下、北朝鮮との融和を訴えてきた文政権は、真綿で首を絞められるような厳しい状況に直面する可能性がある。文政権が、多様な利害を調整し、韓国社会の安定を目指すことは難しくなる恐れがある。
 
韓国が直面するこうした政治リスクは、わが国にとって他人事ではない。

韓国の政治が低迷し、北朝鮮問題への懸念が高まる場合、世界経済には無視できない影響が及ぶ恐れがある。わが国は必要な改革を進めつつ、EUや世界経済のダイナミズムとして期待を集めるアジア新興国との経済的な関係などを強化し、親日国の確保に注力すればよい。

それが極東地域の安定とわが国の国力増強に必要な取り組みと考える。

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